第1465話 エドゥアルド・ファミリー
ここは、リオデジャネイロの中心街。
近代的なビル群の中に、西洋文化を取り入れたモダンで洋風な建物が混じり、独特なハーモニーを生み出すエリア。
その一区画。
もとは政府市庁舎として使われていた、洋風で左右対称の大きな建物。
その建物の一室。要人を迎え入れる応接間。
そこに、いかにも高級そうな白いソファーに腰掛ける、十八歳くらいの少年の姿があった。
その少年は、この街に住んでいたブラジル人。
褐色の肌に、くしゃっとした黒髪。
彼の目の前には、この街の植物から採ってきた果実の山。それから、もう誰もいなくなった高級料理店などで調達してきた高い酒類の数々。彼が座るソファーの横には、同年代くらいの女子を二人侍らせている。
まさに、この街で実行可能な贅沢の限りを尽くしたような光景。
だというのに、少年の表情は、まだ何かが満たされていないような不機嫌さだった。
そんな少年がいるこの部屋に、彼の仲間と思われる若者が一人、息を切らせながら入ってきた。
『はぁっ、はぁっ、エドゥ大変だ! あの余所者たちを追い出すために派遣された連中、全滅したぞ! おまけに今、連中はこっちに向かってきてる!』
切羽詰まった様子で報告をする仲間だが、エドゥと呼ばれた少年は落ち着いている……というより面倒くさそうな様子である。
『はぁぁ? 何であの数で負けるんだよ。めんどくせぇからアイツらに任せたのに、やられてんじゃねぇよまったく……』
『そ、それで、俺たちはどうするんだ!?』
『落ち着けよ。軍隊から奪った、もっと強い武器があるだろ。火炎放射器でもロケットランチャーでも好きなものを使えって他の奴らに言っとけ。終わったらまた報告に来い』
『エドゥは戦わないのかよ!?』
『ここにいる兵隊の数は、連中への攻撃に向かわせた兵隊より少しだけ多い。そこに軍隊の武器も加わる。これなら勝てるだろ。俺は今、猛烈にやる気が湧かないんだ』
『ったく、仕方ないな……』
ぶつぶつと文句を言いながらも、仲間の若者はエドゥの部屋から出て行った。
エドゥは、左側に座る少女を左腕で抱き寄せ、右手で果実を頬張りながら、やはり不機嫌そうにつぶやいた。
『ようやくチャンスが来たんだ。ようやく、俺が王になれる時代になったんだ。邪魔なんかさせねぇよ……』
それから一時間近く経った後。
この政府市庁舎、エントランスは戦場となっていた。
ここにやって来た日向たちと、ここを拠点とするエドゥアルド・ファミリーの激突である。
ギャングたちは、軍隊から略奪した最新式のアサルトライフルや、手投げ式の催涙弾や発煙筒、さらには火炎放射器やロケットランチャーまで使って攻撃してくる。
だが、今さらその程度の銃火器に敗北する日向たちではない。
シャオランと日影が銃弾を掻い潜り、ギャングたちに接近。そして渾身の力を込めた拳で、次々とギャングたちを殴り飛ばした。
「これくらい、アメリカチームに比べれば! せやぁッ!」
「ああ。武器が良いだけで、ただの素人の集まりだな。おるぁぁッ!!」
『ぐぁぁ!? こ、コイツら……!』
『お、おい! あまり乱射するな! 俺たちまで撃つ気か!』
それから、こちらではエヴァが能力を使い、猛烈な冷気でギャングたちを攻撃している。
「命までは取りません。”フィンブルの冬”!」
『ぎゃあああ寒いぃぃぃ!?』
『やばい!? 銃まで凍らされる!? いやそれ以前に、俺たち自身が凍る!?』
そんなエヴァを攻撃しようと、一人のギャングがこの大部屋の片隅で、スナイパーライフルで照準を合わせていた。狙いはエヴァのこめかみだ。
『あの妙な能力を使うガキを排除してやる……!』
そしてギャングは、ライフルの引き金を引いた。
だが、ギャングが放った銃弾は、エヴァに当たる前に叩き落された。
エヴァへの射線を遮るように割り込んできた本堂によって。
『じ、銃弾を、弾いた……!?』
そのまま本堂は、ライフルを構えるギャングへ接近。
ギャングは本堂を迎え撃つためにもう一回、引き金を引いた。
しかし本堂は、この第二射も右腕の刃で防御。
もうギャングの目の前まで迫り、右腕を振るって斬りかかった。
「ふん……!」
『ひっ!?』
本堂が振るった右腕の刃は、ギャングの首元にほんの少しだけ食い込み、少量の血を流させた。
寸止めされたギャングは、首をはね飛ばされると思ったのだろう。全身の力が抜けたかのように、その場に座り込んで動かなくなった。
エヴァを守り、敵の無力化に成功した本堂だが、彼は現在、自分の右手を不思議そうに眺めていた。
「今のは……」
一方、こちらではARMOUREDの三人が戦っている。
ジャックが敵兵の銃を射撃して破壊し、レイカが刀を振るって敵兵の銃を切断する。
「へっ、銃を持った人間が相手ってのも久しぶりだな! 熱くなってきたぜぇ!」
「ちょっとジャックくん、油断して被弾したりしないでくださいね!」
そんな二人へ向けて、一人の大柄なギャングの若者が、ロケットランチャーを構えた。
『これで、一網打尽だ!』
……が、彼がロケット弾を発射するよりも早く、コーネリアスが対物ライフルを射撃。
「遅イ」
撃ち出された大口径のライフル弾は、ギャングが構えていたロケットランチャーを正面から貫き、木っ端みじんに吹き飛ばした。
『うわぁぁぁ!? い、痛ぇ……! 壊されたランチャーの破片が刺さった……』
そんな中、北園はバリアーを展開し、流れ弾に当たらないようにしている。
本来なら彼女も、戦闘に参加してもまったく問題ない実力があるのだが……。
「安心してね、テオくん。私がしっかりと、君を守ってあげるからね!」
いま彼女が名前を読んだとおり、この場にはテオ少年も来ている。
何やらエドゥアルド・ファミリーのリーダーに話したいことがあるらしい。
そのテオを守るために、北園はバリアーの中に彼を匿っていた。
「あり、がと。おねちゃん」
「どういたしまして!」
その北園のバリアーを狙って、一人のギャングがアサルトライフルを集中射撃。
『女と子供だ! あのバリアーを破って、あの二人を人質にすれば、形勢逆転だ!』
そう言いながらギャングはアサルトライフルを連射するが、これまで銃弾など比較にならないほどの強力な攻撃を防御し続けてきた北園のバリアーである。今さら普通の銃弾など恐るるに足りず。
そのアサルトライフルを射撃中のギャングに、日向が背後から忍び寄り、彼の腰を両腕でガッシリと捕まえる。そしてそこから、ジャーマンスープレックスでギャングを後頭部から床へ叩きつけた。
「北園さんに何さらしとるんじゃー!」
『ぎゃふんっ!』
こうして日向たちは、この場にいるギャングたちを全員、無力化した。
手加減したので、命を落としたギャングは一人もいない。
するとそこへ、誰かの足音。
エントランスの二階から、このギャング集団のまとめ役であるエドゥが姿を現した。
『お前らか。俺の街に土足で上がり込んできたっていう余所者は」