第1492話 ロストエデン三戦目
ロストエデンと三度目の勝負を繰り広げる日向たち。
ここで、このブラジリアに出現していたヴェルデュたちが乱入を開始。クリーチャーのようになった人型ヴェルデュや、六枚の翅を持つトンボ型ヴェルデュが高速で戦場を駆け回り、飛び回る。
三体の人型ヴェルデュが、日影めがけて飛び掛かった。
「ギィィィッ!!」
「ギァァァッ!!」
「うるせぇッ!!」
日影は”オーバーヒート”を発動したまま、全力で『太陽の牙』を振り抜く。マッハの速度で振るわれた刃が、三体のヴェルデュをまとめて斬り飛ばした。
頑丈な甲殻を持つ大きな蟻型のヴェルデュが、八体ほどの小隊となって本堂に襲い掛かった。
「シャーッ」
「ギギ……!」
「”雷刃一閃”……!」
本堂は、自身の両腕に生やした刃に電力を集中。
凝縮された電流はやがて電熱を生み、刃が青く光り出す。
その状態で、本堂は蟻型ヴェルデュの隊列に切り込む。
銃弾も通さないであろう甲殻を持つ蟻型ヴェルデュたちが、嘘のように容易く斬り捨てられた。
ちょうど近くにいた日影が、本堂に声をかける。
「調子良いみてぇだな本堂」
「ああ。普段から、もう只のレッドラム程度では物足りないと思っていた。ヴェルデュの乱入には少し警戒したが、この程度の戦力なら、丁度良い運動感覚だな」
「ははっ、違いねぇ。狭山の野郎をぶっ飛ばす前の良い運動だな!」
そんな二人に向かって、巨大な植物の根が地面を破壊しながら伸びてきた。ロストエデンの攻撃だ。大海原を進む海竜のごとく、うねりながら二人に根っこが迫ってくる。
本堂は跳躍し、日影は”オーバーヒート”でその場を離脱し、根っこを回避。
すると今度は、北園が空中から火炎弾でロストエデンを攻撃する。
「”発火能力”っ!」
三発ほど放たれた火炎弾は、全てロストエデンに命中。爆炎がロストエデンを包み込むが、現在のロストエデンは火炎への耐性を持っている。あまり効果的なダメージにはなっていない。
それは北園も分かっている。
この爆炎は目くらまし。
本命は、その爆炎に身を隠してロストエデンに接近した日向。
「”点火”っ!!」
日向は灼熱の炎を宿した『太陽の牙』を、左下から右上へと振り抜いた。
しかしロストエデンは上体を大きく反らして、日向の斬撃を回避してしまう。
日向はすぐさま二撃目を放とうとするが、それより早くロストエデンに蹴飛ばされてしまう。
「うぐっ!?」
ロストエデンの脚力は強烈で、日向は十メートル近く吹っ飛ばされてしまった。とうてい生身の人間が耐えきれるような一撃ではなく、日向は吹っ飛ばされた先で悶絶してしまう。
北園がロストエデンを追撃しようと、電撃を放つ用意。
だがその前に、蟲型ヴェルデュの軍勢が北園に飛来する。
「ブゥゥゥン」
「来ないで!」
北園は両手から電撃を発射。
まるで稲妻の嵐のような電流が放たれ、蟲型ヴェルデュたちは瞬時に一掃された。
だが、北園が蟲型ヴェルデュに気を取られている間に、ロストエデンが右腕を伸ばして、空中にいる北園に殴りかかる。
この攻撃にギリギリ気づき、北園は飛び上がって回避
「ひゃあ!? 空中にいるからって油断できないね……!」
再びロストエデンが北園に攻撃を仕掛けようとしている。
さらに、また別の蟲型ヴェルデュの群れが北園に接近中。
北園は蟲型ヴェルデュへの対処を選択。
その北園の背中を攻撃しようとするロストエデン。
そこへシャオランとエヴァが割って入り、ロストエデンに攻撃開始。
そのシャオランとエヴァを狙おうとした多数のヴェルデュたちがいたが、本堂と日影がその相手を引き受ける。
「おっと虫ども! テメェらの相手はオレたちだ!」
「エヴァとシャオランは、ロストエデンを攻撃しろ!」
「分かりました、そちらはお任せします」
