第1450話 らしく行こう
ジャックがグラウンド・ゼロの背後から飛びついて、彼の目を両手で塞いだ。
日影を生き埋めにしようとしていたグラウンド・ゼロは、突如として視界が真っ暗になり、日影への攻撃を中断。煩わしそうに、背中に張り付くジャックへ右手を伸ばす。
しかしジャックはグラウンド・ゼロの両目を塞いだまま、自身の身体を左へ振ってグラウンド・ゼロの右手を回避。しがみついたままグラウンド・ゼロの正面に回り込む。
そしてグラウンド・ゼロが再び手を伸ばしてくる前に、ジャックは回り込んだ勢いを利用して、しがみついたまま再びグラウンド・ゼロの背中へ回る。
それこそルチャリブレのように、グラウンド・ゼロをポール代わりにして器用に回転。グラウンド・ゼロがジャックの手や足を捕まえようとしても、なかなかジャックは捕まらない。
やがてしびれを切らしたグラウンド・ゼロが、ジャックが背中に回り込むタイミングでジャンプ。背中から地面へ落ちて、ジャックを押し潰しにかかった。
だが、ジャックもその程度でやられはしない。
すでにグラウンド・ゼロから離れて、押し潰しを回避した。
「goooo...!!」
ようやくジャックを振り払ったグラウンド・ゼロ。
この間にも超能力で浮かべている岩石はそのままにしており、改めてその岩石を落として、日影を生き埋めにしようとした。
しかし、ジャックが時間を稼いでいる間に、ノイマンが日影を抱え上げて移動。ややギリギリであったが、日影の救出に成功した。
「た、タイガー! 俺だって軍人だ、この程度の肉体作業ー!」
日影を逃がしてしまったグラウンド・ゼロは、その日影を抱えて逃げるノイマンを追いかけようとする。
その横から、ジャックがグラウンド・ゼロの頭部を殴りつけた。
「無視すんなっつってんだろ!」
コンクリートをも砕く、ジャックの強烈な鋼拳。
彼の異常発達した体幹が、パンチの威力を引き上げる。
しかしグラウンド・ゼロは、ジャックの拳を受けた箇所をオリハルコン化して防御してしまった。バズーカ砲でも命中したかのような衝撃だったが、グラウンド・ゼロの頭部には傷一つ付いていない。
それでもジャックは攻撃を諦めず、グラウンド・ゼロの胸部に二撃、三撃と拳を叩き込む。
「オラッ! オラァッ!」
「gooo...!」
ついにグラウンド・ゼロもジャックに敵意を向けて、彼に殴りかかった。オリハルコン化した右拳がジャックに襲い掛かる。
だが、ジャックは当然のようにこれを回避し、引き続きグラウンド・ゼロの胸部を殴り続ける。ジャック自身のパワーと、オリハルコンの硬さによって、ジャックの拳の方が破損し始めるが、それでもお構いなしだ。
「へっ、確かに堅いな……! だが、堅いからって手も足も出さないなんて、考えてみりゃ俺らしくなかったよなぁ! どんな強敵にもビビらずに立ち向かう! それがヒーローってモンだろ!」
高らかに叫び、ジャックは渾身の右ストレートを放った。
だが、これはグラウンド・ゼロの左手で受け止められる。
そのままグラウンド・ゼロはジャックの拳をガッシリと握って放さない。
「うお……!?」
「goooo...!!」
グラウンド・ゼロはジャックを捕まえたまま、オリハルコンの右拳で彼の頬を殴りつけた。ジャックの身体が大きくのけぞる。
しかしグラウンド・ゼロはまだジャックを放さず、続けて彼の頬を二回、三回と殴った。一撃受けるごとに、ジャックの口から霧のような鮮血が噴き出す。
「ちぃッ、調子乗んな!」
ジャックはグラウンド・ゼロに拳を掴まれたまま、グラウンド・ゼロの胴体に両足を当てて、思いっきり蹴飛ばす。それでもグラウンド・ゼロはビクともしなかったが、蹴飛ばした反動でジャックはグラウンド・ゼロを振り払うことができた。
背中から地面に落ちて、すぐに立ち上がるジャック。
三発殴られただけだが、もうすでに目の焦点がブレ始めている。
それだけグラウンド・ゼロの拳が強烈だったのだ。
「タイガー! ジャック、あまり無理するな! さすがのお前の拳でも奴には効かない! ほどほどにしていったん退却するんだ!」
「そうは言うけどよ、俺たちが目を離した隙にコイツが逃げて、またあの馬鹿デカい外殻を復活させたらどうするよ! 実際、そういうことをするためにヒュウガたちから逃げようとした『星殺し』の本体もいたって聞いたぜ!」
