第1472話 ”罪業”ロストエデン
生命の『星殺し』ロストエデンと関係があるかもしれない、謎の大きな白い花を発見した日向たち。
さっそく日向たち三人は、この発見を他の仲間たちにも伝えるため、この場所に仲間たちを招集することにした。
「私にお任せを」
そう言って、エヴァが杖の先端を空へ向けて、そこから三、四発ほど火球を発射。撃ち出された火球は、空中で花火のように弾けた。
この火球の爆発に、樹海の他の場所を探索していた北園たちやジャックたちも気づく。
二チームは草木をかき分け、花火の下へ急行。
ちょうど同じタイミングで、日向たちのチームと合流した。
「なんか空に花火みたいなのが打ち上げられてたけど、何かあったの?」
「よーう。何か発見したのか?」
「お、北園さんたちとジャックたち。ちょうど同じタイミングで来たか」
合流した六人に、日向たちはさっそく、ここで発見した謎の白い花を紹介した。
さっそく本堂やレイカ、それからコーネリアスなどの博識な面々が、この大きな白い花が何なのか調べ始める。
「ふむ……確かに百合に似た花だな。だが、一般的な百合とは幾つか違う点もある。一般的な百合は雌しべの先端が黄色、雄しべの先端が赤色だったと記憶しているが、これは両方とも黄緑色だ。それに、百合は空に向かって花を開かない。スカシユリなどの例外もあるが……」
「この公園で独自に育てられた、品種改良されたオリジナルの花という線もありそうですが、ロストエデンに関係するものなのでしょうか?」
「仮にこれがロストエデンだとしたラ、ここまで俺たちに間近で観察されてモ、何も仕掛けてこないのが不思議だナ」
それぞれ所感を述べる三人。
次に日向は、エヴァにも声をかけてみた。
「エヴァはどうだ? この花から何か変な力を感じたりはしないか?」
「いえ……何らかの能力を持っているという点では何も……。『星の力』も感じませんね……。ただ……」
「ただ? どうしたんだ?」
「何か、妙な気配なのです、この花は。生きているのか、死んでいるのか……」
「それは……つまり、ゾンビみたいな状態ってこと? これまで見てきたヴェルデュみたいな?」
「それとも違うような感覚です。ヴェルデュは死体に巻き付いたツタ植物がエネルギーを送り込むことで死体を動かしていた、つまり『外的な力で生かされていた』状態でしたが、この花はこれ単体で、生きているような気配も、死んでいるような気配も感じるのです。こんな気配は今まで見たことがありません……」
「うーん、俺たちもエヴァと同じように、この植物の状態を感じられれば何か思いつくかもだけど、無理な相談だしなぁ」
「生命活動に必要なエネルギー自体は内部から感じられるので、どちらかと言えば、やはり生きている状態なのでしょうが、それにしては肉体が発する波長が死体同然……。謎なのです……」
ともあれ、エヴァですらよく分からない特性を持つ植物となれば、まずこの場で自然に存在していること自体がおかしい植物だと考えられる。ロストエデンと何かしら関係している可能性は十分に高い。
日影が日向に声をかけてきた。
「んで……結局どうするんだ、この正体不明の花は」
「まぁ、ロストエデンに何か関係があるのだとしたら、とりあえず燃やすか」
「やっぱそうなるな。少なくとも、何らかの被害は与えられるだろ」
「それじゃ、伐採開始ー」
日向と日影はそれぞれの『太陽の牙』に炎を灯し、この白い花を斬りつけ始めた。
白い花は何の抵抗もしない。床屋で髪をカットしてもらう客のごとく、二人に斬られている。やがて燃え移った炎も勢いを増し、派手に炎上。
日向と日影の後ろで北園たちも、何が起こってもいいように身構えているが、今のところ何かが起こる気配は全く感じられない。
「なんだか、あまりにも無抵抗すぎて、見てるこっちがちょっと罪悪感が湧いてきちゃうね……。なまじ見た目はきれいだから、かわいそう……」
北園がつぶやく。
そうしているうちに、炎が植物全体を包み込んだ。
やがて、白い花を形作っていた花弁は全て燃え落ち、茎まで完全に燃え尽きた。とうとう、最後まで何も起こることはなく。
