第1442話 自壊を狙う
ノイマン准尉が運んできてくれた最後のグングニルでも、グラウンド・ゼロを倒すことは難しいかもしれない。
だが日向は、もしかすると、その最後のグングニルでグラウンド・ゼロを倒せるかもしれないと発言した。
日向が本堂に説明を始める。
「そもそも、あの超巨大なグラウンド・ゼロが、ああしてそびえ立っているってだけで奇跡的だと思いませんか? 奇跡的なバランスというか、なんであの大きさで自然崩壊しないんだというか」
「それは確かにそうだな。何なら、先程グングニルを撃ち込まれて抉られたわき腹が原因で、よりバランスが悪くなったようにも見えるな。心なしか、ぐらついているようにも見える」
「そうです、そこです。グラウンド・ゼロは今、きっと重心が不安定なんです。なので、ノイマン准尉が運んできてくれたグングニルを、もう一発グラウンド・ゼロの左わき腹に撃ち込んで、あの大穴をわき腹の向こうまで貫通させてやれば……」
「まさか……グラウンド・ゼロはバランスを崩し、自ら倒れる、ということか?」
「はい。あんな馬鹿でかいのが倒壊したら、グラウンド・ゼロが纏う普通の岩石部分の外殻は、倒壊の衝撃でまとめて壊れる。オリハルコン化した部分はさすがに壊れないでしょうけど、これが上手くいけばグラウンド・ゼロの外殻のほとんどは引きはがせる」
「その後は、限られた範囲しかないオリハルコン化の部分をじっくり探せばいい。そこにグラウンド・ゼロ本体が隠れている事は確定しているから……か。成る程、考えたな」
「さっき見た通り、グラウンド・ゼロがオリハルコン化できる範囲は、奴の巨体と比べればずっと狭いです。あの大きすぎる外殻さえ崩せれば、きっと本体が隠れるであろうオリハルコン部分はすごく小さいだろうから、本体探しも現実的になるはずです。オリハルコンの突破だけなら”星殺閃光”を使うまでもないですし」
唯一の懸念点は、あのグラウンド・ゼロの超巨体が倒れれば、大地が大変なことになるのは間違いないこと。そして、グラウンド・ゼロの右拳の超震動エネルギーは、弱化しているとはいえまだ残っているので、倒壊時に強烈な地震が発生するであろうことだ。
とはいえ、それくらいなら、あの強敵を倒すための必要経費として十分に割り切れる程度のもの。
日向たちは、この作戦を採用することにした。
……しかしここで、ノイマン准尉がやや気まずそうに、通信機越しに日向に声をかけてきた。
『タイガー。このタイミングで言うのもアレだが、俺が運んできたこのグングニルは、ちょっとした問題点が一つある』
「うわやだ聞きたくない。でも聞かないと。せめて、せっかく考えた俺の作戦が夢物語にされるような内容じゃありませんように……!」
「俺が運んできたグングニルはスピカ型によって、一発目のグングニルよりもさらに念入りにいじられて無力化されたようでな。起爆機構だけでなくロケット部分までダメにされている。幸い、ハイネたちのおかげで起爆機構は応急修理できて、弾頭部分に衝撃を加えるだけで起爆できるようになった。だがロケット部分の修理は間に合わず、射出ができない」
「ということは、つまり……」
「射出ができないから、俺がこのまま戦闘機でグラウンド・ゼロに接近し、目標ポイントに投下するしかない」
そのノイマンの言葉を聞いて、日向はあらためてグラウンド・ゼロを見てみる。
グラウンド・ゼロの周囲は、彼が超能力によって浮かべている岩石が数多く浮遊しており、さながら宇宙空間のアステロイドベルトのよう。これを、猛スピードで飛行する戦闘機でくぐり抜けなければならないということである。
非常に危険な行為だ。
まだ戦闘機よりスピードの調整が利く飛空艇でミサイルを運んでやりたいところだが、今からノイマンの戦闘機からこの飛空艇へミサイルを移し替えるには、時間も設備も人員も足りない。
「ノイマン准尉に頼るしか方法がないか……。お願いできますか、ノイマン准尉?」
日向が通信機でノイマン准尉に問いかける。
当然とばかりにノイマンは即答した。
『タイガー。そのためにここに来た。任せろ。この程度の障害物、目をつぶっても回避できる……はさすがにウソだ。言い過ぎた。ともあれ、油断しなければ恐れることはない』
日向に返事をすると、ノイマンが操縦する戦闘機は、浮遊岩石が比較的少なそうなポイントからグラウンド・ゼロへの接近を開始。
だがその直後、ジャックが通信機でノイマンに呼び掛けた。
なぜか、怒鳴りながらである。
「おいノイマン! オマエ、他の連中は騙せても俺は騙せねーぞ!」
「じ、ジャック、どうした?」
隣にいる日向は困惑。
ジャックはそのまま、ノイマンへの通信を続ける。
「オマエが投下しようとしてるグングニルは、街一つを一瞬で消し飛ばす破壊力を持つ! オマエ、そんなモンを、グラウンド・ゼロに近づいて直接投下して、オマエは逃げ切れるのかよ!」
「……あ!?」
日向もジャックの言葉を聞いてハッとさせられた。
だが、通信機の向こうのノイマンは、お構いなしという様子だった。
『タイガー。まぁ、承知の上だ。それでグラウンド・ゼロに勝てるなら……』
「ざけんな! マードックは、自分が最後の犠牲者になるよう願ってた! オマエはアイツの願いを無視して、オマエっていう犠牲者を増やす気か!?」
『大尉には、先を越されたな。グラウンド・ゼロの左拳を消し飛ばすのは俺でもよかったんだ。ちょっと順番が変わっただけだ。俺が大尉の前に死ぬ可能性もあったのだから、今から死んでも変わらんだろ』
「変わるわバーカ!」
『なら、俺を犠牲にしないでグラウンド・ゼロを倒せる代案を、お前は何か考えつくか? このグングニルを俺以外の誰かに投下させるか?』
「そ、それは……」
ジャックは口をつぐんでしまう。
どれだけ理想を口にしても、変えられない現実はある。
それを悟ってしまったかのように。
『……タイガー。浮遊岩石密集地帯だ。少し操縦に集中する。いったん通信を切るぞ』
「あ、おい、ノイマン!」
ジャックの静止を聞かず、ノイマンは通信を切断してしまった。
ノイマンとの通信が終了してしばらく、ジャックは右手の中の、ノイマンの声が聞こえなくなった通信機をジッと見つめていた。
「……分かってる。分かってるさ。この状況じゃ、オマエに頑張ってもらうしかないってことくらい」
分かってはいるが、割り切れるかどうかは別問題。
ここまで共に戦ってきた戦友に「必要だから死んでこい」などと命令することはできなかった。
「早速だが、マードックが自爆した気持ちが分かるな。代われるなら代わってやりたいぜ……。さて、なんて声をかけてやればいいかな……」