第1471話 国立公園探索
『星殺し』ロストエデンを見つけるため、ブラジリアの国立公園にて三チームに分かれて捜索を開始した日向たち六人とARMOUREDの三人。
こちらはARMOUREDの三人、ジャックとレイカ、そしてコーネリアスの様子。
三人は現在、襲い掛かってきた三体のヴェルデュを相手に交戦している最中だ。一体のヴェルデュがレイカに向かって噛みつきにかかる。
「ォアアゥゥ……」
「せいっ!」
レイカは自身の愛刀『鏡花』で居合一閃。
ヴェルデュの首を斬り飛ばした。
他のヴェルデュも、すでにジャックとコーネリアスが始末している。
特に怪我もなく、戦闘は終了した。
「他にヴェルデュの姿はありませんね。お二人とも、お疲れ様です」
「おう、お疲れさん。ま、相変わらずロストエデンは見つからねーんだけどな。せめて、どんな姿をしているかだけでも分かればなぁ」
「とはいエ、本命は予知夢の六人のエヴァだろウ。今はまだ”気配感知”でロストエデンを見つけられないとしてモ、ロストエデンとの距離が近くなれば気配を拾える、という可能性もあル。何の手掛かりもなく探し回っている俺たちよりモ、発見できる確率は高いだろウ」
話し合いながら、三人は樹海を進む。
相変わらずこの樹海は鬱蒼としているが、木々のほとんどは明るい緑色で、眺めていると少し心がリラックスできる。
ときどき、木漏れ日に照らされて、緑色の粒子が森の中を漂っているのが見える。それを見たジャックが口を開いた。
「なんかこういうの、ファンタジー系のRPGで見るよな。神秘的な森の中で舞っている葉緑素みてーな感じの」
「それを言うなら葉緑体じゃないですか? 葉っぱの中に含まれているのは葉緑体で、葉緑体の中の葉緑素が緑色をしてるから、葉緑体も緑色に見えるんですよ」
「いいんだよ細けーこたぁ。そういやこの緑の粒子、リオデジャネイロでも時々、日の光に照らされて、肉眼で見えたことがあったな。ただ、ここで舞ってる緑の粒子は、リオの比じゃない量だぜ。やっぱりこの樹海、何かありそうだな」
「ですね。それはそれとして、見た感じは本当に神秘的で綺麗ですよね。アカネにも見せてあげたかったな」
……と、その時。
コーネリアスが、後ろからレイカを呼び止めた。
「レイカ」
「はい? どうしました少尉?」
「アカネは、まだ死んだわけではなイ」
「……そう、ですね。すみません、私ったら……」
「いや、良イ。いつかきっと会えるかラ、必要以上に落ち込む心配はないと言いたかっただけダ」
「はい。ありがとうございます、少尉」
「どしたオマエら。何かあったか?」
先頭を歩いていたジャックが振り向き、レイカたちが遅れていることに気づいて、そう声をかけてきた。
レイカは「何でもありませんよ」と返答して、ジャックのもとへ小走りで向かっていった。
◆ ◆ ◆
一方こちらは、北園のチーム。
同行するのは日影と本堂。
こちらでも、北園たちは二体のヴェルデュと遭遇していた。
しかし、戦闘はすぐに終了。
本堂が一体目のヴェルデュの首に回し蹴りを叩き込み、首をへし折った。
そして日影が『太陽の牙』を思い切り振り下ろして、二体目を真っ二つにした。
「アォォ……」
「さすがにここまで相手すると、こんなゾンビめいたヤツでもちっとは慣れてくるな。もうあまりビビらずに済みそうだぜ」
「そういえばお前は、ホラーが苦手だったか。ここに日向がいないのは幸運だったな」
「あぁまったくだ。とはいえ、ホラーな見た目に目をつぶれば、ヴェルデュは弱ぇから相手をするぶんには楽だな。この樹海の風景に擬態して襲ってくるかと思ってたが、アイツらは隠密行動ってヤツを知らねぇらしい。物音を立てて近づいてくれるから、不意打ちされる心配もほとんど無ぇ」
「そうだな。『星殺し』が出現しているとは思えないほどに落ち着いた環境、そしてレッドラムより遥かに弱いヴェルデュという敵性体。ここまで楽に行き過ぎて、逆に怖くなってくる」
