第1473話 黒煙立ち昇る街
日向たちは、樹海と化したブラジリアの国立公園を探索した後、ブラジル国内の空を飛空艇で飛び回って『星殺し』ロストエデンを捜索。
日が落ちて、夜になり、深夜になるまで飛空艇は空を飛び続けたが、結局ロストエデンの発見には至らなかった。
その後、飛空艇は適当なところで着陸し、日向たちはその日の活動を終了。飛空艇の中で一夜を過ごす。
そして、次の日の朝が来た。
日向の存在のタイムリミットは、残り六日。
昨日は夜遅くまで行動していたので、日向たちは起きるのが少し遅くなってしまった。日向たちはともかく、まだ幼いオネスト・フューチャーズ・スクールの子供たちが起床するのに時間がかかったのである。
「タイムリミットが少なくなってきたとはいえ、焦っちゃったかな。子供たちには負担をかけちゃったし、考えてみれば夜の暗い時間にロストエデンを探し回っても、明るい昼間より見つけにくいのは間違いないだろうし」
朝食の果実や野菜を食べながらつぶやく日向。
今日はロストエデンが見つからなくても、意気地になって夜遅くまで行動することがないようにしたいところである。夜更かしは昼夜逆転生活の第一歩となってしまう。
一方こちらは、一緒に食事をとっているレイカとテオの様子。
レイカはなにやら、朝からずっと機嫌が良さそうである。
「レイカさん、ご機嫌だね。何かあった?」
テオがレイカに尋ねると、彼女はうなずき、答えた。
「あら、分かっちゃいます? そうなんです。今日、良い夢を見たような気がするんです!」
「へぇ。どんな夢?」
「詳しいところまでは忘れちゃったんですけど、友達がたくさんできるような夢でした。アカネがいなくなって寂しがってた私に、私と同じくらいの歳の女の子たちが声をかけてきて、優しい言葉をかけてくれるような、そんな夢。いま思うと、なんだか不思議な夢でしたね」
「正夢になって、友達たくさんできるといいね」
「ふふ、そうですね」
レイカは笑顔で、テオの言葉にそう返した。
朝の食事もそこそこに、さっそく日向たちはロストエデン捜索を再開。時刻はすでに午前十時を回っている。
飛空艇が飛行を開始してから、わずか十分。
コックピットで正面モニターを見ていた日向たち全員が、何かを発見した。
飛空艇の前方十数キロメートル先の街で、いくつか黒煙が上がっている。
その街は、日向たちがテオ少年と出会ったリオデジャネイロである。
昨日、日向たちがブラジリアへ移動するためにリオデジャネイロを出発した時は、黒煙などまったく上がっていなかった。
黒い煙は、つまり建物が炎に炙られて一酸化炭素が発生している状態。ようは建物が燃やされているという事なので、何かただならぬ事態が起こっているのかもしれない。
テオも心配そうに、モニターに映っている故郷を見つめている。
「ヴェルデュの退治だとしても、あそこまで派手にやることはほとんどないのに。何か、あったのかな。エドゥやファミリーのみんなは、大丈夫かな……」
「一度、様子を見に行ってみようか」
日向がテオにそう声をかけるが、テオは嬉しがるどころか、むしろ申し訳なさそうな表情を見せる。
「でも、クサカベさん、あまり時間がないんでしょ? 詳しい事情は聞いてないけど、とても寄り道なんかできない状況だって」
「それは間違いないけど、もしあの街で何か問題が起こってて、生存者の人たちが危険な目に合ってるなら、それを見殺しになんかできない。俺の問題が解決しても、俺は生存者たちを見殺しにしたことをずっと後悔しながら生きていくことになると思う」
「そっか……。うん、分かった。それじゃあ、お願いします。リオに向かってください」
頭を下げて、テオは日向たちに頼んだ。
もちろん他の仲間たちも、テオの頼みを拒みはしなかった。
飛空艇は速度を上げて、あっという間にリオデジャネイロの上空へ。
黒煙が立ち昇っているのは、この街の中心部。ビルなどの近代的な建物が並ぶオフィス街だ。
このオフィス街もやはり植物に包まれているが、その植物の一部に炎が燃え移っており、植物に覆われている建物も一緒に焼かれている。そのため黒煙が発生していたようだ。
そして、このエリアには、血まみれになって倒れている人間の姿があった。一人だけでなく、ざっと見ただけでも六人以上。
「こ、これは大変だ……!」
目を丸くする日向。
急いで皆は地上へ降りて、怪我人の救助のためにそれぞれ行動。
北園とエヴァは、それぞれの異能で怪我人たちを治療を担当。
残る日向たち四人は、まだ周囲に敵が潜んでいないかの警戒。
ARMOUREDの三人は、念のために飛空艇の近くで待機してもらう。「日向たちが出払った隙に飛空艇を襲撃しよう」というレッドラムの作戦である可能性も考慮して。
日向たちは、まだこのブラジルでレッドラムと遭遇したことはないが、”最後の災害”の初期段階の時には普通に出現していたとテオも言っていたので、警戒するに越したことはない。
怪我人の治療を担当する北園とエヴァは、一人の怪我人のもとへ移動しては、無念そうな表情をして、すぐにまた別の怪我人のもとへ移動する。どうやら、怪我人のほとんどは手遅れのようだ。
日影が周囲を警戒しながら、もうすでに事切れている怪我人たちをチラリと見る。
「何人か、見たことある顔があるな。昨日、あのエドゥとかいうヤツのファミリーの中にいた顔だ。ちッ、テオが悲しんじまうな……」
その時。
北園が最後の怪我人のもとへ移動すると、嬉しそうに声を上げた。
「この人、まだ生きてる! しっかりして! すぐに回復させてあげるからね!」
さっそく北園が”治癒能力”を使用し、怪我人の治療を開始。
日向たちも彼女の声を聞いて、怪我人のもとへと集まる。
北園が発する青い光が傷を照らすと、傷はみるみるうちにふさがっていく。
やがて、この少し小太りの若者の傷は完全に消えて、どうにか一命を取り留めた。
本堂が水筒の水を怪我人に差し出し、それを飲むように促す。
「ゆっくり飲め。……ところでお前は確か、エドゥアルド・ファミリーの一員ではないか? 昨日、あの政府市庁舎で見かけた顔だ。いったい此処で何があった?」
水を飲ませている間に質問する本堂。
エドゥアルド・ファミリーの若者は、水を飲み終わると、ポルトガル語で本堂に返答。
『はぁ……はぁ……、へ、変なヴェルデュが出た。今までと全然違う奴らだ。俺たち、まったく歯が立たなくて……』
「……それはもしかして、アレか?」
本堂が左の方を指さす。
その向こうに、一体のヴェルデュの姿があった。
そのヴェルデュは、今までのヴェルデュと比べて、随分と筋骨隆々だ。身長、体格も一回り大きくなっている。そして、従来のヴェルデュは上体がぐらぐらと揺れて安定しない立ち姿だったが、このヴェルデュはしっかりとした仁王立ちで日向たちを見据えている。
「グオオオオッ!!」
新種のヴェルデュが叫ぶ。
そして、今までのヴェルデュからは考えられない瞬発力で、日向たちに飛び掛かった。