第1452話 作戦完了
日向と日影の同時攻撃を受けて、ついにグラウンド・ゼロが両膝をついて、動きを止めた。
まず間違いなく致命傷を与えているだろうが、それでもまだグラウンド・ゼロは息がある。日向と日影は油断なく『太陽の牙』を構え、グラウンド・ゼロにトドメを刺す用意。
そんな中、ジャックがおもむろにグラウンド・ゼロの正面から近づいた。いつもの不敵な微笑みを浮かべているが、その笑みにはどこか威圧感がある。
日向が慌ててジャックに声をかける。
「ジャック、危ないよ。グラウンド・ゼロはまだ生きてる。最後の力を振り絞って襲い掛かってこないとも限らないんだから……」
「心配すんなよヒュウガ。ちょいとここは任せてくれ」
日向にそう返事をして、ジャックは改めてグラウンド・ゼロと向かい合う。
グラウンド・ゼロも、表情は変わらないが、どこか忌々しそうにジャックを見上げている。
ジャックが口を開き、グラウンド・ゼロに声をかけた。
「よう、グラウンド・ゼロ。コイツぁ俺の予想なんだが、オマエは俺たちを……この国を甘く見てたんじゃねーか?」
「goo...」
「このラストバトルのことじゃない。今回の俺たちとオマエらアーリアの民の戦争を通しての話だ。ヒュウガとヒカゲさえ……予知夢の六人さえどうにかできれば、後はどうとでもなるって思ってたんじゃねーか? オマエも、レッドラムどもも……」
「g......」
「だがその結果、鮮血旅団の幹部どもは皆、俺たちアメリカチームがぶちのめした。オマエはグングニルで外殻を崩壊寸前まで持っていかれた。へへ、ざまぁ見やがれ」
「gggg...gooooooo!!」
いきなり大きな声を上げて、グラウンド・ゼロがジャックに襲い掛かった。日向によって半分に斬られ、今は鋭い杭のようになっている右拳で。
「ジャック、危ない!」
「ジャック!」
「避けろ、ジャック!」
日向、日影、ノイマン准尉が、ほぼ同時にジャックに呼び掛けた。
襲い掛かってきたグラウンド・ゼロに対して、ジャックは逃げも慌てもせず、全身ごと右腕を引き絞る。
そして、グラウンド・ゼロが射程圏内に入った瞬間、引き絞った足腰、体幹、右腕、全てを解き放つように右の拳を突き出した。
「”パイルバンカー”ッ!!」
ジャックの右拳は、グラウンド・ゼロの胸部に轟音と共に激突。
この戦いで、彼が何度も殴りつけてきた部位だ。
やはり今回もオリハルコン化して、ジャックの拳を受け止めている。
「go...」
グラウンド・ゼロがうめき声をあげた。
見れば、オリハルコン化しているはずの胸部に、大きなヒビが入っていた。
なぜここに来て、ジャックの拳は効いたのか。
答えは余熱。
先ほどジャックが日向の『太陽の牙』を使った時、その熱がまだ彼の右の義手に残っていた。
強烈な一撃を受けて、グラウンド・ゼロの動きが止まる。
ジャックは再び”パイルバンカー”の構え。
そして……。
「合衆国を……ナメんなぁぁッ!!」
叫んで、全身全霊の一撃を繰り出した。
それが再び、グラウンド・ゼロの胸部に命中。
その結果、胸部は完全に砕け散り、グラウンド・ゼロの背中まで大穴が開いて、まっすぐに吹っ飛ばされた。
背中からズシン、と地面に倒れるグラウンド・ゼロ。
少しだけ身体を震わせて、立ち上がろうとするも、その重々しい身体を起こすことはできず、バタリと倒れた。
それから一拍置いて、グラウンド・ゼロの全身が崩れ、石の山となった。
もはや疑う余地もない。
第六の『星殺し』、グラウンド・ゼロはここに討伐されたのだ。
「改めて聞くぜ。合衆国は、強かったろ?」
◆ ◆ ◆
その後すぐに、他の仲間たちを乗せて、飛空艇が日向たちのもとへやって来た。
ボロボロになっている日向たちや、周囲の破壊の跡を見て、自分たちがいない間にただならぬことが起こっていたらしいと感じた仲間たちは、飛空艇着陸後に急いで日向たちのもとへ駆けつけてきた。
まず駆けつけてきたレイカが、声を上げた。
「ジャックくん、大丈夫ですか!? ボロボロじゃないですか! ……って、ノイマン准尉が生きてるー!? しかもそこ、そこでバラバラになって壊れている岩、もしかしてグラウンド・ゼロの本体ですかー!?」
「おうレイカ。やって来るなりナイスリアクション」
