第1451話 英雄三人
グラウンド・ゼロの策により、一瞬だけだが動きを阻害されてしまったジャック。
その隙にグラウンド・ゼロはジャックとの間合いを詰めて、すでに震動エネルギーを宿した右拳を突き出していた。
ジャックは、確信してしまった。
このタイミングで繰り出された拳は、避けることなど不可能だと。
あの拳が纏う震動エネルギーが、自分の頭を粉々に吹き飛ばしてしまうだろうと。
そして。
グラウンド・ゼロの拳が、ジャックの顔面に命中……。
「……っていうのは、ノーマルな人間の場合だけどな!」
そう言ってジャックは、頭頂部が地面につくくらいに思いっきり上体を反らして、グラウンド・ゼロの拳を回避してみせた。
足を動かす猶予が無くとも、上体を反らすだけであれば、足を動かさずその場で、即座に実行可能。常人より何倍も強い体幹を持ち、柔軟性も優れているジャックだからこそできた回避芸だ。
しかし、ここでジャックも予想していなかったことが起こった。
ただし、嬉しい予想外だ。
なんと、ここで日向が復活。ジャックの背後から駆け寄り、イグニッション状態の『太陽の牙』で、たった今ジャックが回避したグラウンド・ゼロの右拳を、刃を横向きに入れて焼き切り裂いた。
「りゃあああっ!!」
身体を大きくのけ反らせていたジャックは、日向がグラウンド・ゼロの右拳の上半分を斬り飛ばした場面を、空を見上げる形で見ていた。
「オマエ、そりゃ超カッコイイやつだぜ……!」
そしてグラウンド・ゼロは、これにはたまらずうめき声をあげ、拳を引いた。
「goooo...!?」
拳を半分斬り飛ばされて、グラウンド・ゼロはたまらず後退。焦りの表情や冷や汗などは見えないが、明らかに動揺した様子で、日向に視線を向けている。
ノイマン准尉が、まだ起き上がらない日影を守りつつ、日向に声をかけた。
「タイガー! クサカベ、絶好のタイミングで復活したな!」
「ええ、本当に。ジャックには感謝です。あいつが時間稼ぎしてくれなかったら、俺たちここまで来たのに負けてたところでした」
そしてちょうど、ここで日影も復活。
ノイマンの側で、気だるそうに起き上がった。
「っ痛ぅ……。クソ、やられてたのかオレは」
「タイガー! ヒカゲも目を覚ましたぞ!」
「ちッ、あんだけカッコつけた登場しといてこのザマたぁ、自己嫌悪で死にそうだぜ……」
「二度も死なれるのは困る。早くジャックたちに加勢してやってくれ、タイガー」
「分かってる分かってる」
ぼやきながら、日影も戦線復帰。
日向、ジャック、日影の三人が並び立つ。
「ったくよー、オマエら二人そろって寝ぼすけかよ? 随分と待たせやがって」
「返す言葉もございません……」
「けッ、うるせーうるせー」
「ま、俺も見せ場が欲しいって思ってたところだし、ちょうど良かったぜ。そんじゃ、ここから先はしっかり頼むぜ。あのカチカチ岩野郎をニンジンみてーに切り刻んでやってくれ」
「ニンジンどころか千切りキャベツにしてやるぜ」
「ああ。もうさっきみたいなヘマはするもんか。行こう、二人とも!」
日向の言葉に、ジャックと日影はうなずいた。
まずは日向と日影が、同時にグラウンド・ゼロへ斬りかかる。
「太陽の牙……”点火”っ!!」
「再生の炎……”力を此処に”ッ!!」
「gooo...!!」
グラウンド・ゼロを左右から挟み込むように斬りつける日向と日影。
二人の斬撃をそれぞれ右腕と左腕で防御するグラウンド・ゼロだが、さすがに二人同時というのは厳しいようで、何度か防御し損ねて、ボディに深い斬撃痕をいくつも刻まれた。
グラウンド・ゼロは左右の拳に震動エネルギーを生成し、自身の足元に叩きつける。
「goooo...!!」
「足場崩しだな!」
「もうその手は食わねぇよ!」
発生した震動を、日向と日影はジャンプで回避。
その直後、二人と入れ替わるように、ジャックがグラウンド・ゼロの正面へ。
ジャックは、右の義手で握りつぶして細かくした石を、グラウンド・ゼロめがけて投げつけた。
「ほれ、プレゼントだぜ!」
こんなもの、グラウンド・ゼロには何のダメージにもならないのだが、視界は塞がれる。その間に日影あたりが攻撃を仕掛けてくるのではないかと思い、グラウンド・ゼロはジャックから投げられた石を素早く払いのけた。
するとやはり、グラウンド・ゼロが石に気を取られていた間に、日影が”オーバーヒート”を発動して、勢いよく『太陽の牙』を振り下ろした。
「どるぁぁぁッ!!」
グラウンド・ゼロはオリハルコン化した左腕を使って、日影の斬撃を受け止める。刃は左腕の真ん中ほどまで食い込んだが、そこで止められた。
日影の斬撃を受け止めると、グラウンド・ゼロは左腕を右から左へ振り抜き、日影を吹き飛ばして遠ざけた。
その直後、グラウンド・ゼロの背後から気配。
日向が後ろから忍び寄ってきている。
グラウンド・ゼロは振り向きながら、日向に向かって裏拳を放った。
「gooo...!!」
