第1488話 さらなる異形
飛空艇に向かって押し寄せてくるヴェルデュの軍勢。
その軍勢に気を取られている間に、日向たちの背後から飛空艇の甲板に飛び乗ってきた人型のヴェルデュ。これまで新種だった逞しい体格のヴェルデュが、よりクリーチャーのような姿と雰囲気になったような個体だった。
「こ、こいつは……!? まさか、俺たちがあの白いヴェルデュを……ロストエデンを倒したことで、またヴェルデュが強くなったのか!? 最初に俺たちがあの白い花を伐採して、それから新種のヴェルデュが出てきたみたいに……!」
「ギシャアアアアッ!!」
日向が声を上げるのと同時に、人型のヴェルデュは動き出す。
犬のように四つ足で、ものすごいスピードで日向に接近。
「くっ! ”点火”っ!!」
『太陽の牙』に炎を宿し、日向は人型のヴェルデュの接近に合わせて、剣を右から左へ振り抜いた。
しかし人型のヴェルデュは、日向の頭の上を大きく跳躍。
そのまま日向の背後に着地し、彼の死角を取る。
そして間髪入れず、日向に飛び掛かった。
「ギシャアッ!!」
……が、日向もこの動きを読んでおり、自身の背後に向かってイグニッション状態の剣を突き出す。これにより、ヴェルデュは胸を串刺しにされた。
「ギャアアアッ」
「よし、やった!」
ところが、ヴェルデュはすぐには絶命せず、灼熱の刃で胸を串刺しにされながらも日向の両肩に掴みかかってきた。鋭い爪が日向の肩に食い込む。
「ギシャアアッ! ギシャアアアアッ!!」
「ぐ……! この……!」
日向は『太陽の牙』を振り上げ、ヴェルデュの身体を胸から鎖骨へ引き裂く。今度こそヴェルデュは死亡した。
日向がこのヴェルデュを仕留めている間に、また二体のヴェルデュが甲板へ上がってきていた。二体とも、いま日向が倒したのと同じ、異形の人型のヴェルデュだ。
一体のヴェルデュが、北園に向かって一直線に詰め寄ってくる。
「ギシャアアッ!!」
「”凍結能力”!」
北園が冷気弾を発射して、ヴェルデュに命中させる。
身体を芯から凍らせる超低温の冷気が、ヴェルデュを包み込んだ。
しかし、その冷気の向こうから、鋭い何かが飛んできた。
その切っ先が北園のボブヘアをかすめる。
驚いた彼女は尻もちをついてしまった。
「ひゃあ!? 危なかった……! あの冷気でも凍ってないの……!?」
そうつぶやく彼女の視線の先で、冷気が晴れて、ヴェルデュの姿が露わになる。
やはりヴェルデュは凍っていなかった。
その口からは、見せつけるように、長い舌をゆらりと伸ばしている。
先ほどは、恐らくあの舌を伸ばして、北園を刺し貫こうとしてきたのだろう。
まだ体勢を立て直せていない北園に向かって、ヴェルデュが飛び掛かる。
「ギシャアアッ!!」
北園はすぐさまバリアーを展開し、自分の身を守る。
その彼女のバリアーの上に、ヴェルデュが覆いかぶさった。
すぐ目の前にいるのに届かない北園を狙って、バリアーに噛みついている。
「ガアアッ!! ギシャアアッ!!」
「こ、これくらいのパワーならバリアーは全然大丈夫だけど、普通に怖い……!」
これでは北園は身動きが取れない。
そんな北園を助けるため、エヴァが動く。
「良乃!」
そのエヴァを妨害するように、もう一体のヴェルデュが接近してきた。
「ギシャアアアアッ!!」
「邪魔です! 切り裂け……”スサノオの一太刀”!」
エヴァは超圧縮された風を杖の石突にまとわせながら、接近してきたヴェルデュに向かって振り上げた。
物理法則を超えて圧縮された暴風の斬撃は、次元すら切り裂く一太刀と化す。エヴァの攻撃を受けたヴェルデュは、ハサミで切られた紙きれのように一瞬で裁断された。
