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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第23章 合衆国本土奪還作戦
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第1446話 崩れ、壊れる

 人間たちの総攻撃を受けて、グラウンド・ゼロの右腕が押し下げられ、それにつられるようにグラウンド・ゼロの全身も傾いた。


 全身が傾いた体勢のまま、グラウンド・ゼロはジッとしており、体勢を戻す様子はないが、今のところ倒れる様子もない。


 皆の攻撃によって傾き、急傾斜になったグラウンド・ゼロの右腕の上で、日向は滑らないように耐えながら、苦い表情でグラウンド・ゼロを見ている。


「やっぱり、厳しかったか……?」


 そうつぶやくが、日向の隣にいたジャックが返事をする。


「いや、待て、ウェイトだぜヒュウガ。何か聞こえねーか? こう、岩にヒビが入って(きし)む、みたいな感じの音が……」


 ジャックはそう言うが、日向の耳にはそのような音は聞こえない。

 見回せば、他の人間たちにも、ジャックが言う音が聞こえている者と聞こえていない者がいるようだ。


 音が聞こえるものは本堂やシャオラン、それからエヴァに一部のアメリカ兵たちなど、もともと聴力が優れている者たちだ。もしかしたらその音というのは、かなり遠くから聞こえているのかもしれない。


 本堂が口を開く。

 マモノ化により、あらゆる身体性能が向上している今の彼は、聴力もまたここにいる人間の中でトップクラスに高い。


「この音は……下からだ。グラウンド・ゼロの胴体部分から聞こえるぞ」


 本堂の言葉を聞いて、皆はグラウンド・ゼロの胴体に注目。


 グングニルの爆発を二度も受けて、左半分が完全に消滅したグラウンド・ゼロの腰部分。残った右半分が、内部から破裂するかのように砕け始めている。それに伴い、グラウンド・ゼロの全身もまた、ゆっくりと傾きが大きくなっていく。


「グラウンド・ゼロが崩れ始めてる! 上手くいった! もうこいつは、自分自身の重みに耐えられない!」


「ざまぁ見やがれデカブツ野郎め! 俺らの国から()った大地、利子付けて返してもらう時だぜ!」


 日向とジャックが喜びの声を上げる。

 しかし、その二人にリカルドが慌てた様子で声をかけた。


「二人とも、冷静に! ゆっくりしてる場合じゃないよ! グラウンド・ゼロが崩れるってことは、ここにいる僕たちまで危ないってことなんだから! 急いで退避しないと!」


「っと、そりゃそうか! なんなら現在進行形で傾きがヤバくなりつつあるしな!」


「……けど、ちょっともう、まっすぐ走るのも厳しいくらいに、傾斜がきつくなってきてる……!」


 日向たちが立っているグラウンド・ゼロの右腕は一万メートル近いという、超がつくほどの高所。落下してしまったら命はない。


 飛空艇に着陸して回収してもらうには、もう右腕の傾斜角度が急すぎる。飛空艇が安定して着陸できない。


 グラウンド・ゼロの右腕の側面で飛空艇に待機してもらい、そこから全員が甲板の上に飛び乗る……というのも難しい。この右腕もまた、ちょっとした島に匹敵するくらいの面積があるからだ。端へ移動しても間に合わず、皆がこの右腕から滑り落ちてしまうだろう。


 皆が焦りの表情を浮かべるが、そこへ日向が声をかけた。


「大丈夫、退避方法は考えてます! エヴァの重力操作で、ゆっくりと地上へ降ろしてもらうんです! というわけで、頼んだぞエヴァ!」


「できません……」


「ほぁ?」


「グラウンド・ゼロの右腕全体を範囲とするほどの重力操作、加えて、”星の咆哮(スーパーロア)”まで使用したのです。皆さんに合わせて言うと、もう『星の力』が『がすけつ(ガス欠)』です……」


「あー……そうだよなぁ。グラウンド・ゼロを傾けるのに一番頼りにしたのはエヴァだし、お前もその期待に応えて張り切ってくれたんだし、これは考慮するべきだったよなぁ。またやらかした……」


 希望が戻りかけた皆の表情が、再び苦いものになった。


 やがてグラウンド・ゼロの右腕の角度もほぼ直角になってきた。

 右腕の上に乗る人間たちは、もう立っていられない。


ジャックが皆に向けて叫ぶ。


「仕方ねぇ! 各自、それぞれで脱出しろ! 飛べる奴は、できるだけ飛べない奴を助けてやれ!」


そして、皆の足がグラウンド・ゼロの右腕の上から離れた。


 サミュエル中尉が率いるブレード部隊は、近くで浮いていた岩石の上に飛び乗った。そのまま、近くて低い位置にある岩石から岩石へ飛び移っていく。この調子で地上を目指すつもりなのだろう。


 本堂は、近くにいた兵士たち三人を抱えて、背中に翼を生やしてゆっくりと降下を始める。

 北園は、この中で一番軽いエヴァを抱えて、地上へと向かう。


 シャオランの飛行技である風の練気法”飛脚”は、人を抱えながら使用するには難しい技だが、そんなことを言ってる場合ではないと判断したのか、二人の兵士を背中に背負って、どうにか空中を跳ねている。


 日影は”オーバーヒート”で空を飛べるものの、その状態で人を抱えると焼き尽くしてしまうので、仕方なく単独で地上へ向かった。


 まだ右腕の上に残っている者は、日向とジャックを含めて数人ほどいる。

 飛べる者たちからの助けを得られなかった彼らは、もはや成すすべなく落下するしかないと覚悟を決めていた。


 その時、彼らの真下、地上と垂直になったグラウンド・ゼロの右腕に横付けするように飛空艇が移動してきた。右腕の上に残った人間を、甲板の上で受け止めてくれるつもりだ。


『残ってる人たち、ここに飛び乗って!』


「おお! 助かったぜ、操縦士の少年!」


「グッジョブ! マジでグッジョブ! サンキューベリーマッチ!」


 飛空艇から発せられたアラム少年のアナウンスに、兵士たちが口々に礼を言った。


 日向とジャックは、駆けつけてくれたユピテルの背中に乗って、グラウンド・ゼロから離脱する。


「ありがとうユピテル。よし、さっそくで悪いけど急いで離脱だ。グラウンド・ゼロの腰部分が完全に折れて、上半身がこっちに向かって落ちてきてる。すぐにここを離れないと巻き込まれる」


「ケェェン!」


「頼んだぜゴールデンイーグル! 全速力だ!」


 日向とジャックを背に乗せると、ユピテルはグラウンド・ゼロの右腕から飛び立つ。


 その後。

 グラウンド・ゼロの上半身が、大地へ落下。


 超級の質量が落ちてきて、大地はヒビ割れて陥没。

 さらに、右の拳に残っていた超震動エネルギーが大地に叩きつけられ、その衝撃は落下地点から百キロ以上先まで大陸を揺るがし、共に落ちてきたグラウンド・ゼロの外殻も派手に吹っ飛ばしてしまった。


 この場にいる全員の精魂を注ぎ、犠牲まで払った総力戦の末に。

 (つい)に、グラウンド・ゼロは崩壊したのである。

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