第1455話 最後の星殺しの居場所
六体目の『星殺し』グラウンド・ゼロをどうにか討伐できた日向たちは、皆で飛空艇に乗り込み、合衆国機密兵器開発所へと帰還した。
途方もないほどの量の攻撃を超震動エネルギーにぶつけ、何度も「もう駄目だ」と思わされ、肉体的にも精神的にも疲弊しきった日向たちは、機密兵器開発所に到着するなり、無気力の底へ沈むような勢いで休息を取った。
そして、夜が明ける。
日向の存在のタイムリミットは、残り八日。
アメリカチームは、しばらくはこの機密兵器開発所を拠点として使うつもりらしい。ここは独自の発電設備により電気も通っていて、農作物が育てられるプランターなども完備している。施設を警備してくれる無人兵器もある。空母よりは快適に過ごせるはずだ。いずれニューヨークの空母で待つ大統領たちも、この施設へ移動させる予定だそうだ。
そして日向たちも、最後の『星殺し』を討伐するために、今日にでもここを出立するつもりである。もう少しゆっくりしたいところであったが、日向のタイムリミットもいよいよ危険水域だ。あまり悠長にしてはいられない。
日向がエヴァに声をかける。
「エヴァ、どうだ? 最後の『星殺し』の居場所は分かったか?」
七体目の『星殺し』は、今までエヴァも発見ができていなかった。グラウンド・ゼロが保有していた『星の力』も合わせれば、エヴァの気配感知の範囲と精度も向上し、今度こそ発見できるかもしれない。期待の感情を込めて日向は尋ねた。
日向の言葉を受けて、エヴァが返答。
「これは……ううん……」
「ど、どうしたエヴァ。見つからなかったのか?」
「今までの『星殺し』とは明らかに異質な気配なのですが、確かに『星殺し』にも負けない大規模な『星の力』の集まりを一つだけ感じます」
「ええと、つまり、どういうこと?」
「何というか……今までの『星殺し』は、どれも巨大な『個』でしたが、今回は広い範囲にわたって膨大な量の『星の力』が散っているような……そんな感じなのです」
「七体目の『星殺し』は複数いるってこと?」
「あり得る話ですが、ここから気配を探るだけではなんとも……。そもそも、この気配が『星殺し』かどうかさえ、現時点では確定できません」
「とはいえ、エヴァでさえもよく分からない気配なら、逆に特別な何かがありそうではあるよな。やっぱりここは、直接現地へ行って確かめてみよう。どのみち、俺のタイムリミットもわずかだからな」
「ですね。少しでも可能性があるなら、立ち止まっていないで行動するべきでしょう」
「ちなみに、その気配を感じるのはどこなんだ?」
「地図で言うと……このあたりですね」
そう言ってエヴァが指さしたのは、日向たちが現在いる北アメリカ大陸の南方、南アメリカ大陸のブラジルだった。
北園とシャオランも興味津々といった様子で、エヴァが指さしている地図を覗き込んでいる。
「ブラジル! マモノ災害の時も一度も行ったことがないよね、私たち!」
「ブラジルかぁ……。あっちの方は治安が良くないって聞いたことあるから、ちょっと不安だなぁ……」
「治安がどうこう以前の問題かもしれないけどね。誰か無事な人間がいるといいんだけど」
「それもそっか……」
その二人に続いて、本堂も地図を見ながらつぶやく。
「ブラジルか。ブラジルを中心として広がるアマゾンの熱帯雨林は、生命の宝庫でもある。そして最後の『星殺し』もまた”生命”。何か関連性があるかもしれんな」
「何が出てこようが、ぶちのめすだけだぜ」
本堂の言葉を聞いて、日影がそう答えた。
北園は日影の頼もしさを称えるような視線を送っているが、日向とシャオランは相変わらずの脳筋理論に呆れた視線を送る。
すると、そんな六人に、ARMOUREDのジャックが声をかけてきた。