襲い掛かってきたヴェルデュを排除すると、エヴァは今度こそ北園を助けるために動く。左の拳に”地震”の震動エネルギーを宿して、北園のバリアーにのしかかっているヴェルデュを殴りつけた。
「粉砕せよ……”ティアマットの鳴動”!」
「ギャッ」
大地を粉砕する衝撃を、その身に直接叩き込まれたヴェルデュ。
トラックに正面衝突されたかのように押し潰されながら吹っ飛ばされ、そのまま飛空艇から落ちていった。
ヴェルデュの排除が完了したエヴァは、北園を助け起こす。
「大丈夫ですか、良乃」
「ありがとうエヴァちゃん、助けられちゃったね。エヴァちゃんの能力、強くて羨ましいなぁ……って、エヴァちゃん後ろ!」
北園がそう叫ぶと同時に、いきなりエヴァがその場で転倒してしまう。新手のヴェルデュが舌を伸ばして、エヴァの右足首を捕まえていたのだ。
「きゃっ!? この……気持ち悪い……!」
「エヴァちゃん、だいじょうぶ!? あのヴェルデュに冷気をぶつけて……あ、でもさっきのヴェルデュには効かなかったな……。それじゃあ電撃で、あのヴェルデュを攻撃……したら舌を通じてエヴァちゃんまで感電しちゃうし……!」
すると、女子二人がヴェルデュに気を取られている間に、また別のヴェルデュが二人の横から接近。彼女らに襲い掛かろうとする。
「ギシャアアッ!!」
「させるかっ!」
そのヴェルデュを、日向が横から真っ二つに焼き斬った。
だが、また別のヴェルデュが日向の背後から飛びついてきた。
「ギシャアアアアッ!!」
「うわ!? くそ、放せ!」
ヴェルデュのパワーは相当なもので、どれだけ日向が暴れてもまったく振りほどけない。ヴェルデュは両脚だけで日向の身体にしがみつきながら、その右手の爪を日向の首筋に突き刺しにかかった。
「ギシャアアッ!!」
……が、その日向に突き立てようとした爪が、手首ごと宙を舞っていた。これにはヴェルデュも困惑の鳴き声を上げる。
「ギシャ?」
「何してるのかしら~?」
ヴェルデュの背後に、ミオンが立っていた。
斬撃を繰り出す風の練気法の技”鎌風”で、ヴェルデュの手首を斬り飛ばしてくれたのだ。
さらにミオンは、左の拳でヴェルデュを殴打。
”拳の黄金律”を乗せて、容赦なく。
彼女の拳を顔面に受けたヴェルデュが、上半身ごと吹き飛ばされていた。
ヴェルデュは絶命し、日向の背中から落ちる。
エヴァも、自分を捕まえていたヴェルデュを振り払い、すでに仕留め終えていた。
日向は、自分を助けてくれたミオンに礼を言った。
「た、助かりましたミオンさん。北園さんの”精神感応”で来てくれたんですね」
「その通りよ。他の子たちも、もう間もなく到着すると思うわ」
彼女の言うとおり、日影、本堂、シャオランの三人もすぐにやって来た。
「ヴェルデュの襲撃だと!? 連中はどこにいる?」
「遅れちゃってゴメン! 助けに来たよ!」
「必要になるかと思い、救急キットを持ってきた。傷を受けた者はいるか? 消毒するぞ」
「幸い、俺以外に目立った負傷者はいないみたいです。エヴァがヴェルデュの舌に接触してたみたいなので、念のためにエヴァに消毒を」
「承った。エヴァ、ヴェルデュの舌に触れた箇所を見せてみろ」
「消毒液の匂いは嫌いです……」
皆がそろったところで、再び日向たちはヴェルデュの軍勢の方向を見てみる。
軍勢はもう近くまで来ており、三十秒もすれば、この飛空艇に到着するだろう。
その軍勢の、さらに向こう側。
街の中心となっている、緑一色に包まれた廃墟のエリアを指さしながら、エヴァが口を開いた。
「あそこから昨日の白いヴェルデュと同じ気配を感じます! 倒しに行きましょう! 消毒してる場合じゃありません!」
「待てエヴァ、消毒液から逃げるな」