第1456話 見送り
最後の『星殺し』を探すため、アメリカ合衆国から南アメリカ大陸のブラジルへと向かう日向たち。移動にはもちろん飛空艇を使う。
ブラジルへ向かうのは予知夢の六人と、ARMOUREDのジャック、レイカ、コーネリアスの三人。それからスピカにミオン、金色の大鷲のユピテル、そして飛空艇の操縦を担当するオネスト・フューチャーズ・スクールの子供たちだ。
飛空艇が合衆国機密兵器開発所を発つ時、アメリカ兵たちが総出で見送りに来てくれた。飛空艇に乗り込む前に、兵士たちが口々に声をかけてくる。
「予知夢の六人! 三人を頼んだぜ!」
「一緒に俺たちの国を守ってくれてサンキューな!」
「『太陽の牙』、すごい火力だったわね! あれなら最後の『星殺し』にもきっと負けないわよ!」
見送りに来てくれた兵士たちの中にはマイケルとノイマン、リカルドにサミュエル、ロドリゴやカインら、大きな活躍をしてくれた兵士たちの姿もある。
「ぶふふぅ! 僕たちも君たちに負けずに、頑張ってこの国を復興させるよぉ! 大尉の遺志もあるしね!」
「タイガー。もしそっちの状況がやばそうならいつでも呼んでくれ。戦闘機で駆けつけるぞ。いや、戦闘機なんだから『飛んでくる』って言った方が正確か? まぁいいか、どっちでも」
「最後の『星殺し』……きっと今までの敵に無い何かがあるかもしれないね。でも君たちならきっと勝てるよ。冷静ささえ失わなければ」
「ふん、せいぜい油断しないことだ。お前たちが失敗した時、尻ぬぐいをしてやるような余力もこちらには残っていない。だから、絶対に勝てよ」
「まぁ中尉はこんなぶっきらぼうなこと言ってますけど、君たちを心配してる気持ちは本当だから。この人、最後まで『自分もついて行って助力する』って言ってたんだよ」
「准尉、貴様なぜバラす」
リカルドの顔面を鷲掴みにして黙らせるサミュエル。
相変わらずなやり取りに、日向たちは楽しそうに小さく笑った。
ロドリゴとカインも声をかけてくる。
「YO~! きっとここからが大勝負! だけどお前らなら大丈夫! 待ってるぜ、この星にラブ&ピース!」
「いやほんと助かったっす。君たちが来てくれなかったら、この戦い、厳しかったっすね」
「あの、そこのお二人」
鈴が鳴るような声と共に、エヴァが二人の前へ近寄ってきた。
彼女は何やら申し訳なさそうな表情をしている。
「お、エヴァちゃんじゃん? どったの?」
「ロドリゴさんと、カインさんですね。ニコさんのことを謝らなければと思っていました……」
「あー、ニコちんがマモノになった件か」
「私も止めたのですが、どうしてもと強く望まれ、折れてしまいました。そしてスピカ型のレッドラムと戦って命を落としたと聞きました……。私が彼女に『星の力』を与えなければ、こうはならなかったのかもしれません……。申し訳ございませんでした……」
そう言って深々と頭を下げるエヴァ。
ロドリゴとカインは顔を見合わせ、それからエヴァに声をかけた。
「顔上げてくれよエヴァちゃん。たしかにニコちんがいなくなっちまったのは悲しいけどよ、アレは彼女が自分で覚悟を決めて、自分で実行したことだ」
「っすね。君のことを責めるのはお門違いっすよ。むしろ、こうして謝ってくれて、君は良い子っすね。マモノ災害を止めるためとはいえ、君を皆で始末しようとしてたのが恥ずかしくなるっす」
「はは、違いねぇ。というわけでエヴァちゃん。ニコちんを勝たせてくれて、ありがとうな」
「ありがとう、ございます……」
少し微笑んで、エヴァは二人に礼を言った。
マモノ災害の元凶として、もともと彼らとは敵対していた関係だった。だから、彼らの仲間をマモノにしてしまって、さぞ恨まれているだろうと思っていたが、こんなにも暖かな言葉をかけてもらえるとは思っておらず、エヴァは胸の内が少し熱くなったのを感じた。
それから、日向とジャックのもとへ、技術班のハイネが駆け寄ってきた。
「あーよかったよかった間に合った!」
「ん、ハイネさん?」
「どうしたハイネ、そんなに慌ててよ。手に持ってるソイツぁはタブレットか?」
「そーそー! 大統領のおっちゃんがね、あいさつしたいってさ」
そう言ってハイネがタブレットの画面を見せると、そこにはカード大統領が映っていた。
『日下部日向。この度の合衆国本土奪還作戦の成功、君たち六人の活躍が非常に大きかったと聞いた。本当にありがとう』
「大統領……。いえ、自分たちもアメリカチームの皆さんには本当に助けられました。皆さんがいなかったら、今回の勝利は無かったです。間違いなく』
『そう言ってくれると、こちらも誇らしい。できれば、ブラジルへ向かうという君たちを大々的に支援してあげたかったが、こちらの立て直しが必要な状況でな』
「はい、理解してます。ARMOUREDの三人を預けてくれるだけでも本当に心強いです。感謝してます」
『こちらが現在できる最大の支援のつもりだ。彼らが君たちの力になれることを祈っている』
日向との会話を終えると、次に大統領はジャックに声をかけた。
『ジャック。後のことはよろしく頼んだぞ』
「オーケー、おっさん。任せとけよ」
『……こうして顔を合わせると、お前は少し雰囲気が変わったか? どことなく、大尉にも似た頼もしさを感じるよ』
「そーか? なんも変わってねぇと思うけどな」
言葉とは裏腹に、どこか嬉しそうに、ジャックはそう答えた。
ひととおり別れの言葉を掛け合った後、飛空艇は離陸。
ここからはるか南、ブラジルへ向けて飛び立った。
今回の飛空艇の操縦は、アラムが担当。
ブラジルまではかなりの時間がかかる予定なので、北園と交代しながらフライトする予定である。
その北園は現在、コックピットのモニターを見て、見送ってくれているアメリカ兵たちを見ている。彼女は兵士たちを”治癒能力”で回復させる時に顔を突き合わせる機会が多かったからか、感慨深そうに彼らを眺めていた。
日向は、そんな北園を、彼女から少し離れたところで静かに見つめていた。
「……アメリカでは、北園さんが見た予知夢……俺が北園さんを『太陽の牙』で貫く夢は、アメリカでは実現しなかった。知らない間に回避できた……っていうのは虫が良すぎるよな。実現するとしたら、次のブラジルか、狭山さんと戦う時……」
今の日向は、なるべく北園から距離を置くようにしている。
彼女の予知夢から、彼女を守るために。
「……けど、たまには近づきたいなぁ。北園さん成分不足により身体が爆裂して死にそうだ」
少し疲れたふうに、日向はそうつぶやく。
モニターを見ていた北園が振り返り、日向と目が合う。
彼女もまた同じことを考えていたのか、少し寂しそうに微笑んだ。