第1497話 リオデジャネイロへ帰還
ブラジリアからリオデジャネイロに帰還した日向たち。
飛空艇から降りた日向たちを、ジャックとレイカが出迎えてくれた。
そして、その二人の後からもう一人、政府市庁舎のドアを開けて出てきた人物が一人。エドゥアルド・ファミリーのリーダー、エドゥである。
「ジャックから話は聞いタ。俺たちをこの街から避難させるだト?」
エドゥが日向に対して、威圧的に声をかけてきた。
日向は怯むことなくうなずき返事をする。
「ああ。ヴェルデュの進化は続く一方だ。このままじゃ、ここにいる生存者全員を最後まで守るのは難しくなってしまう。いったん安全な場所に退避するべきだ。ロストエデンを倒して、この街の安全が確保できたら、またここに帰すから」
日向に続いて、ジャックもエドゥに話をする。
「ここの生存者の受け入れ先は、アメリカにある俺たちの拠点にするつもりだ。グラウンド・ゼロを倒したからか、レッドラムの出現数も今までよりずっと少ないらしい。百人ちょいの生存者なら、まだ受け入れる余裕はあるはずだぜ」
「……ふン。俺たちはこの街でやっと自由を手に入れたっていうのに、またそれを手放して、貧しい奴らを見下す上流階級の国に来いってのカ」
「ったく、こじらせてんなー。安心しろ、懐の広い連中ばかりだからよ。オマエはクールすぎるから、むしろちょっとイヤになるくらいフレンドリーにされるかもな」
「どうだカ。それより、すぐには出発しないんだロ? ロストエデンとやらのサンプルを持ってきたと聞いタ。さっさとこちらに回セ」
エドゥがそう言ったので、日影と本堂とシャオランが、飛空艇からロストエデンの死体を運び出す。そのまま政府市庁舎の中へ入っていき、ヴェルデュ研究班のもとへ移動させる。
「うぇぇ……バケモノの死体を運ばなきゃならないなんて、気持ち悪いなぁもう……」
「その手で触っている箇所からヴェルデュ化するかもしれんぞシャオラン」
「そ、そういうこと言うのやめてよねホンドー!? そうだ、”再生の炎”があるヒカゲ一人に運ばせれば……」
「おい」
やり取りを交わしつつ、ロストエデンの死体を運ぶ三人。
その様子を見ながら、日向がエドゥに声をかけた。
「そういえば、一応、ありがとうなエドゥ」
「何がダ」
「ヴェルデュの研究チームを作ってくれて。おかげで、何か重要な手掛かりを掴めた気がする」
「礼を言われる筋合いはなイ。どうせこれも、お前たちを利用する一環だからナ」
「今度は何に利用されたんだ俺たちは」
「俺たちにとっても、ヴェルデュは邪魔な存在ダ。連中が強くなってからは特にナ。だから研究はこっちでしてやって、お前らにはヴェルデュがこれ以上発生しないよう退治してもらウ」
「なるほど。思ったより健全そうなご利用で安心した」
「ふン」
ここからは、ロストエデンの復活によるヴェルデュの進化がこの街まで届くまでに、急いでサンプルの解析と生存者たちの避難を完了しなければならない。ざっと計算したところ、猶予はおよそ半日といったところか。
サンプルがヴェルデュ研究チームの一室に運ばれ、さっそく解析が行なわれる。
ロストエデンが復活するメカニズムとは。
どうやってヴェルデュを発生させているのか。
ロストエデンの内部構造、細胞、それらをコンピューターでスキャンし、精査する。
エヴァもまた異能を使って、ロストエデンの死体を調べている。
科学では解明しきれない部分を、彼女の異能で洗い出す。
ちなみに今までは、研究室のコンピューターの電力は”雷”の異能を使用できるジャックが賄っていたらしい。現在は研究チームと共にロストエデンのサンプルを調べているエヴァが供給してくれている。