「オマエら、次の目的地は決まったのか?」
「ああ、ジャック。次は俺たち、ブラジルに行くことになりそうだ」
「ブラジルか。マモノ災害の時に行ったことあるな、俺たちは。ところで相談なんだが」
「ん、どうしたんだ?」
「オマエらさえ良ければ、最後の『星殺し』の捜索と討伐、俺たちARMOUREDも協力しようと思ってるんだがよ」
「え、いいのか? そっちもこれからのこととか、また襲ってくるかもしれないレッドラムへの警戒とか、色々とやるべきことがあるだろ?」
日向は驚きで目を丸くしながらジャックにそう尋ねるが、ジャックは気にせずにうなずいた。
「ああ。そもそも、俺たちがどんなに国の再興に向けて頑張ろうと思っても、この”最後の災害”をどうにかできなけりゃ無駄な努力だしな。それなら優先するべきは『星殺し』だ。オマエらを手伝って、少しでも勝率が上がるなら、そうするべきだろ。まぁあくまで、オマエらさえ良ければだが」
「こっちからお願いしたいくらいだったよ。皆も、良いよな?」
日向が仲間の五人に尋ねる。
日影を除く四人が、それぞれうなずいた。
唯一うなずかなかった日影も、むしろ「わざわざうなずくまでもない」といった様子であり、ARMOUREDが付いてくること自体は賛成しているようである。
「……というわけで、満場一致の賛成だった。引き続きよろしくな、ジャック。レイカさんとコーネリアス少尉も」
「おう、任せとけよ! 本当ならグラウンド・ゼロの時みたいにチーム総出でついて行けりゃ良かったんだけどよ、やっぱりオマエも言ってくれたとおり、合衆国は合衆国でやらなきゃならねーことも多いからなー」
「数が少ないぶン、働きで埋めルとしよウ。狙撃が必要な時ハ任せロ」
日向の言葉に、ジャックとコーネリアスがそれぞれ、そう返事した。
ただ、日向の言葉に返事をしなかったレイカは、なにやら不安げな表情を浮かべており、意識もどこか上の空といった様子だ。日向の言葉が聞こえていないようである。
「レイカさん?」
日向がレイカの名を呼んでみる。
今度はレイカも彼の声に気づき、慌てて返事。
「……あ、日下部さん? ええと、あ、そうだ、私たちもブラジルへついて行くって話でしたね。すみません、ちょっと気が抜けちゃってて」
「いえ、自分は大丈夫です。レイカさんは……いけそうですか?」
「ええ、もちろんです。アカネは相変わらず起きてくれませんが、私がアカネの分まで頑張りますので!」
「分かりました。頼りにしてます」
レイカと日向の会話も終わったところで、皆はブラジルへの出発に向けて、それぞれ準備を開始することにした。
その直前。
予知夢の六人と別れたところで、ジャックがレイカに声をかけた。
「レイカ。アカネのこと、まだ立ち直れないのか?」
「ジャックくん……。はい、そうみたいです。昨日も言いましたが、私の半身……私の存在の半分が消えてしまったような、悲しいというか、不安な気持ちでいっぱいなんです。アカネが自我を確立して、この肉体を共有するようになったのはつい最近のことなのに、私が生まれてからずっと一緒だった相棒を失ってしまったような……そんな感じです」
「そうか……。もちろん俺も、アカネが目を覚まさないのは悲しいけどよ、オマエの引きずり方はかなりヘビーだぜ」
「ですね……。いつの間にか、私にとってアカネは、それほどに大きな存在になっていたみたいです」
「なぁレイカ。ホントに大丈夫か、ついてきて? オマエはこっちに残って休んでても……」
「ありがとうございます、ジャックくん。でも、私は本当に大丈夫ですから」
「ならいいけどよ……」
そう言って頭をかくジャック。
レイカは連れて行くことにしたものの、まだ彼は少し不安そうだった。