第1475話 再びエドゥアルド・ファミリーへ
日向たちは、救助したエドゥアルド・ファミリーの若者を連れて、いったん飛空艇へ帰還する。周囲に他の新種ヴェルデュの気配があり、いつまた捕捉されて襲い掛かって来るか分からないからだ。
無事に飛空艇のコックピットへ戻ってきたところで、改めて日向たちはエドゥアルド・ファミリーの若者に尋ねた。この街で何が起こったのか。あの新種のヴェルデュは何なのかについて。
しかし、若者は沈んだ表情をしながら、首を横に振った。
『俺たちだって分からないんだ。今朝、この街の生存者たちが、すごく凶暴なヴェルデュがいるって言って、俺たちファミリーのところまでやって来た。だから俺たちはエドゥから命令されて、そのヴェルデュを倒しに行ったんだ。それが、さっきお前たちが戦ったヴェルデュだよ』
『お前たちも連中を見るのは初めてか? 今まで一切見かけることなく、今日になっていきなり現れたのか?』
本堂がポルトガル語でそう尋ねると、若者は首を何度も縦に振る。
『そうなんだよ! あいつら、何だったんだ!? ヴェルデュのくせに火が効かなくて……。俺たちはヴェルデュを倒すとき、火炎放射器や火炎ビンを主な武装にする。それが全然効かなくて、生存者たちも、一緒に来たファミリーの連中も、皆やられちまって……』
『あのヴェルデュが何なのかは、俺達にもまだ分からん。他の生存者たちは無事か? お前が所属するエドゥアルド・ファミリーはどうなっている?』
『さすがに街全体に散らばっている生存者たちがどうなっているかは把握しきれねぇよ。でも、多くの生存者は、武器も兵隊も多く揃っている安全地帯と思って、俺たちファミリーのハウスに押しかけてきてる。今もたぶん、ハウスの周辺は生存者でごった返してるんじゃねぇかな……』
「ふむ。街全体がパニックに陥っているという事か。どうする日向」
本堂が日本語で、日向に声をかけた。
尋ねられた日向は、ほとんど間を置かずに質問に答える。
「いったん、エドゥアルド・ファミリーの本拠地へ向かってみましょう。俺たちだけでこの街の生存者たち全員を助けるには限界があります。彼らと連携するほうが効率的かと」
「それは間違いないだろうが、リーダーのエドゥアルドの昨日の様子を思い返す限り、あまり積極的に協力してくれるとは思えないがな」
「でも、一応はエドゥも、この街の治安を守るために動いている人間です。俺たちも『生存者を守る』という共通の目的を持っている以上、昨日ほど邪険に扱われはしないんじゃないかって思うんです」
「一理あるな。どのみち、彼らファミリーにどれほどの備蓄があるかは不明だが、数百人規模で存在するこの街の生存者をまとめて抱え込むのは無理があるだろう。彼らが匿い切れなかった生存者は、俺達で分担して保護できるかもしれん」
「あとついでに、さっき保護したこのお仲間さんを送ってあげないといけませんしね。というわけで、エドゥアルド・ファミリーを訪ねてみましょう」
日向の方針に異議を唱える者はおらず、一行はエドゥアルド・ファミリーの本拠地へ向かうことに。
とはいえ、昨日のエドゥの人格を思い返したか、賛成はしても明るい表情をしている者はあまりいなかった。
操縦役のアラムが、さっそくエドゥアルド・ファミリーの本拠地へ向けて、飛空艇を飛ばそうとする。
その直前、不意にレイカがジャックに声をかけた。
「……ジャックくん。今、私に何か言いました?」
「あん? いや、別に何も言ってねーぜ?」
「うーん、空耳でしょうか。言われてみればたしかに、ジャックくんの声っぽくはなかったですし」
「年を取って耳が遠くなったんじゃねーの?」
「失っっ敬な! まだ二十二ですよ!」
「初めて会った時は十九だったのに、いつの間にか二十歳過ぎかー。そして胸は一向に成長せず。まぁ元気出せよ。ジャパニーズとかは控えめな方が好きだってヤツも多いって聞くぜ」
「義足ドロップキック!」
「ぐぇぇ!?」
「……二人とモ。室内であまり暴れるナ」
「だってジャックくんがー!」
騒ぐ若者二人を、コーネリアスが諫めた。
それからすぐに、飛空艇はエドゥアルド・ファミリーが根城とする政府市庁舎付近に到着。その気になればマッハの速度まで出せるこの飛空艇にかかれば、同じ街の中での移動は数秒単位で済む。
先ほどエドゥアルド・ファミリーの若者が言っていたとおり、政府市庁舎の周辺には数えきれないほどの生存者たちが集まっている。
みな一様に、政府市庁舎の中へ入れてほしそうにしているが、エドゥアルド・ファミリーの構成員たちがそれを阻んでいるようだ。
あれだけの大人数が一気に詰めかけてきたら、小規模な組織は一瞬でパンクしかねない。いったん生存者の受け入れを制限するのは無理からぬことだろう。
そんな生存者たちも、エドゥアルド・ファミリーの構成員たちも、飛空艇が飛来してきたら、一斉にそちらの方を見上げた。いきなり見慣れぬ飛行物体がやって来て、全員が目を丸くして飛空艇を見上げている。
日向たちは飛空艇を降りて、民衆をかき分けながら政府市庁舎へ向かう。
エドゥに会いに行くのは前回と同じく、日向たち予知夢の六人とARMOUREDの三人、そしてテオ少年である。
「エドゥ、いるかー?」
声をかけながら、エントランスへ続く扉を開ける日向。
リーダーのエドゥアルドことエドゥは、入ってすぐの場所にいた。
日向たちを見るや否や、ものすごく嫌そうな顔をする。
「友達の家みてぇに気軽に入って来るんじゃねぇヨ! 何の用ダ!」
「でも元々お前の家でもないだろ。で、要件は……」
「……ああ、やっぱり言わなくていイ。だいたい予想はつク。どうせ新種のヴェルデュについて教えろとか、生存者を助けに来たとか、その辺だロ」
「その両方だ。話が早くて助かるよ」
口では褒めるが、日向は友愛を示すような表情はせず、警戒の目をエドゥに向けている。なにせ、昨日は躊躇いなく日向たちを撃ち殺して排除しようとした相手だ。警戒するなという方が無理がある。そうでなくとも、北園に粉をかけたこの男を、日向は気に入っていない様子だ。
そんな日向の視線に、エドゥも敵意たっぷりの表情で真っ向から睨み返す。生存者たちの身を案じる者同士で話し合いに来たとは思えない、一触即発の空気である。
まずは日向が口を開く。
「改めて要件を言うぞ。新種のヴェルデュから逃れるために、ここに生存者たちが集まっていることは俺たちも把握してる。けど、お前たちだけじゃ、あの生存者全員を保護はできないだろ? ここは協力しないか? こちらも何十人かは生存者を受け入れる余裕がある」
その日向の問いかけに、エドゥはすぐには返答しない。
日向を見ながら腕を組み、何やら考えを巡らせている様子である。
やがてエドゥが、返事をした。
「正義のヒーロー気取りで来てもらったところ悪いがな、俺はお前たちに生存者の連中を引き渡すつもりはこれっぽっちもねェ」