第1484話 緑を断ち切る焔の一閃
エヴァが発生させた猛吹雪により、すっかり氷漬けで真っ白になってしまった森の中。
この吹雪で大半のヴェルデュを倒せるかと思っていたが、ヴェルデュたちは地面の中にもぐって吹雪をやり過ごしてしまった。敵の親玉である白いヴェルデュ……ロストエデンもツタと根っこの繭で吹雪を凌いだ。
その後、真っ白になった森の中で、再び日向の仲間たちとヴェルデュの群れが激突を始める。ロストエデンも直接戦闘に参加し、本堂やシャオランに打撃戦を仕掛けていた。
そんな中、日向はまだツタと根に拘束されて倒れている。
彼に絡みつくツタも根も吹雪によって凍結したが、力づくで粉砕できるほど脆くなってはいなかった。
「くそ、凍った地面で身体が冷たい……」
「ったくテメェ、いつまでそうやってんだ。早く起きろ」
ヴェルデュと戦っていた日影が偶然にも日向の側まで移動してきて、そう声をかけてきた。そんな日影の前で、日向は全身に力を入れても拘束を振りほどけない様子を見せる。
「起き上がりたいのはやまやまだけどさ、ご覧のとおりツタに絡みつかれて、全然動けなくてェ……」
「クソ、仕方ねぇな!」
日影は『太陽の牙』を一振りして、日向に絡みついていたツタや根っこを切断した。ようやく日向は自由を取り戻す。
「ああ助かった。サンキューな。さて、ここからどうしようか」
「……考えてみりゃ、コイツ助けたところで戦力としちゃ微妙だし、ヴェルデュを殲滅するスピードにはあまり影響なかったかもな」
「なんだとこいつ。今に見てろよ。お前のその考えが正しかったってことが証明されるからな」
「いや、オレのその考えが間違ってたってことを証明しろよ」
「証明する必要はないよ。なぜなら、もう間もなく俺たちは勝つ」
「……なんだと?」
突然の勝利宣言。
日向にはどのように勝利の道筋が見えているのか、さすがに日影でもまだ分からない。
「どういうことだ? また何か仕込んだのかお前?」
「いや、さっきまで拘束されてたのに、俺が何かするなんて不可能だよ。これはただ、エヴァの吹雪は決して無駄になっていなかったってだけのこと」
「確かにエヴァの吹雪でヴェルデュの数は減ったが、それでもまだまだ大量に残って……」
「けれど、さっきから妙に戦いやすいだろ?」
「……言われてみりゃ、そうだな」
日向の言うとおり、さっきから日影はヴェルデュに対して、最初よりも戦いやすさを感じていた。ヴェルデュの動きが鈍く感じるような、そんな気がしていた。
これは他の仲間たちも同じらしく、この戦闘が始まった直後と比べると、それぞれのヴェルデュの撃破のスピードが格段に違う。
「……そうか、分かったぜ。このカチコチに凍った森のせいか」
「そういうこと。ヴェルデュは冷気への耐性は高くない。吹雪をやり過ごしたのはいいものの、吹雪が収まってからもこのとおり、森が凍ったことでそれなりの冷気は残存している。今、ヴェルデュたちは身体が冷えて動きが鈍ってるんだ。俺たちは文明の利器、衣服を着用してるからヴェルデュより寒さはマシ。ここで差がつく」
「それに、さっきからロストエデンは打撃ばかり仕掛けてきて、厄介だったツタや根っこは使ってこねぇ。これも、ツタや根っこを凍らされて、操ることができねぇからか」
「だと思う。地面に埋まってて吹雪を受けなかったはずの根っこまで封じたのは正直に言うと予想外だったけど。たぶん根っこの元である樹木が凍り付いて死んだことで、同時に根っこも動かなくなったのかな。つまりロストエデンは木の根っこそのものを動かしてるんじゃなくて、その根っこを持つ木に働きかけて根っこを操作してたってことになるか」