解析が完了するまでの間、残っているメンバーはそれぞれ飛空艇へ生存者の誘導。北園は負傷者の手当てなど、彼らは彼らでやることが多い。
こちらは北園の様子。
彼女は”治癒能力”の超能力を使って、怪我をした生存者たちを治療していく。
特に、無力な生存者たちを守るために前線で戦ってくれたエドゥアルド・ファミリーの構成員たちは、かなりの人数が大きな怪我を負っていた。幸いにして誰も命に別状はなく、今のところヴェルデュ化の種子も植え付けられていないという検査結果も出ているようだ。
また、ARMOUREDのレイカも街中で生存者をヴェルデュから助けるために無理をして、軽くない負傷をしていた。
ちょうど今、そのレイカを北園が回復させている最中だ。彼女の手のひらから発せられる青い光がレイカの傷を照らすと、その傷がみるみるうちに塞がっていく。
「……はい! これでもう大丈夫ですよレイカさん」
「いつ見ても不思議な能力ですね……。っと、お礼お礼。ありがとうございました北園さん! 私が怪我をして、友達が心配していたのですが、これでようやくもう大丈夫って報告できます」
「おともだち? それってテオくんのこと? それともジャックくん?」
「いえ、その二人ではなく、つい最近仲良くなった子がいるんです。いずれ北園さんにも紹介できるといいのですが。それでは私も、生存者の誘導を手伝ってきますね」
そう言ってレイカは、北園のもとを去っていった。
先ほどの彼女の言葉を聞いて、北園は不思議そうに首をかしげている。
「『いずれ北園さんにも紹介できるといいのですが』って……紹介できない理由でもあるのかな? あ……もしかして彼氏とか!?」
「なーに一人で盛り上がってるんだ?」
北園の背後から、ジャックがそう声をかけてきた。
その声に振り返って、北園はジャックに慌ただしく説明。
「じ、ジャックくん、大変だよ! レイカさん、彼氏さんができたかも! このままじゃジャックくん、レイカさん取られちゃうよ!」
「別にアイツとはそういう仲じゃねーんだけどなぁ……。なんでかどいつもこいつも俺とレイカをくっつけようとしやがる」
「あ、えっと、なんかごめんね? 気に障ること言っちゃった?」
「ああいや、そこまで気にはしてねーよ。そっちも気にすんな。ところで、そのレイカの彼氏がどうこうってのは、もしかしてレイカの友達の話か?」
「ジャックくんは知ってたんだ。どんな人なの?」
「それが、俺も見てねーんだ。そもそも、アイツが『新しい友達ができた』なんて言い出したのが、つい数時間前だしな」
「あ、そんなについさっきのことなんだ」
「ああ。随分と楽しそうに報告するわりには、ちっともそのお友達とやらを紹介しやがらねー。今朝、アイツが怪我をしながら助けた生存者のことかと思ったんだが、ソイツでもなさそうだし。それに……」
「それに? どうしたの?」
思わず尋ねる北園。
今、ジャックの表情が、妙に深刻なものに感じたからだ。
しかしジャックは表情を戻し、北園に返答。
「……いや、やっぱり何でもない。俺の考えすぎだろ。それより、負傷者はまだいるみたいだぜ。俺も応急手当くらいは聞きかじってるから、手伝ってやるよ。さっさと終わらせようぜ」
「そうだね。りょーかい!」
北園はジャックと共に、再び負傷者を治療する作業に戻る。
多量出血などが原因で、北園に治してもらっても体調の悪さが続く怪我人は、ジャックが面倒を見てくれた。
怪我人たちを看ながら、ジャックは再び考える。
先ほど北園に言いかけたことについてだ。
「レイカのヤツ……例の新しいお友達に夢中なのはいいんだが、あれだけアカネのことを引きずってたのに、すっぱりとその話をしなくなったのが妙に不気味なんだよな……。単純に立ち直ってくれただけ、だといいんだが……」