第1493話 追撃と追撃
ロストエデンの体皮を採集した日向たちは、戦闘を放棄して、このブラジリアから撤退しようとする。
しかし、地面から生えてきた巨大なツタが、日向たちを回収するために降下していた飛空艇を捕まえてしまった。
『わぁぁ!? なにこれ!? どうしよう!?』
飛空艇からアラムのアナウンスが発せられる。
エンジンを稼働させてツタから逃れようとしているようだが、ツタもなかなか飛空艇を放してくれない。
飛空艇がエンジンの出力を上げれば上げるほど、ツタに捕まっている飛空艇も不安定に揺れる。あれでは仮にツタを引きはがすことができたとしても、その後が危険だ。急な加速で飛空艇は機体のコントロールを失い、最悪の場合、そのまま地面に激突する恐れもある。
日向が北園に声をかける。
「北園さん! 中にいるアラムくんに”精神感応”を! 俺たちがツタを片付けるから、落ち着いて待っててって伝えて!」
「りょーかいだよ!」
北園がアラムに声を送ると、ほどなくして飛空艇は大人しくなった。
さっそく飛空艇に巻き付くツタを伐採してやりたいところだが、そうはいかない。日向たちの背後からは、ロストエデンが率いるヴェルデュの軍勢が攻めてきている。
「結局、あのヴェルデュたちとは戦わないといけないか! しかしまぁ、すごい数だな……」
「では、私が少し減らしましょう。降り注げ……”バアルの慈雨”!!」
エヴァが詠唱。
すると、ヴェルデュの軍勢の上空に雨雲が出現。
その雨雲から、か細い水のレーザーが降り注ぎ、ヴェルデュたちの身体に次々と穴を開ける。
この水のレーザーは、見た目からは想像もつかないほどの大量の雨水を超圧縮し、超高速で撃ち出したものだ。その殺傷力は極めて高く、ご覧のとおり回避も困難。
特に、空を飛ぶヴェルデュは、空を飛ぶために翅を広げるぶん、体表面積も広くなる。水のレーザーも当たりやすくなるということだ。トンボや蝶のヴェルデュが次々と撃墜されていく。
なおも振り続ける雨のレーザーと、それに撃ち抜かれて落ちてくる虫類ヴェルデュの死骸。
それらをくぐり抜けながら、ロストエデンが日向たちのもとまで猛スピードで接近してきた。
「ロストエデンはなるべく倒さない方向で! また復活して強くなったら面倒だから! 追い払う程度に留めよう!」
日向がそう声をかけて、皆も了承。
接近してくるロストエデンを迎え撃つ体勢に入る。
……が、ロストエデンは日向たちを通過し、さらにその先へ。
スピードを落とすことなく、まっすぐと。
「あいつ、飛空艇を狙う気だ!」
日向が声を上げた。
飛空艇の中にはミオンがいるが、それでもロストエデンが飛空艇内に侵入して全力で暴れたら、オネスト・フューチャーズ・スクールの子供たちも巻き添えになるかもしれない。
「追いかけないと! 皆、先に行ってくれ! 俺はちょっと追いつけないだろうから、まだ生きてるヴェルデュの群れを焼き払っとく! あいつらも放っておいたらツタを登ってくるだろうし!」
「りょーかい!」
日向の声を受けて、彼以外の五人がそれぞれの能力や機動力を発揮してロストエデンを追いかける。
ロストエデンは跳躍し、飛空艇を捕まえているツタの一部に飛び乗った。ここから飛空艇の甲板までよじ登るつもりだ。
そこへ真っ先に飛んできたのが、”オーバーヒート”を使った日影。全身から炎をジェット噴射しながら、ロストエデンめがけて音速の体当たりを仕掛けた。
「おるぁぁぁッ!!」
ロストエデンはジャンプして日影を回避。
大爆炎が巻き起こり、飛空艇を捕まえていたツタの一部が真っ二つに千切れた。
次は北園が攻撃を仕掛ける。
ロストエデンに向かって”雷光一条”を放った。