ほとんど不意打ちで放たれた裏拳だったが、日向はギリギリ反応することができた。慌てて上体を反らして、グラウンド・ゼロの拳を回避。
「うひっ!?」
その時、グラウンド・ゼロは日向を見てハッとする。
今の日向は『太陽の牙』を持っていない。
そして、その直後。
ジャックがイグニッション状態の『太陽の牙』で、グラウンド・ゼロの背中を斬りつけた。
「オラァァッ!!」
「goooo...!?」
「オマエがヒカゲに気を取られてた間に、ちょいとヒュウガから借りたんだよ! たまには剣も悪くねーなぁ!」
知っての通り『太陽の牙』は日向以外の人間を拒絶し、熱を発して手を焼こうとする。それはジャックも例外ではなく、彼の義手の耐熱性をもってしても、その耐熱性を上回る高熱にまで上昇する。
しかし、ほんの少しであれば、ジャックの義手なら『太陽の牙』の熱にも耐えられる。今この瞬間だけは、ジャックは『太陽の牙』の使い手となり、グラウンド・ゼロに四連の斬撃を叩き込んだ。
「でりゃあああッ!!」
「goooooo...!?」
「っと、そろそろ剣の熱がヤバくなるか!」
そう判断して、ジャックは日向がいる方へ『太陽の牙』をポイ捨て。
グラウンド・ゼロは、今のジャックの攻撃を受けて怒ったか、もう『太陽の牙』を持っていないにもかかわらず、ジャックに襲い掛かった。
「goooo...!!」
「いいのかよ、俺に構ってて?」
すると、グラウンド・ゼロの右後方から、日影が”オーバーヒート”で急接近。カーブを描くように低空飛行しながら、グラウンド・ゼロの両脚を後ろから斬りつけた。
「うるぁぁッ!!」
「gooo...!?」
日影の斬撃を受けて、グラウンド・ゼロがひざまずく。
その日影と入れ替わるように、日向がグラウンド・ゼロの左から斬りかかる。
グラウンド・ゼロは日向の接近に気づき、左腕で日向の斬撃を受け止めようとした。
「そう来ると思ったぞ!」
日向はグラウンド・ゼロの左腕の、先ほど日影の斬撃を受けて真ん中ほどまで切れ込みが入った部分を狙って、イグニッション状態の『太陽の牙』を振り下ろした。
斬撃は、日向が狙った通りのポイントに命中。
オリハルコン化しようがお構いなしに、灼熱の刃はグラウンド・ゼロの左腕を斬り飛ばした。
「gooooo...!?」
グラウンド・ゼロが、苦悶の悲鳴をあげた。
……が、まだグラウンド・ゼロは倒れない。
今度は”念動力”を行使して、日向の足元の岩を隆起させ、その隆起させた岩で彼の腹部を殴打した。
「ごほっ……!?」
吹っ飛ばされてしまう日向。
ジャックが『太陽の牙』を拾おうとするが、グラウンド・ゼロがジャックに岩を飛ばして牽制。ジャックを日向に近づけさせない。
「gooo...!!」
「ちぇっ、学習しやがった」
ジャックは『太陽の牙』を拾うことを諦める。
それから間髪入れず、日影が”オーバーヒート”の推進力で、グラウンド・ゼロに激突するように斬りかかる。
「るぁぁぁぁッ!!」
今のグラウンド・ゼロは、右拳を半分斬り飛ばされ、左腕は肘の付け根あたりから斬り落とされ、日影を迎撃するための拳を振るえない状態だ。
だが、それならばと、グラウンド・ゼロは自身の頭部に震動エネルギーを集中させ、振り下ろされた日影の剣に頭突きを叩きつけた。
「goooo...!!」
「おおおおおおッ!!」
炎の衝撃と、激震の衝撃がぶつかり合う。
熱波と衝撃波が、二人の周囲に積もっていた瓦礫を吹っ飛ばした。
打ち勝ったのは、グラウンド・ゼロ。
頭を前へ振り抜き、日影を押しのけた。
「gooo...!!」
「ちッ、馬鹿力が……!」
日影は足でブレーキをかけて、再びグラウンド・ゼロへ飛び掛かる用意。
グラウンド・ゼロの頭部にも深い切れ込みが入ったが、それでもまだ倒れない。
その時。
グラウンド・ゼロは、ジャックが接近してくる気配を感じた。
ジャックはグラウンド・ゼロとの距離を詰めながら、右手に何かを持っている。自分の身体の陰に隠すようにしてよく見えないが、確実に何かを持っている。
また『太陽の牙』を使うつもりか。
そう考えたグラウンド・ゼロは、ジャックをギリギリまで引き付けて、いきなり殴りかかった。
「goooo....!!」
ジャックも、持っていた物をグラウンド・ゼロへと向けた。
その瞬間、グラウンド・ゼロの視界が、まぶしい光に塗りつぶされた。
「goo...!?」
「暗所活動用のハンドライトだぜ。今までずっと外殻の中に潜ってばっかりだったオマエには刺激が強すぎたかな、モグラさんよ?」
グラウンド・ゼロに大きな隙ができた。
それを逃さず、日向と日影がグラウンド・ゼロの両サイドから猛接近。
「”復讐火”ッ!!」
「”オーバーヒート”ッ!!」
グラウンド・ゼロを中心点にして、日向と日影が交差する。
それと同時に、グラウンド・ゼロの胴体が、芯まで届くほどに深く切り裂かれた。
「goooooaaaaaaa...!?」
本日一番の悲鳴。
そしてグラウンド・ゼロは、糸が切れた人形のように両膝をついて、その場でガクリとうなだれた。