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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第23章 合衆国本土奪還作戦
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第1443話 ラストフライト

 ノイマン・ロビンソン准尉。

 幼いころの彼の夢は、旅客機のパイロットだった。


 乗り物全般が好きだったが、特に空を飛ぶ乗り物は大好きだった。

 やがて、旅客機よりもシャープなデザインで、より高速で飛ぶことができる戦闘機に憧れるようになり、軍人の道を歩んだ。


 好きこそものの上手なれとは言うが、ノイマンは戦闘機やヘリコプター、さらに乗用車、軍隊の特殊車両、果てには列車や船といった乗り物の操縦方法までマスターしてみせた。知識はもちろん、技術も一流まで鍛え上げた。


 その、乗り物に関する高いスキルを買われて、彼は合衆国全州から精鋭が集められたマモノ討伐チームにスカウトされたのである。


 この合衆国本土奪還作戦が始まってから、ノイマンはずっと、比較的安全だった空で戦ってきた。地上で戦い、そして散る、たくさんの戦友たちの声を聴きながら。


 それが、彼にとっては罪悪に感じた。

 自分が安全な空にいる間、皆は地上で大変な思いをしていると。


 言ってしまえば、彼が最後のグングニルの投下を請け負ったのは、そんな罪悪を清算しようとした、彼自身の()(まま)によるところが大きい。最後くらい、格好つけたかったのだ。


「我が儘の内容が違うだけで、俺もマードック大尉と同じ穴の(むじな)か、タイガー。(むじな)なのにタイガーとはこれ如何(いか)に」


 先ほどジャックたちとの通信を切ったノイマンは、戦闘機の操縦に集中する。


 ここからは、グラウンド・ゼロが浮かべている岩石が特に密集している領域だ。しかもグラウンド・ゼロは、大穴を開けられた左わき腹を塞ごうとして、周囲に浮かんでいる岩石を左わき腹へ集めている。そのため岩石地帯は静止しておらず、常に動いている。


 そんな危険地帯を、超高速で飛行する戦闘機で通過しなければならない。気を抜けば、宙に浮かぶ大岩にまっすぐ激突してしまう可能性もあるということだ。


「タイガー。俺のフライトテク、その集大成を見せる時だな」


 深呼吸をして、操縦桿(そうじゅうかん)を握りなおすノイマン。

 わずかに目を細めた様子が、彼の真剣さを物語っている。


 極限の集中力で、ノイマンはラプター戦闘機を駆る。

 右へ、左へ機体を振って、浮遊する大岩を次々と避ける。

 時には高度を上げて大岩を飛び越え、時には高度を下げて大岩の下をくぐる。


 ともすれば、このフライトに、この星の運命がかかっているかもしれない。

 浮遊岩石に激突して、この機体とグングニルが駄目になれば、もうグラウンド・ゼロは倒せないかもしれない。


 否が応でも緊張感が高まるシチュエーション。

 ノイマンは操縦しながら、(つば)を飲んだ。

 緊張のせいか、唾を飲んだだけで息が止まりそうになった。


「タイガー。マジ怖ぇ。というか俺、コーネリアス少尉とかと同じで全然ビビらない枠に数えられることとかあるけど、俺は別に表情に出さないだけで普通にビビるし……」


 ……と、その時。

 戦闘機の左翼の先端が、浮遊岩石に接触。

 ギャガガガ、と左翼先端が削れる音。


「くっ……!?」


 機体が揺れる。

 ノイマンは慌てて機体のバランスを立て直す。


 だが、今度は機体の下部が、真下の岩石の先端に接触。

 機体の表面が削れる音が、ノイマンの精神をかき乱す。


「冷静に、立て直す……!」


 己の技量を信じて、しかして、祈るように、ノイマンは操縦桿を強く握りしめた。


 やがて、戦闘機は安定を取り戻した。

 そしてちょうど、浮遊岩石密集地帯も通過できた。


「タイガー。山場は越えたか……いや、ここからか。今日一番デカい山は」


 そうつぶやき、ノイマンは目の前にそびえ立つグラウンド・ゼロを見る。


 グラウンド・ゼロの左わき腹は、最初に撃ち込まれたグングニルによって、すでに半分ほど(えぐ)れている。あとはノイマンが運んできた最後のグングニルで左わき腹の残り半分を消し飛ばし、グラウンド・ゼロのバランスを崩す。