呼び掛けてきたノイマンに言葉を返し、口から流れ出ていた血を袖で拭って、ジャックは戦闘を続行。グラウンド・ゼロめがけて殴りかかる。
そのジャックの殴りかかりに合わせて、グラウンド・ゼロが再びジャックを捕まえようとする。
「gooo...!」
……が、これはジャックが直前に反応して、グラウンド・ゼロの掴みかかりを回避しつつ、グラウンド・ゼロの胴体を殴りつけた。
「あぶねぇ! ったく、ただ力任せなだけかと思いきや、意外と悪知恵が働きやがるな! それこそ本当にマードックそっくりだぜ!」
続いてジャックは、両方の拳でグラウンド・ゼロの胸部に連打を浴びせた。
だが、これもオリハルコン化で全て受け止められてしまう。
グラウンド・ゼロが、反撃でジャックに殴りかかる。
向こうもジャックの動きに少し慣れてきたらしく、命中精度が上がってきた。
オリハルコンの拳が、ジャックの側頭部をかすめる。
かすっただけなのに、ドクドクと血が流れ出てきた。
ジャックが左の義手でオリハルコンの拳を受け流しつつ、反撃の右をグラウンド・ゼロの胸部に叩きつけたが、やはりグラウンド・ゼロは止まらない。それどころか、受け流しに使った左の義手の方がダメージが大きい。割に合わないと言うほかない。
グラウンド・ゼロの拳がついにジャックを捉え、右フック、さらに左フックをジャックの頬に打ち込んだ。
大きくよろめいたジャックだが、まだ倒れない。体幹と柔軟性をフルに活かして、全身を脱力させて、殴られた際のダメージを逃がしたのだ。
殴り飛ばしたジャックに追撃を仕掛けようと、グラウンド・ゼロが拳を振り上げる。
しかしジャックも先述の通りダメージを逃がして、すでに体勢を整えている。
「”パイルバンカー”ッ!!」
向かってきたグラウンド・ゼロの胸部に、ジャックは必殺の一撃をお見舞いした。技のフォームは完璧。グラウンド・ゼロ自身の突進力も利用した、ジャックが生み出せる最大火力だった。
……にもかかわらず。
グラウンド・ゼロの胸部は、ヒビの一つも入っていなかった。
「goo...」
「ンの野郎、ホント嫌になる頑丈さだな」
攻撃後の隙を突いて、グラウンド・ゼロがジャックを前蹴りで蹴飛ばす。
ジャックの腹部を、まるで爆弾が爆発したかのような衝撃が襲った。
蹴飛ばされたジャックだが、先ほどのようにジャックはその衝撃を逃がす。ダメージに逆らわず、身を任せるように吹っ飛び、背中から着地して後転受け身を取って、片膝で立ち上がった。
しかしながら。
どれだけグラウンド・ゼロの攻撃を回避しても。
どれだけグラウンド・ゼロを殴りつけても。
ジャックでは、グラウンド・ゼロを倒せない。
日影を守りながらジャックの戦いを見守っていたノイマンは、見ていられなかった。
「タイガー……酷い話だ。ジャックは俺たちの中でも、この戦いにかける思い、この戦いを終わらせると願う思いは誰よりも強い。だというのに、やはり『太陽の牙』がなければ、あの怪物は倒せないのか。神よ、なぜジャックを選んでくださらなかったのか……!」
ノイマンがつぶやいている間にも、戦闘は続く。
グラウンド・ゼロが、右拳に震動エネルギーを発生させた。
「gooo...!!」
「おお、いよいよマジで殺しに来るつもりだな? さすがの俺も、そんなのぶち込まれたら即死だろーな。へへっ」
言葉とは裏腹に、不敵な微笑みを浮かべてみせるジャック。
絶対に当たらないという自信でもあるのだろうか。
グラウンド・ゼロが飛び掛かった。
まっすぐ、ジャックの顔面を殴り飛ばすつもりだ。
震動エネルギーを宿した右の拳で。
「goooooo...!!」
ジャックはグラウンド・ゼロから距離を取るために、後ろへ飛び退こうとした。
「もちろん、ヤツがあの震動エネルギーを叩きつけて、地震で俺の動きを封じたり、岩を飛ばして攻撃してきたり、といった可能性も考慮済みだぜ。さぁ、来やがれ……!」
……が、その時。
ジャックの右足が、不意に沈んだ。
「ホワッツ!?」
何が起こったのかというと、グラウンド・ゼロは”念動力”の超能力を使い、ジャックの足元に積もっていた瓦礫をピンポイントで動かして、小さな穴を作り、ジャックの足を嵌めたのである。
すぐさまジャックは足を穴から引き抜いたものの、グラウンド・ゼロはすでに拳を突き出し、もうジャックの目の前に来ている。
「……あー、こりゃ避けられねーか」
諦めた表情を浮かべて、ジャックは小さくつぶやいた。