本堂に返事をすると、エヴァは杖の石突に暴風を超圧縮して纏わせ、その杖でロストエデンに斬りかかる。風の権能”スサノオの一太刀”だ。
シャオランは空の練気法”天界”を使用し、ロストエデンを”空”の領域に捉える。しかし”無間”で遠距離から打撃を繰り出すだけでなく、エヴァと共に積極的にロストエデンへ直接攻撃を仕掛けていた。”無間”の一撃よりも、直に拳を当てた方がいくらか威力が高いからだ。
「えいっ! やっ!」
「せやぁッ! やぁぁッ!!」
次元ごと敵を切り裂くエヴァの斬撃と、シャオランの超威力の拳。
これが休みなく連続で繰り出され、さすがのロストエデンも防戦一方。
「私の攻撃の方が殺傷力が高いからか、私の攻撃を集中的に避けているようですね……」
「でもおかげで、ボクの攻撃はガンガン当たるよ!」
「では一つ、ここで仕掛けてみましょうか……!」
そう言って、エヴァが大きく踏み込む。
確実にロストエデンへ攻撃を当てるための動きだ。
これを察知して、ロストエデンもエヴァから大きく距離を取る。
彼女の攻撃を回避し、攻撃後の隙を突いて反撃する用意。
しかし、これはエヴァの陽動。
大きく距離を取ったロストエデンを追いかけるように、シャオランがその距離を詰めてきた。
「通天炮ッ!!」
シャオランが左拳を振り上げ、下からロストエデンの胴体を強打。
爆発のような打撃音が、その威力の高さを物語る。
続いてシャオランは、右手で掌底。
ロストエデンははるか遠くへ吹っ飛ばされ、ブラジリアの国会議事堂と思われる四角の建物の側面上部に激突。
壁にめり込むほどの勢いで叩きつけられたロストエデンだが、すぐにそのめり込んだ壁から飛び出て、建物に巻き付いてるツタに着地。
それからロストエデンが右手を振るうと、ヴェルデュの軍勢が出現した。空を飛んで来たもの、地面から穴を掘って出てきたもの、建物の陰から駆けつけてきたもの……。
この呼び寄せたヴェルデュの軍勢と共に、日向たちに向かって進撃しようとするロストエデン。
だが、ここで日向たちは、予想だにしない行動に出た。
まず、先ほどロストエデンを吹っ飛ばしたシャオランのもとへ、日向が駆けつけてきた。
「シャオラン! 取った!? 取れたか!?」
「バッチリだよヒューガ!」
そう言ってシャオランは、右手に握っている何かを日向に見せる。
それは、無造作にむしり取ったツタ植物の塊のようなものだった。
これは、ロストエデンの身体の表面、その一部。
先ほどシャオランがロストエデンを殴り飛ばす前に、ロストエデンが怯んでいた隙を突いて、引きちぎってきたものである。
「でかしたシャオラン! よし、撤収! 撤収ー!」
日向がそう叫ぶと、他の仲間たちが彼のもとに集まってくる。
さらに、上空に待機していた飛空艇も日向たちのもとへ。
日向たちは、ロストエデンから逃げるつもりなのだ。
どうせここでロストエデンを倒しても、恐らくはまた復活される。
ロストエデンが再び復活したら、ヴェルデュもロストエデン自身もさらに強くなる。
わざわざ敵を強化してやる必要はない。
ロストエデンのサンプルを回収できた日向たちは、ここはいったん逃げて、ロストエデンを完全に倒す方法を見つけてから、再びロストエデンを倒しに来るつもりなのだ。
「なるほど。面白いことを考えますね」
いつの間にか、ロストエデンの隣にレオネ祭司長が立っていた。
飛空艇に乗り込もうとしている日向たちを眺めている。
「ですが、もう少し付き合っていただきましょう」
レオネ祭司長がそうつぶやくと、滞空している飛空艇の真下の地面から巨大なツタが生えてきた。ジャックと豆の木に出てくる魔法の豆のごとく、巨木の幹かと思うほどの太くて大きなツタが。
その巨大なツタが飛空艇に絡みつき、機体の動きを止めてしまったのだ。