 ノイマンはグラウンド・ゼロの左わき腹へ接近。

 (えぐ)られた左わき腹の大穴に突入し、その奥を目指す。


 わき腹の奥に到着したら、ノイマンはグングニルを投下する予定だ。グングニルが着弾するまでの間、しばらくの猶予はあるので、その間にノイマンはUターンして離脱する予定である。


 上手くいけばノイマンはグングニルの爆発から逃れて生還できるが、その確率は極めて低いだろう、と彼自身は考えていた。


「さて……そろそろ報告のため、通信をオンにしておくか。ジャックからは何を言われるかな」


 つぶやきながら、ノイマンは機内の通信機能を再起動。

 そして同時に聞こえてきたのは、ジャックではなくハイネの声だった。


『ノイマン! まだ生きてるよね!?』


「タイガー。ハイネか?」


『ねぇノイマン! お願いだから無事に帰ってきてよね! あたしはさ、皆に自爆してもらうためなんか……ぐすっ、皆の命を犠牲にするために、そんなモノ作ったわけじゃないんだからね!』


 言葉より感情が先行しているのか、たどたどしく、そして半泣きで、ハイネは通信機越しに叫んできた。


 きっと、マードックが自爆した時も、彼女はすごく辛かったのだろう。ノイマンの戦闘機にグングニルを装填している時はそんな様子を見せなかったが、恐らくは隠していたのだ。ひたむきに、目の前の仕事に集中してくれていた。


 さらに今度は、通信機からジャックの声が発せられた。


『なぁノイマン。通信を切ってる間、冷静に考えてみたんだがよ、俺の負けだよ。オマエに頑張ってもらうしか、現状を打破する手は思い浮かばねー。現実ってツラいな』


「ジャック……」


『けどよ、今のハイネの言葉を聞いたろ? 皆、これ以上の犠牲はたくさんなんだ。オマエにも生きてほしいと思ってる』


「そうだな。俺も、死にたいかどうかで言えば、死にたくはない」


『だからよ、俺はオマエにこう言葉をかけるべきだよな。……行ってくれ。そして、必ず戻ってきてくれ』


「……了解だ、俺たちの新しいリーダー」


 生還は半ば諦めていたノイマンだが、気合いを入れ直すことにした。ここまで言われて野垂(のた)れ死にを選ぶほど、彼も()頓狂(とんきょう)ではなかった。


 グラウンド・ゼロのわき腹、その奥までノイマンはやって来た。


「タイガー。では……グングニル、投下!」


 ノイマンの戦闘機から、グングニルが落とされた。

 その直後、すかさずノイマンは機体をUターンさせる。


 フルスロットルでエンジンを稼働させる。

 前方からは、左わき腹の大穴を塞ぐための岩石が飛んできている。

 その岩石を避けて、グングニルから離れるノイマンの戦闘機。


 さらに、ノイマンを逃がさないためか、わき腹の上からもブロック状の石が大量に落ちてきた。まるで洞窟の崩落である。機体にもいくつかの石がぶつかり、コックピットを(おお)うキャノピーに命中してヒビが入った。。


「くっ、機体のバランスが崩される……!」


 フラフラと揺れる機体をどうにか立て直しつつ、ノイマンは必死に戦闘機を飛ばす。


 そして、次の瞬間。

 ノイマンが投下したグングニルが作動して、(まばゆ)い白光が広がった。

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