ともかく、これならいける。
ヴェルデュの群れを突破してロストエデンを狙うなら、今が絶好のチャンスだ。
「本堂さんとエヴァが近くのヴェルデュを引き受けてくれてる。一気にロストエデンを仕留めるぞ!」
「言われなくともやってやるッ!」
日影が”オーバードライヴ”を使って、ロストエデンに猛接近。
ちょうどシャオランと打撃戦を繰り広げていたロストエデンは、シャオランから距離を取ると、日影にターゲットを変更。
「おるぁぁッ!!」
日影が繰り出す灼熱のラッシュ。
ロストエデンは巧みな足さばきと上体反らしで、日影の攻撃から上手く自身を逃がす。
「ちッ、コイツに関してはむしろ、動きが良くなってる気がするな。オレたちの動きに慣れてきたか? だが……ここだぁッ!」
ロストエデンの反撃の右ストレートを掻い潜り、日影が燃え盛る左アッパーをロストエデンの腹部に叩き込んだ。
日影の攻撃を受けてロストエデンは吹っ飛ばされたが、悲鳴などはまったく上げない。ただ効いてはいるようで、ダメージを受けた箇所を手で押さえている。
そこへ北園が冷気弾を連射。
冷気弾はロストエデンの周囲に着弾し、次々と冷気をまき散らす。
「えいっ! えいっ!」
北園が放った冷気弾は一発もロストエデンに命中しなかったが、それでいい。初めから弾幕でロストエデンの動きを封じつつ、まき散らした冷気で向こうの視界を奪うのが目的だ。
真っ白な冷気がロストエデンの視界を遮り、目の前が見えない。
その冷気の向こうから、日影が突撃。
気づいたときにはもう、ロストエデンの目と鼻の先。
「もらったぁッ!!」
……が、しかし。
ロストエデンは回し蹴りを繰り出し、日影を蹴り飛ばしてしまった。
まるで、最初から日影の接近が分かっていたように。
「ぐッ!? 今のに反応するかよ……!」
さらに、ロストエデンの背後から日向も斬りかかっていたが、ロストエデンは素早く振り向いて、日向の斬撃を回避しつつ彼のみぞおちにボディーブローを突き刺した。
「ごほっ……!?」
強烈な反撃を受けて、目を丸くする日向。
まさか迎撃されるとは思わなかった驚愕が、ダメージをさらに引き上げる。
だが、ここは日向の意地が勝った。
受けたダメージをすぐさま”復讐火”で回復。
同時に爆発的に向上した身体能力で、ロストエデンの顎下に跳び膝蹴り。
「りゃあああっ!!」
日向の飛び膝蹴りはクリーンヒット。
ロストエデンが大きくのけ反る。
飛び膝蹴りによって高く跳躍した日向は、その後の落下の勢いも合わせて、イグニッション状態の『太陽の牙』でロストエデンに斬りかかる。
「トドメだっ!」
落下しながら全力で剣を振り下ろす日向。
彼が振り下ろした刃が、ロストエデンの脳天に食い込む。
そしてそのまま、ロストエデンを真っ二つに焼き斬った。
「あ……倒した?」
唖然とする日向。
もちろんロストエデンを倒すために全力で仕掛けた攻撃だったが、それでも相手は最後の『星殺し』。まだこの程度では終わらないと想定していた。
だが実際に、ロストエデンは日向の目の前で、縦半分に切り裂かれて地面に倒れている。切断面に燃え移った『太陽の牙』の炎が、現在進行形でロストエデンの死骸を焼き続けている。
他の仲間たちも呆気に取られている。
本当に、これでロストエデンは倒せたのだろうかと。
日影が声を発する。
「……とりあえず、まだ残ってるヴェルデュに注意しつつ、今度こそ復活できねぇように徹底的に焼いとこうぜ」
「そ、そうだな。灰すら残さないくらいに徹底的に……」
日影の言葉に日向が返事。
他の皆もうなずき、ロストエデンに完全なるトドメを刺すために行動を開始した。