第1464話 ギャング襲撃
コーネリアスの活躍により敵スナイパーを撃退できたが、今度は突撃銃などで武装したブラジル人の若者たちに包囲されてしまった。
周りの敵を警戒しながら、日向がエヴァに声をかける。
「エヴァ。さっきのスナイパーの気配には気づいて、ここまで接近してきた敵兵には気づけなかったのか?」
「ちょうど気配感知を解除していたタイミングを狙われました。彼らが私の能力を知っているとは思えないので、偶然に偶然が重なった結果でしょうね」
「油断しちゃったか」
「気配感知も集中力がいるのです。使ってばかりだと疲れます」
全部分において自分が悪いわけではない、とでも言いたげにエヴァは少し語気強めで日向に返答。
一方、この街に住んでいたテオは、日向たちを取り囲んだ若者たちのことを知っているようだ。レイカがポルトガル語でテオに尋ねる。
『テオくん。彼らはいったい何者ですか?』
『ファミリー……。昨日話した、今この街を支配してるギャングの一員だよ。エドゥアルド・ファミリーって呼ばれてる……』
『ああ、彼らが。目的はやはり、この街を元に戻しに来た私たちの排除でしょうか』
『だと思う……。特にリーダーのエドゥアルドは、スラム街出身やストリートチルドレン以外の人たちを……豊かな暮らしをしてきた人たちを嫌ってる。その関係で、他所から来たあなたたちを追い出そうと思っているのかもしれない』
『なるほど。私たちはとことん、この街では嫌われ者ですね』
すると、日向たちを包囲している若者の一人が、ポルトガル語で何かを呼び掛けてきた。レイカと本堂の翻訳によると、どうやら武器や食料などを全て置いて、さっさとこの国から出ていけと言っているようだ。そうすれば命までは取らない、とも。
当然、そんな要求を呑むわけにはいかない。
日影が北園に声をかける。
「北園。オレたちが動いたら、すぐにバリアーを展開しろ。ドーム状のヤツな。それでテオを守ってやれ。連中はオレたちが片付ける」
「りょーかい! 気を付けてね!」
「よっしゃ。んじゃ……行くぜッ!」
日影の合図と共に、北園とテオを除いた八人は一斉に動き出した。自然体で立っていた状態から、一気に加速して敵兵たちとの距離を詰める。
八人があまりにも急に動き出したので、ファミリーの兵士たちは反応が遅れた。素早く照準を合わせなおそうとするが、その頃には日向たちのほとんどが兵士たちの目と鼻の先まで迫っていた。
いち早く攻撃を仕掛けたのは本堂。
敵兵にタックルをぶちかまし、建物の外壁に叩きつけた。
「ふんっ……!」
『げほぉっ!?』
続いてそれぞれ、シャオランが肘鉄を突き刺し、日影が飛び蹴りで敵兵の顔面をなぎ倒す。レイカが居合抜刀で兵士の突撃銃を斬り捨てて、ジャックとコーネリアスが義手で敵兵を殴り飛ばした。
日向は皆よりも動きが遅れ、敵兵の射撃を許してしまう。
しかしスライディングで銃弾を回避し、そのままカニ挟みで敵兵の足元を崩す。
「それっ!」
『うおっ!?』
足を崩され、転倒する敵兵。
素早く日向は飛び掛かって、敵兵を背中の上から抑え込む。
「確保!」
『くそっ! 放せ!』
ポルトガル語をまき散らしながら暴れる敵兵。
しかし、日向も敵兵をガッシリと捕まえて放さない。
すると敵兵は、近くの建物の屋根の方を見て声を上げた。
そこには、彼らの仲間と思しき若者が二人いる。
『お前ら! エドゥに報告しろ! 連中、思ったより強い! 応援を要請するんだ!』
この敵兵の言葉を受けて、若者二人はその場から撤退を開始。隣接する屋根から屋根に飛び移って逃走する。
「あ、まだ仲間がいたのか! 本堂さん、追えますか?」
「承った」
日向の言葉を受けて、本堂が動く。
たった一回のジャンプで、先ほどまで若者二人がいた建物の屋根に飛び乗り、そのまま追跡を開始。
『な、なんか来たぞ! うわ、なんだアイツ速ぇぇ!?』
『ば、バケモノだ! 来るな! 来るなー!』
それから程なくして、本堂は若者二人を捕まえて戻ってきた。
「確保した」
「さすがです本堂さん」