白い花が燃え尽きたのを見て、本堂がエヴァに声をかけた。
「エヴァ。この大地に宿っているという『星の力』は回収できそうか?」
「『星の力』の回収ですか?」
「ああ。この白い花は謎だらけだが、だからこそ、この植物が実はロストエデンだったという可能性もゼロではない。であれば、これで俺達はロストエデンを討伐したことになる。奪われていた『星の力』も取り返せるのではないか?」
「なるほど。それで『星の力』を取り返すことができたかどうかで、この植物がロストエデンだったか、そうでなかったかも判別できますね」
さっそくエヴァは、このブラジルの大地に宿る『星の力』の回収を試みる。
……が、相変わらず『星の力』は大地に固定されており、エヴァが吸収することはできなかった。
『星の力』を取り返せない以上、ロストエデンはいまだ健在なのだろう。つまり、いま日向たちが燃やしたこの白い花は、少なくともロストエデン本体ではないということになる。
「やはり、ロストエデンではなかったようですね。『星殺し』にしては、あまりにもあっけなさすぎますし。あの生きているか死んでいるか分からない気配も、今は完全に死に絶えた気配になっています」
謎の多い植物だったが、燃やしてしまった以上、調べられることもほとんど残っていないだろう。日向たちはこの場を後にして、樹海探索の続きへと戻る。
その後、日没近くまで樹海を探索した日向たちだったが、他に気になるものはまったく見つからなかった。空から樹海を捜索してくれたユピテルも、何も発見することはできなかった。
いったん、日向たちは飛空艇へ帰還。
留守番をしていたスピカたちに、探索結果を報告する。
「そっかー。これといった収穫はナシ、と」
「さすがに樹海の全部を見て回ったわけじゃないですけど、まったく何も見つかりません……。見つかるとしたら、せいぜいヴェルデュくらいです」
「生命のエネルギーが集中しているっていうこの場所は、ロストエデンを見つけるには良い線いってるって思ったんだけどねー。見つからないんじゃ仕方ないね。次はどう行動するか、決めてるの?」
「一度、飛空艇でこの国を空から見て回ろうって話が出てます。これまで戦ってきた『星殺し』は、どいつもこいつも巨大な外殻を持ってました。ロストエデンもそうなら、空から地道に、しらみつぶしに見て回れば、見つかるかもしれません」
「確かにね。それで見つからなければ、ロストエデンはこれまでの『星殺し』とは例外となる、小さな外殻を持った個体ということになる、かな」
「ですね。時間が惜しいです、さっそく行きましょう」
「りょうかーい。アラムくんもゆっくり休めたし、いつでも離陸できるよー」
そして日向たちはロストエデンを見つけ出すため、再び飛空艇で空へと飛び立った。この街に住まう生存者たちに見送られながら。
一方その頃。
ここは、先ほど日向たちが探索した樹海。ブラジリアの国立公園。
そこに、一人の女性がいた。
露出の多い祭祀服を着た、銀のスーパーロングヘアの女性。
リオデジャネイロのビルの上で、日向たちを眺めていた女性だ。
彼女の目の前には、先ほど日向たちが燃やした白い花。
今はもう燃え尽きて、無事なところが見つからないくらい黒焦げだ。
「……例えば、一つの命が終わり、それとまったく同じ命が新しく生まれたとしたら、それはある意味で、生き返りと呼べるのではないでしょうか」
女性が、燃え尽きた白花に手を伸ばす。
黒焦げになった花弁から、葉から、茎から、小さな新芽がポツポツと生えてきた。
「性格も、能力も、役割もまったく同じ命が再誕する。
それが無限に繰り返されたとしたら。
それは”生命”の究極の地点……つまり不死身と呼べるのでは」
燃えカスから生えてきた新芽は、やがて燃えカスを包み込むほどにまで繁殖。黒焦げの花は、あっという間に新緑に包まれた。
「傷つけられても、再び立ち上がり、成長する。
それがこの星の”生命”だと、あの御方は定義した。
”生命”の災害ロストエデンは、今この瞬間から発芽する」