「えーいっ!!」
宇宙戦艦のビームのような、青い雷の破壊光線。
ロストエデンは先ほどよりも大きく跳躍し、この攻撃も回避。
北園の”雷光一条”を回避した拍子に、ロストエデンがツタの外側へ飛び出た。これでロストエデンは地上へ落ちることになるだろう。飛空艇から追い払うことはできそうだ。
ところが、ロストエデンは両腕を長く伸ばし、ツタの外皮を掴んだ。そのまま自身の身体をツタへと寄せて復帰してしまった。そして再び飛空艇を目指して登る。
本堂とシャオラン、それからエヴァもツタを駆け上がってロストエデンを追いかけているが、なかなか追いつけない。ここは空を自在に飛べる北園と日影に頼るしかなさそうだ。
日影は、ロストエデンへ突撃してはツタに激突を繰り返し、激突の衝撃による大爆炎を連発している。これでロストエデンを攻撃するついでに、飛空艇を捕まえているツタも一緒に破壊してやろうという算段だ。
北園は、今のところロストエデンが耐性を持っていない電撃を使って、ロストエデンを撃ち落とそうとしている。
しかしツタの上のロストエデンの動きは木に登るサルのように軽やかで、なかなか北園の電撃は命中しない。
「うう……なかなか当たらない……! おまけに、私の攻撃を避けながら、少しずつ飛空艇に近づいてるし……!」
ロストエデンが、飛空艇の側面付近のツタまで登ってきた。
もう、あと一回か二回の跳躍で、ロストエデンは飛空艇の甲板に飛び乗ることができるだろう。
その時。
今のロストエデンの位置を見て、北園は閃いた。
ロストエデンを叩き落とす方法を。
さっそく北園は、飛空艇内にいるアラムへ”精神感応”で語り掛ける。
(アラムくん! まだ操縦席にいる!? いるなら左舷ミサイルを発射して!)
その北園の言葉に応えるように、すぐさま飛空艇が左舷ミサイル発射口を展開。そこからまっすぐに金色の光弾が発射された。
とくに標的をロックオンなどしておらず、ただまっすぐ発射されただけの光弾だが、その射線にはちょうど、ツタを足場にしていたロストエデンがいる。
金色の光弾が、ロストエデンが立っていたツタに次々と命中。
その爆風に巻き込まれて、ロストエデンは吹き飛ばされた。
「やった! ロストエデンが落ちる!」
笑顔を見せる北園。
次はロストエデンが復帰できないよう、ツタへの腕伸ばしも警戒する。
だがしかし。
ロストエデンはツタには腕を伸ばさず、吹き飛ばされた先にいた北園めがけて腕を伸ばしてきたのだ。
「えっ……?」
ツタではなく自分を捕まえに来るとは予想していなかった北園。反応が間に合わなかった。
伸ばされたロストエデンの両手が、北園の顔を挟むように掴む。
彼女の首を車のハンドルのように回転させ、へし折る気だ。
……が、そこへ日影が急降下。
腕を伸ばしていたロストエデンの胸板に、”オーバーヒート”の飛び蹴りを叩き込んだ。
「させるかぁぁッ!!」
まるで流星のような、強烈極まりない一撃を受けたロストエデン。
ダメージの衝撃により、北園からも手を放す。
日影はそのままロストエデンを押し込んで、その先にある巨大ツタの茎に自分ごと激突させた。激突の拍子に大爆炎が巻き起こり、日影とロストエデンを包み込む。
炎と黒煙の中から、日影が飛び出てきた。
”再生の炎”をジェット噴射させながら滞空し、ツタにめり込ませたロストエデンを見る。
「……ちッ、やりすぎた」
ロストエデンはツタの茎にめり込みながら、日影の飛び蹴りと爆炎によって、黒焦げになりながら押し潰されて絶命していた。
これで三度目のロストエデン討伐となった。
いや、なってしまったと言うべきか。
また復活した時、ロストエデンとヴェルデュはさらに強くなっているだろう。