その一方で、日向に捕まえられた敵兵は、今の本堂の動きを見て、そして何より日向たちの強さを目の当たりにして、唖然としていた。
『な、何なんだこいつら……本当に人間か……?』
唖然とする敵兵に、本堂がポルトガル語で声をかける。
『さて。それで、お前達がエドゥアルド・ファミリーだということは把握したが、何故に俺達を攻撃した?』
『ふん。教える義理はないね。強いて言うなら街の浄化作業だ』
『成る程、概ねテオ少年の言う通りだったか。というか、お前それはほとんど教えてるも同然じゃないか?』
『構わない。どのみち、お前たちはもう終わりだからな。俺たちは時間稼ぎだ。お前たちが拠点にしている乗り物は、今ごろ俺たちファミリーの本隊が襲撃している』
『何……?』
『俺たちに賛同する生存者も加えた、総勢四十人の軍隊だ。お前の仲間たちは今ごろ捕縛されているだろう』
敵兵の言葉を受けて、日向たちは顔を見合わせる。
そして、シャオランが日向に向かって強く呼びかけた。
「ヒューガ! 急いで飛空艇に戻ろう! 早くしないとギャングたちが危ない!」
それから日向たちは、先ほど無力化した敵兵を何人か連行しながら飛空艇へ急行。
飛空艇の停泊地点に到着すると、そこには総勢四十名の暴徒が、ボコボコにされて山積みになっていた。文字通りの死屍累々である。
飛空艇を襲撃してきたギャングたちを片付けたのは、留守を任されていたミオンである。
シャオランがミオンのもとに歩み寄り、声をかけた。
「師匠!」
「あらシャオランくん~。それに他のみんなも、おかえりなさ~い。もう大変だったのよ? いきなりたくさんの人たちがここを襲ってきて……」
「そんなことより、この人たち、殺してないよね?」
「してないわよ~。ちゃんと手加減したわよ~」
「そこで倒れてるその人とか、見るからに虫の息って感じだけど?」
「あ~、その人は……ちょっと新技を思いついちゃって、実験台に……」
「あぁもう、そういうことするから……。間に合わなかった……」
「ねぇシャオランくん、もうちょっと私の心配してくれてもいいんじゃない~?」
「だって、この星に師匠より強い人間いないし」
「ひどいわ~」
やり取りを交わす師弟。
そんな二人と、変わり果てたギャングの軍隊を、日向たちによって連行されてきたギャングの若者は、先ほど以上に唖然とした様子で見つめていた。
『…………は?』
「まぁ、四十人も人を集めて、銃で武装した奴までいるのに、たった一人の女性に負けるとは夢にも思わないよな普通」
軽く苦笑いしながらつぶやく日向。
するとそこへ、スピカが飛空艇からやってきた。
「やぁみんな、お揃いだねー。ご覧のとおり、当飛空艇は現地住民から襲撃を受けたけど、ミオンさんが鎮圧してくれたよー。もちろん、飛空艇にこれといった損壊はナシ!」
「大丈夫だとは思ってましたけど、無事でよかったです」
「それにしても、この子たちはいったいどうしてワタシたちを襲おうとしたのかな? やっぱり、ロストエデンを倒そうとするワタシたちが気に入らないから?」
「おそらくは。これからの活動の安全を確保するためにも、この街を牛耳っているっていうギャングたちとは一度、話をつけたほうがいいかもしれません」
「だろうねー。今から行くのかいー?」
「はい。引き続き、スピカさんとミオンさんには留守番をお願いしてもいいですか?」
「おっけー。今のキミたちなら間違いなく勝てる相手だとは思うけど、油断はしないようにねー」
「肝に銘じておきます。……さて、そこの君」
スピカとの会話を終えると、日向はいまだに唖然としているギャングの若者に声をかけた。
「君たちの本拠地……エドゥアルド・ファミリーのところまで案内してくれ」
『くっ……。俺たちがそう簡単に口を割るとでも……?』
「じゃあ仕方ない。ミオンさーん、ここに新技を試すのにちょうどいい木偶人形がいまーす」
「よ~し! ミオンおねえさん、新しい秘孔の研究とかしちゃうぞ~!」
『わ、分かった分かった! 教えるから!』
こうして、次の日向たちの行動の目標は「この街を支配するエドゥアルド・ファミリーを制圧し、ロストエデン討伐を認めてもらうこと」となった。