第1496話 ここまでのまとめ
ジャックとの通信を終えた日向たち。
飛空艇はまだリオデジャネイロへ向かっている途中であり、到着まであと五十分ほどかかる予定だ。
到着まで、しばしの休息。
その間、日向はこのブラジルで見てきた、ロストエデンやヴェルデュに関係する様々な疑問をまとめてみることにした。
「こういうのって、紙とかに書き出したほうが分かりやすいんだっけ」
さっそく日向は紙とペンを用意し、思うままに書き込んでみる。
〇ロストエデンについて
・判明していること、ほぼ確定していること
七体の『星殺し』のうちの最後の一体であり、植物が人間の形となって集合しているような見た目をしている。白い花弁のような部位があるのも特徴。
主な能力はヴェルデュの使役。植物操作。そして復活と進化。
ヴェルデュを生み出しているのも、ロストエデンの何らかの能力によるものと思われる。ヴェルデュに指示を出すような動きを見せたこともあり、ヴェルデュを使役する能力を持っているのはほぼ確定。
ロストエデンは周囲の植物を操る能力を見せたこともあるが、これは対象となる植物をヴェルデュ化し、自分の手駒にしてから操ったものと思われる。ロストエデンが操っていた植物には、ヴェルデュ化の原因であるツタが巻き付いていた。
ロストエデンは、倒しても何らかの方法で復活する。そして復活するたびに進化し、能力や身体性能が強化されていく。現在のところ火と氷に耐性を持ち、物理的なダメージにも強くなってきている。
細胞の一片も残らないほどに『太陽の牙』で焼き尽くしたこともあるが、それでも復活した。死体の有無は復活の条件に関係ないらしい。
進化を繰り返し、弱点を克服する。ヴェルデュ化現象を引き起こすのは疾病の蔓延にも似ている。これらがロストエデンが”生命”の星殺しである所以だと思われる。
この大地には、エヴァが取り返すべき『星の力』が宿っているが、現在はロストエデンがその所有権を持っているらしく、ロストエデンを倒さない限りエヴァが『星の力』を取り返すこともできない。
・疑問点、不明点、これから明らかにしなければならないこと
ロストエデンをこれ以上復活させず、完全に倒せる方法。
今のところ、ロストエデンは種子から発芽して復活するものと思われているが、実際にそうなのかは不明。考えてみると、あらかじめ多数の種子をあちこちに植えておけるのであれば、なぜいつも出現するのは一体だけなのだろうか。
ロストエデンは、最初はブラジリアの国立自然公園にいて、そこで二度倒したが、その次の復活の際には国立公園から遠く離れた場所にいきなり出現した。倒した場所で復活するわけではないらしいが、その復活の方法は不明。
ロストエデンはヴェルデュ化現象の元凶だと思われるが、どのようにしてヴェルデュ化の原因であるツタの種子をまき散らしているかは不明。
エヴァ曰く「生きているような、死んでいるような、両方の気配を感じる」とのことだが、それがいったい何を意味するのか、どういった感覚なのか、エヴァではない自分自身では知るすべもない。ヴェルデュとも違う独特な気配のようだ。
このブラジルを覆う緑化現象はロストエデンが発生させたものだと思われていたが、自分で生み出した植物をわざわざヴェルデュにしなければ操れないのはいったいなぜか。緑化現象は本当にロストエデンが原因なのか。
ロストエデンは、自身の周囲の自然環境を活性化させて、森などを生み出し、それを外殻にすると思われていた。しかしロストエデンが緑化現象の原因ではない=森などを生み出す能力が無いのであれば、その説は覆される。ロストエデンは、本体が剥き出しの『星殺し』なのだろうか。
〇ヴェルデュについて
・判明していること、ほぼ確定していること
このブラジルの全土に出現している、全身がツタに巻き付かれている怪物の総称。現在のところ、人間ベース、昆虫類ベース、植物ベースが確認されている。
ヴェルデュの元となっているのは、この国で生きてきた人間たちや虫たちである。すでに理性は残っておらず、彼らを元に戻す方法も分からないため、襲ってきたら躊躇なく倒すしかない。
身体の中にツタの種子が埋まっており、これが発芽し、宿主の神経系に接続することで身体を乗っ取り、ヴェルデュとなる。
ゾンビのような生態ではあるが、ヴェルデュに攻撃されても、攻撃された人間がヴェルデュ化する可能性は限りなく低い……と学者たちは分析した。ヴェルデュたちは、ヴェルデュ化の原因であるツタの種子を持っていないからである。持っていないのであれば植え付けようもない。
緑化現象により大量発生した植物にもヴェルデュ化の種子は見られなかった。また、現地の人々はこの地に実っている果実を日々食べてきたが、今のところ彼らがヴェルデュ化する様子はない。
