第1485話 まだ倒せていない?
日向の斬撃によって、ロストエデンは縦に真っ二つに切り裂かれて絶命した。
現在、日向と日影が『太陽の牙』の炎で、ロストエデンの死骸をさらに徹底的に焼いている。他の仲間たちは、まだ残っている虫類ヴェルデュが日向と日影の邪魔をしないよう迎撃を担当。
最後は日向が”紅炎奔流”の大爆炎をロストエデンに叩きつけた。
これによりロストエデンの死骸は、塵一つ残っていないレベルでこの世から消滅した。
「よし……。ここまでやれば、さすがにもう復活はできないだろ」
日向がつぶやく。
ヴェルデュの襲撃もいったんストップし、仲間たちも休息を取り始めた。
皆にもゆっくりしてもらいたいところだが、まだやるべきことは残っている。日向はエヴァに声をかけた。
「エヴァ。この土地に宿ってるっていう『星の力』は回収できそうか? 今度こそロストエデンを倒したんだから、取り戻せるはずだと思うんだけど」
「そうでしたね。やってみましょう」
エヴァは地面に手を当てて、このブラジルの大地に宿っている『星の力』の回収を始める。これでいよいよ、日向たちは狭山誠への挑戦権を獲得することになるのだ。
……と、思われたが。
「回収できません……」
「ええ……? なんで……?」
なんと昨日に引き続き、今回もエヴァは『星の力』を取り戻すことができなかった。
確かにロストエデンは死んだはずだ。
灰すら残さないほどに、徹底的に焼き尽くした。
にもかかわらず、なぜ『星の力』は回収できないのか。
日向たちはそれぞれ思考を巡らせ、その答えを考える。
真っ先に浮かんだのは、いま倒した白いヴェルデュは、実際はロストエデンではなかったということ。
確かに日向たちは、あの白いヴェルデュが本当にロストエデンだったという確たる証拠を持っているわけではなかった。ただ単に、このロストエデンの外殻と思われる森の中にいて、今までの『星殺し』の本体と同じく人の形をした怪物で、他のヴェルデュとは明らかに違う特殊な能力を持っていたので、この白いヴェルデュはもしかするとロストエデンの本体なのでは、と勝手に決めつけていただけだ。
ここで日向たちは、ふと思い出す。
今まで『星殺し』の本体を倒した時は、狭山の記憶を見せてくれる灰色の光球も一緒に現れていたはずだ。
だが、今の白いヴェルデュを倒しても、その灰色の光球は現れない。ならば、やはり今の白いヴェルデュはロストエデンではなかったのだろうか。
とはいえ、仮にここで誰かから「あの白いヴェルデュがロストエデンの本体だ」と教えられても信じてしまいそうなくらい、あの白いヴェルデュは特別感があった。ロストエデンとまったくの無関係だとは、どうしても思えないほどに。
ここで日向が何かを思いついたらしく、口を開いた。
「たとえば……ロストエデンの本体は複数いる、とかいうパターンはないかな?」
「複数?」
聞き返す北園。
日向はうなずき、説明する。
日向の説では、このブラジルの大地にロストエデンは複数存在し、全てのロストエデンを倒さないと『星の力』は取り戻せないのではないかと考えている。
昨日、日向たちが伐採した、あの白い花。
日向たちは今まで、あの白い花が復活して、先ほど日向たちが倒したあの白いヴェルデュになったと思っていた。
しかし実際は、あの白い花も白いヴェルデュもそれぞれ別個体で、まだまだたくさんいるロストエデンの本体のうちの二体だったのではないか。
確かにそう考えると、ロストエデンの本体と思われた白いヴェルデュを倒したにもかかわらず、『星の力』は取り返せず灰色の光球も現れていないこと……つまり、まだロストエデンを倒せていないと判定されていることにも説明がつく。
ほとんどの仲間たちは納得がいった表情をしているが、一人だけ浮かない表情をしている者がいた。エヴァである。
「確かにそれらしい理由ですが……この大地の上の気配を探ったところ、他にロストエデンの本体らしき気配は感じられないのですよね……。今のところ私には、ロストエデンの本体が複数いるとは思えません」
「ま、マジか。でも、昨日の白い花みたいに、エヴァに気配を悟られないように隠れているだけって線はないかな?」
「その説も否定はできませんが……」
浮かない表情を続けるエヴァ。
彼女の直感が、日向の説は間違ってると訴え続けているようだ。
ここで、今度はスピカがエヴァに声をかけた。
「それじゃあさーエヴァちゃん。この『ロストエデンの外殻と思われる森』と同じ気配は、このブラジル国内から感じられるかな? もともとキミが『特別な気配がする場所がある』って言って、それで見つけたのがこの森だったでしょー?」
「そうか。ロストエデンを直接見つけることができなくても、この森と同じような場所……つまりロストエデンの外殻があるのなら、そこにロストエデン本体がいる可能性は高い……!」
スピカの質問を聞いて、日向も期待のまなざしをエヴァに向ける。
……しかし、エヴァは申し訳なさそうに、首を横に振った。
「残念ながら……この森と同じような気配は、ここ以外には……」
「俺の説、いよいよ八方手詰まりかー」
日向は天を仰いだ。
生い茂る木の葉に遮られて、空は見えなかった。
すると今度は、本堂が口を開いた。
「……もう一つ、可能性があるぞ。いま俺達が倒した白いヴェルデュは間違いなくロストエデンで、何らかの理由により再び復活するため、倒したことになっていないという説だ」
「で、でも、ここまでやったんですよ? ここから復活するなんてあります?」
日向が、ロストエデンだった焼け跡を指さす。
ぶちかました大爆炎により、地面まで深く焼かれて大穴が開いていた。
「ふむ……まぁ確かに、遺伝子の一片すら残さず消滅しているだろうが……」
さすがの本堂も、自分で言っておきながら、ここからロストエデンが復活するとはいささか信じられない様子だ。
……と、今度はシャオランが何か思いついたらしく、手を挙げた。こういう場面で彼が発言するのは珍しいので、皆の注目が自然と集まる。
「あのぉ……種子とか、どうかな……?」
「種子?」
「う、うん。ロストエデンってさ、植物みたいな見た目だったじゃん? この森のどこかに、ロストエデンが生えてくる種子を埋めててさ、こうやって本体が一人やられても、第二第三のロストエデンが生えてくるってパターン……」
シャオランの考えを聞いた皆は、それぞれ顔を合わせて、それから口々に感想を述べ始めた。
「それじゃね?」
「一番可能性高いよね?」
「確かにそれなら、ロストエデンはまだ生きてるな」
「ロストエデンは復活する。あるいは複数いる。どちらのパターンにも当てはまるぜ」
「花の状態でも『星殺し』としての気配は感じなかったのですし、種子の状態なら私が気配を見つけられなくても不思議ではありません」
「なんだか正解っぽい気がしてきたねー。シャオランくーん、お手柄じゃーん!」
「ボクの考え、良い線いってた? えへへ、嬉しい……」
さて、現状で最も可能性の高そうな説が浮上してきたが、それを踏まえたうえで、ここからどうするか。どうすればロストエデンの復活を阻止して、今度こそ完全にトドメを刺すことができるだろうか。
決まっている。
この森を丸ごと焼き払い、焦土にして、土に埋まっているであろうロストエデンの種子ごと焼き尽くすのだ。
「森が焼き払われるのは心苦しいものがありますが、それしかないでしょうね……。この星を完全な滅びから守るための必要経費だと思いましょう……」
エヴァも納得してくれた。
さっそく日向たちは、少し躊躇しながらも、この森に火を放ち始めた。