レイカの反応を見て、ジャックも楽しそうに笑う。
何度も強烈なパワーでグラウンド・ゼロを殴りつけた彼の義手は、もはや今も動いているのが不思議なくらいに破損していた。
その後、他の仲間たちも集まってきて、彼らにも状況を説明。
それからジャックは通信機で、ニューヨークにいるカード大統領にも作戦完了の報告を行なった。
「報告は以上だぜ、オッサン」
『そうか……マードックも逝ってしまったか……。これ以上ないほどの惜しい人材を失ってしまった』
「まったくだ。だがアイツは俺たちを信じた。これからは俺たちが皆で、アイツの代わりをしてやらなきゃならねー」
『その通りだな。私も人を率いる立場の者として、彼に負けず頑張っていこう。それではジャック、そこにいる、この作戦に携わった全ての者たちにも、作戦完了の旨を伝えてくれ』
「あん? そういうのはアンタの役目じゃないか?」
『そうかもしれん。だが、お前が伝えた方が、『良い』と思うのだ』
「そーかい? まぁ、別にいいけどよ」
そう言ってジャックは、通信機を一斉通信に切り替えて、この場にいる皆、そして合衆国機密兵器開発所にいる技術チームや通信チームにも呼び掛けた。
「皆、聞いてくれ! 長い日々を耐え忍んで、予知夢の六人の協力もあって、俺たちはようやくグラウンド・ゼロを倒した! けど、失ったものもたくさんあって、その一つひとつがメチャクチャ大きい。これからこの国を元通りにしていくのはすげー大変だろうし、まだ大本である”最後の災害”は終わってないと来た。大変なのはここからだ」
ジャックの言葉を聞いて、皆は神妙な表情を浮かべた。
犠牲になった者たちに感謝と祈りをささげる者。
これからの復興にどれだけの時間がかかるかを考え、気が遠くなる者。
まだ続く戦いに、気を引き締める者。
「考えなきゃならねーことはまだまだ多いけどよ、それでも俺たちは、俺たちの大地をグラウンド・ゼロから取り戻したんだ。今はそのことを、素直に喜んどこうぜ。それがきっと、俺たちをここまで来させるための『道』になってくれた連中への手向けにもなる。っつーワケで、『合衆国本土奪還作戦』の完了を、ここに宣言するぜ!」
「「「うおおおおおおおおおおっ!!」」」
ジャックの言葉を聞いて、兵士たちが大歓声を上げた。
両手を振り上げ、歓喜の叫びを発する者。
持っている銃器を、高らかに空へかざす者。
生き残った戦友同士で、喜びを分かち合う者。
勝利の喜びに打ち震える皆を見て、日向もようやく、グラウンド・ゼロを討伐できたという実感が湧いてきた。
「なんというか、いつも『星殺し』を討伐したっていう実感が湧くのが遅い気がするな、俺」
それから日向は、ふとエヴァに目を向ける。
彼女はちょうどグラウンド・ゼロの残骸から『星の力』を吸収し終えたところだった。
「エヴァ。『星の力』は無事に回収できたか?」
「はい。これでおよそ四割と少しの『星の力』を取り戻せました。次の『星殺し』を倒せば、半分まで取り返せるでしょう」
「ああ。そして、次の『星殺し』が最後だ。その次がいよいよ……」
「狭山誠。私たちの最後の戦いになるでしょうね」
エヴァの言葉に、日向はうなずく。
長く続いてきた旅だが、いよいよゴールは目前だ。
……と、その時だった。
グラウンド・ゼロの残骸から『星の力』とはまた別のエネルギーが発生。
出現したのは、狭山の記憶を見せてくれる灰色の光球。
やはりこれまでの『星殺し』と同じように、グラウンド・ゼロからも出てきた。
日向のもとにやって来たジャックが、その光球を見ながら声をかけてきた。
「ヒュウガ。それ何だ?」
「狭山さんの記憶を見せてくれる光の球。『星殺し』討伐の恒例行事なんだ。狭山さんの過去とか、他の目的とか、あるいは弱点とか見つかるかも」
「へぇ、サヤマの過去か。気になるな。この場にいる全員で観れるのか?」
「たぶん。あまり大人数で見たことはないから、ちょっと分からないな」
「そんじゃ、試しに全員で観てみるか。アイツの恥ずかしい記憶とか見れたら、全員で取り囲んでいびってやろうぜ。へへっ」
「いい性格してるよお前」
肩をすくめて、日向は光球に近づく。
話を聞いていた周りの皆も、狭山の記憶を閲覧する体勢を整えていた。