ロストエデンが進化すると、ヴェルデュたちもまた進化する。ロストエデンがどうやってヴェルデュ化現象を引き起こしているかは不明だが、この事実はヴェルデュとロストエデンには深い関係があるという裏付けになる。
最初こそヴェルデュは生存者たちでも倒せるくらいに弱い存在だったが、二回の進化を繰り返したことにより、その脅威度は跳ね上がっている。各種攻撃への耐性はロストエデンとほぼ同等となっている。
ロストエデンの進化に合わせてヴェルデュも進化するが、その進化完了の速度は、ヴェルデュたちとロストエデンの距離によってタイムラグがあるらしい。三度目のロストエデン戦では、ロストエデン周辺のヴェルデュたちはすぐに進化が完了したが、遠く離れたリオデジャネイロのヴェルデュはまだ進化していないとジャックから報告を受けた。
・疑問点、不明点、これから明らかにしなければならないこと
ヴェルデュ化が引き起こされる原因。
最初、テオくんの話によれば、ヴェルデュ化は死んだ人間しか発生しないと言っていた。しかしブラジリアでは、生きながらにヴェルデュと化してしまった生存者を目撃した。何らかの条件を満たすと生きていてもヴェルデュ化が発生してしまうのだと思われるが、その条件は不明。
ヴェルデュ化の原因は、宿主の身体にいつの間にか埋め込まれているツタの種子であることは判明しているが、この種子がどこから来ているのかは現在も不明。
ヴェルデュ化した人間を元に戻すことはできるのか。および、ヴェルデュ化は予防することができるのか。仲間がヴェルデュ化するような事態だけは避けなければならない。
〇レオネ祭司長について
・判明していること、ほぼ確定していること
アーリアの神官職の女性であり、民たちからは王族の次に慕われる存在。
アーリア遊星が地球に飲み込まれた日に、アーリア遊星と運命を共にしており、はるか昔に死亡していたと思われていた人物。狭山さんに魂を保管されることもなく、レッドラムとして復活することもありえないはずだった。
狭山さんの記憶の中では、物静かだが優しそうな人だった。しかし現代に蘇った彼女は、かなり冷たそうな女性という印象を受けた。
敵か味方かはっきりしない言動だったが恐らく敵である。エヴァは彼女に、レッドラムと同じような不気味な気配を感じたという。
ポジションとしては、アメリカ大陸で遭遇した鮮血旅団のように、『星殺し』の防衛を任された上級レッドラムだと思われる。
エヴァと同じく”星通力”の超能力を使用することができ、非常に手強い難敵となることが予想される。
エヴァ曰く、ロストエデンと同じような「生きているかも死んでいるかも分からない気配」を感じたらしい。
・疑問点、不明点、これから明らかにしなければならないこと
死んだと思われていた彼女がなぜ、どうやってこの現代に現れたのか。
ロストエデン本体に代わってロストエデンの種子をばら撒くなど、何らかの形でロストエデンの復活に関わっている可能性もあるが、その真偽は不明。いずれにせよ、いつか倒さなければならない相手だと思われる。
「……こんなところかな?」
あらかた要点を書き出し終えて、日向は息を一つ吐きながらそうつぶやいた。
「こうして見てみると、解明しないといけないことは意外と多そうに見えて、最も重要なのはたった二つに絞られるんだな。つまり、ロストエデンを完全に倒す方法と、ヴェルデュ化発生の原因についてだ。レオネ祭司長は、まぁオマケみたいなものかな?」
改めて、自分が書き出したメモを眺めてみる日向。
今のところ、最も引っ掛かりを感じるのは「ロストエデンの外殻について」だ。
「いや、緑化現象の原因はロストエデン以外にありえないとは思うけれど……なんか引っ掛かるな……。ロストエデン周辺の森があいつの外殻じゃないなら、あいつの外殻っていったい何なんだ?」
……と、その時だ。
テオ少年が、日向に声をかけてきた。
「クサカベさん。そろそろリオに着くみたいだよ」
「あ、テオくん。分かった、ありがとう」
「せっかく連れてきてもらったのに、ブラジリアじゃ何の役にも立てなかったから、リオではエドゥを手伝って頑張ろうと思うよ」
「あー、なんかごめんね。本当なら向こうの生存者たちの避難誘導とかを、母国語が使える君に手伝ってもらうつもりだったんだけど、全滅してたからね……」
「あ、いや、クサカベさんを責めてるわけじゃないよ。向こうじゃ何の役にも立てなくて、こっちこそごめんなさいって伝えたかった」
「君は本当に良い子だなぁ」
やがて飛空艇はリオデジャネイロに到着。
エドゥアルド・ファミリーが拠点としている政府市庁舎前に着陸。
飛空艇が着陸すると、ジャックとレイカが出迎えてくれた。
まだ大きな事態は起こっておらず、エドゥアルド・ファミリーは無事なようだ。