「確かにな。ロストエデンとの戦いになった時が本当の始まり……なんてパターンが来ないよう祈るばかりだぜ」
雑談を交えながら先へと進む二人。
そんな二人の後ろを、北園もついて行く。
その途中。
北園は日影の背中を見ながら、ふと考えた。
「もうすぐ、日向くんの存在のタイムリミットが終わる……。その時が来たら、今度こそ日影くんと決着をつけるんだよね……。日影くんには悪いけど、私はやっぱり日向くんに残ってほしい……」
……今の日影は、北園に背中を向けている。
本堂との雑談に意識を大きく割いており、隙だらけだ。
「……って、なに考えてるんだろ私……。そんなことをしても、私じゃ日影くんには勝てないし……というか、それ以前に私が日影くんを攻撃するなんて考えが間違ってるんだから……」
急に自分の頭の中に湧いて出た馬鹿な思い付きを、北園は頭を振って追い出した。
◆ ◆ ◆
そしてこちらは、日向のチーム。
同行するのは、エヴァとシャオラン。
この三人は今のところ、とくにヴェルデュなどに遭遇することなく、安全に探索を進めていた。
「どうだエヴァ? ロストエデンらしき気配は掴めそうか?」
日向がエヴァに声をかけるが、彼女は日向の言葉に受け答えせず、どこか落ち着きがなさそうに周囲を見回していた。何かを警戒しているような様子にも見える。
「エヴァ、どうしたんだ? 近くに何かいるのか?」
「いえ……何もいない、と思います……」
「なんだ、珍しく曖昧な返事だな。いったいどうしたんだ? 調子が悪いのか?」
「確かに、どう見ても普通の森なのですが、森全体が私たちを監視しているような……まとわりつくような、気味が悪い気配を感じるのです」
「それ本当に何かいるんじゃないか?」
「そう思うのですが……見回してもご覧のとおりです。敵の姿は一切見当たりません」
「確かに、何もいないよな……。けど、お前がそんな違和感を感じるあたり、やっぱりこの森には何かありそうだ」
するとここで、シャオランが二人に声をかけてきた。
何かを思いついたような様子である。
「いま思いついたんだけどさ、この森がロストエデンの外殻って可能性はないかな? それなら、ボクたちがこの森全体から監視されてるっていうのも説明がつきそうじゃない? ボクたちは今、ロストエデンの身体の上を動き回ってるようなものだから」
「その可能性も十分に有りえるな……。とはいえ、結論を出すのはまだ早い。もう少し探索してみて、何も見つからなかったら、最終手段としてこの森を焼き払って……おや?」
話の途中で、日向が何やら声を上げた。
左方向に何かを発見したらしい。
日向たち三人は進路を変え、日向が発見した何かを確認しに行く。
そこには小さな池があった。
地図によると、ここは国立公園の中心地付近のようだ。
その池のほとりに、見慣れぬ大きな植物が生えていた。
全体的なシルエットは、百合の花に似ている。
見る者を魅了する真っ白な花弁は、まるで自身がここに在ることを天へアピールするかのように、空に向かって大きく開いている。
それだけなら可愛らしい花なのだが。
この白い花、デカい。
日向たちと同じくらいの背丈がある。
日向は、恐る恐るといった様子で、エヴァとシャオランに声をかけた。
「……二人とも。この白百合の最終進化系みたいな花について、名前とかの心当たりは?」
「ぜ、全然ないよ。初めて見る……」
「私もです。『幻の大地』でも、このような花は見たことがありません」
「たぶんラフレシアくらい大きいよな。メガ白百合?」
ここで三人は、考える。
緑化現象の中心地点だという、このブラジリアという土地。
ロストエデンの外殻かもしれない、この樹海。
そして、この見るからに特別感がある謎の白い花。
日向たちが発見したこの花は。
もしかすると、ロストエデンと関係があるのではないか。