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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第24章 生命の果て、夢の終わり
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第1457話 緑の都市

 アラムと北園が交代で操縦しながら、飛空艇は空を進む。


 二人は可能な限り、飛空艇を全力で飛ばしてくれた。

 その甲斐あって、すでに日向たちはブラジル国内へ突入。


 コックピット内にて、エヴァが目を閉じ、気配感知を行なっている。


「……やはり、ここらの大地全体から、うっすらとですが『星の力』を感じます。しかし、それだけですね……。肝心の『星殺し』らしき気配は感じ取れません」


 首をかしげるエヴァ。

 そこへ日向が声をかける。


「たとえばさ、大地全体から『星の力』を感じるって言うなら、昨日のグラウンド・ゼロみたいに、このブラジルの大地そのものが”生命”の星殺し……ロストエデンの巨大な外殻っていう線はないかな?」


「ありえない話ではないですね。しかし、仮にそうだとしても、今まで感じることができていた『星の力』の集中点……『星殺し』の本体らしき気配がまったく感じられないのです」


「それはまいったな。『星殺し』は本体を倒すことで、初めて討伐できる。肝心の本体が見つからないんじゃ、いくら外殻を攻撃したところでなぁ……」


 日向とエヴァが言葉を交わしていると、北園がモニターで外の様子を見ながら声を上げた。


「うわー、地上は森ばっかり! これがアマゾンの密林かな? さすがブラジル、自然がいっぱいだねー!」


 彼女の言う通り、モニターに映るブラジルの大地は、辺り一面が木々に覆われ、緑一色だ。民家もまったく見当たらない。


 ……が、ここで、北園と同じくモニターを眺めていたレイカが、驚いた様子で声を上げた。


「これは……何か変です。普通、このあたりには町が広がっていたはずなのに……」


「え、そうなの、レイカさん?」


「そもそも、私が間違っていないなら、アマゾンの熱帯雨林はすでに通過したはずなんです。あれはブラジルの北西に広がっていますから。どうしてこんなところまで樹海が……?」


「皆、あれヲ見ロ」


 今度はコーネリアスが静かに口を開いた。

 彼もまた、モニターに映る景色を見て、その一部を指さしている。


 彼が指さした映像を見てみると、そこにはマンションのような大きな建物が映っていた。しかしその建物は、まるで自然に侵食されたかのように、あちこちから木々が生え、外壁が見えなくなるくらいにツタに巻かれている。


「あの建物にハ見覚えがあル。だが、あんなふうに植物ト一体化したようナ外観ではなかっタ。草木は一本も生えていなイ、ごく普通の人工物の外観だったはずダ」


 そのコーネリアスの言葉を受けて、日影が何かに気づく。


「あの建物の周りを見てみろよ。家とか、車とか、道路が見えるぜ。ここは密林なんかじゃねぇ。人間の町なんだ。それがなぜかジャングルみてぇになっちまってる」


 ここでいったん、日向たちは顔を見合わせる。


 今まで”生命(ライフメイカー)”の星殺しには、命を育てることを象徴するからか、植物を操る異能を持つマモノも多かった。特にアメリカ、ニューヨークに現れたユグドマルクトは、ニューヨークの街全体をジャングルのようにしてしまった。


 それを踏まえると、今回の”生命”の星殺し……ロストエデンもまた植物に関する異能を持っているのだろう。そうでなければ、なぜブラジルの国土全体が密林と化しているのか。


「何かが起こっているのは間違いなさそうだな」


「さっきヒューガが言ってた『大陸そのものがロストエデンの外殻』っていうのも、ありえる話になってきたかもね……」


「一度、地上に降りて確かめてみようか」


 本堂とシャオラン、そして日向がそれぞれ発言し、皆もそれにうなずいた。


 日向たちの決定を受けて、アラムが飛空艇を操縦し、ブラジル屈指の大都市であるリオデジャネイロと思われる街の郊外へと着陸。飛空艇の守りをミオンとユピテルに任せて、予知夢の六人とARMOUREDの三人は地上へ降りる。


 着陸したこの場所は、海が近い。

 だというのに、砂浜まで草原のようになってしまっていた。


「ジメっとしてて暑いですね……。今は12月だっていうのに、この暑さも『星殺し』の仕業なんでしょうか」


 日向がそう言うが、本堂が首を横に振る。


「ブラジルの12月は、日本の6月あたりに相当する。南半球だからな。今は夏だ」


「そういえばそうでしたね……」


「それにしても、この生い(しげ)る草と木は、本当にジャングルそのものだな。リオデジャネイロの砂浜といえば白く美しいことで有名な(はず)だが」


 ……と、その時だった。

 周囲をゆったりと見回していたエヴァが、何かに気づいたように街の方を振り向いた。


 その様子に気づいた北園が、エヴァに声をかける。


「エヴァちゃん、どうかしたの?」


「何者かの気配を感じました」


「気配? もしかしてレッドラム?」


「いえ、これは普通の気配……人間か、あるいは動物だと思います」


「どちらにせよ、この星の大事な生き残りだね」


「しかし、その気配の近くに、敵意を含んだような気配もいくつか……」


「そ、それってつまり、生存者がレッドラムに襲われそうってこと!? 早く助けに行かなくちゃ! エヴァちゃん、案内して!」


「こっちです。気配もまたこちらへと近づいています。恐らくは合流できるでしょう」


 エヴァの案内のもと、日向たちは街の中へ。

 ほどなくして、古めの洋風な建物が密集する市街地の中で、一人の人間と遭遇した。


 その人物は、少年だった。

 いかにも現地住民という雰囲気を感じる、褐色の肌で黒髪の、とても大人しそうな印象の少年だ。


 特に身を隠したりせずに移動していた日向たちは、この少年とばったり出会う。


『わ!? あ、あなたたちは誰?』


「ん、んー、聞き慣れない言語」


 知らない言葉で少年から話しかけられて、日向は困惑の表情。

 すると、レイカが少年の目線の高さまでしゃがんでから、彼に声をかけた。


『こんにちは。私たちは、世界に平和を取り戻すために戦ってる兵士さんよ。あなたはこの街の子供かな?』


『あ、う、うん、そうだよ。ここで暮らしてるんだ』


「レイカさん、それ何語なんですか?」


「ポルトガル語ですよ。ブラジルの公用語はポルトガル語です」


「ポルトガル語かぁ。さすがの狭山さんもポルトガル語までは教えてくれなかったからなぁ……」


 レイカのおかげで少年も警戒の姿勢をほぼ解いてくれて、場に和やかな空気が流れ始める。


 ……が、その時だった。

 近くの建物の陰で、何かがうごめく。

 この場にいる全員が、そのうごめく何かに警戒の視線を向けた。


 そこにいたのは、全身が植物のツタや木の葉に覆われた、不気味な人型の怪物だった。


「ア……ァア……」


「な、なんだあいつ……!? レッドラムか……?」


 日向が目を丸くしてつぶやく。

 すると、先ほど出会った少年が、声を上げた。


『ヴェルデュだ……! 逃げなきゃ……!』

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