第1441話 最高の届け物
グラウンド・ゼロ本体を倒すため、ついに放たれた三発目のグングニル。
だがしかし、その三発目のグングニルは、グラウンド・ゼロの外殻内部のオリハルコン化していた部分によって阻まれてしまい、本体まで到達することはできなかった。
このあまりにも衝撃的で、そして無念な攻撃結果に、日向たちの誰もが驚愕の表情を浮かべていた。
ジャックも目を丸くして、思わず声を上げた。
「バカな! あのヤロウ、だったらなんで最初から全身オリハルコン化しやがらなかった!? 嫌がらせか!? あえてグングニルを受け止めて見せつけるのが目的だったってのかよチクショウが!」
「じ、ジャックくん、落ち着いて……」
レイカが冷静にジャックをなだめる。
そんな中、エヴァが静かに口を開いた。
彼女自身も動揺しながら、それを抑えるように。
「いえ……ジャック、あなたの言う通り、グラウンド・ゼロが最初から全身をオリハルコン化できたのならば、そうしていたでしょう。それをやらなかったのは、奴は身体の一部のみしかオリハルコン化できないからだと思います。オリハルコン化は『星の力』を大量に消費しますから」
「一部……そうか、一部だけか……。一部とは言っても、相当な広範囲じゃねーか? 抉れて露出したグラウンド・ゼロのわき腹の中心部分、あそこら一帯が全部オリハルコンになってんぞ」
「先ほども言った通り、オリハルコン化は燃費が非常に悪いです。恐らくは内部全てをオリハルコン化はせず、ミサイルが掘り進んできた方向に合わせて、ほんの一部の層だけを変化させていると思われます。ほんの一部だけでもミサイルは止められますし、『星の力』の節約にもなります」
「なるほど、あの露出している表面だけってことか……。あと細かいところなんだが、どうしてオリハルコン化しているのは内部なんだ? 外側を変化させりゃ、アイツも内部で爆破されず、あそこまでわき腹を抉られることはなかっただろーに」
「グラウンド・ゼロは大地を砕き、その砕いた大地を外殻とする『星殺し』だと聞きました。あのオリハルコン化している部分が、グラウンド・ゼロの本来の外殻なのでしょう。恐らくは本体もあの中に……」
「まーそうだろうな。さて、どうするかねこっから……」
エヴァと話しているうちにジャックも落ち着きを取り戻してきたようだが、困った状況であることに変わりはない。なにせ、グラウンド・ゼロ本体を倒すためには、あの外殻内部のオリハルコン化した部分を突破することが必要不可欠だというのだから。
それ以前に、グングニルを使い切ってしまった以上、もう日向たちには、あのグラウンド・ゼロを効果的に破壊できる大規模攻撃の手段がほとんど残っていない。
唯一可能と思われるのは日向の”星殺閃光”くらいだが、先ほど日向はグラウンド・ゼロの右拳の超震動エネルギーを焼却するために一発撃ってしまった。再使用にはまだ時間がかかる。
「ヒカゲをオリハルコンの部分に突撃させるとか……。ほら、オリハルコンは『星の力』の結晶体だから、ヒカゲやヒューガの『太陽の牙』には唯一弱いんでしょ?」
シャオランがそうつぶやくが、日影が手を振って拒否する。
「オレもさっきの右拳への攻撃で、炎をだいぶ使っちまった。とてもあのオリハルコンを全部除去はできねぇぞ。それに、見てみろ。アイツ、破損箇所の修復を始めてやがる。壊すのはオリハルコンだけじゃ足りなそうだ」
日影の言う通り、グラウンド・ゼロは自身の周囲に浮かべていた岩石で、抉られたわき腹や消滅させられた左拳の修復を始めている。撃破に時間がかかればかかるほど、追い込まれるのは日向たちの方だ。
「このままじゃ、マードック大尉が命を懸けて吹き飛ばしてくれた左拳は復活しちゃうし、グングニルで穴を開けたわき腹も塞がれる。グングニルに搭載されていた反物質爆弾は、もう一度用意できるような代物じゃない。退却はできない、絶対にここで奴を仕留めないと」
「でも……どうやって?」
日向の言葉に、北園がそう尋ねた。
彼もまだ具体的な案は思い浮かんでいないらしく、頭をかく。
「あの抉ったわき腹まで飛空艇を近づけて、皆でオリハルコンを掘り進める……のはちょっと難しいよな。オリハルコンの硬さだけじゃない。あのわき腹には今、グラウンド・ゼロが浮かべていた岩石が集められている。ここからだと大きさが分かりにくいけど、ちょっとした無人島くらいの大岩とかあるし、下手に近づいたら巻き込まれて生き埋めだ」
「だよね……。もう本当に日向くんの”星殺閃光”くらいしか方法がないんじゃ……。まだ二回目は撃てないの?」
「うん……あと一時間か二時間は冷却が必要そう……」
そう言って日向は『太陽の牙』を掲げてみせる。
刀身からは「現在冷却中です」と言わんばかりに白煙が立ち昇っていた。
……と、その時だった。
皆が装着している通信機から、誰かの声が。
『タイガー。こちらノイマン。何やらグラウンド・ゼロを破壊するための大規模火力が必要らしいな。そこでグッドニュースだ。現在、こちらは『正真正銘、三発目のグングニル』を輸送中だぞ』
「……は!?」
今のノイマンの通信を聞いて、驚きの声を上げる日向。
もちろん、他の皆も仰天していた。
日向は、通信機越しにノイマンから詳しい事情を聴く。
「『正真正銘、三発目のグングニル』って……グングニルは四発あったんですか!? だって、マードック大尉が起爆させたので一発目で、そもそもスピカさん型のせいで不発に終わったのが二発目で、さっきグラウンド・ゼロに撃ち込まれたのが三発目。そして今ノイマン准尉が運んでるのは……」
『タイガー。これは本来、二発目だったグングニルだ。スピカ型のせいで不発に終わったのを、技術班に回収してもらい、最低限修復してもらい、俺の戦闘機に搭載してもらったんだ』
「ま、マジかぁぁ……!」
これで希望が見えてきた。
……と思ったが、本堂が冷静に一言。
「いや待て。先程はグラウンド・ゼロのオリハルコン化によって、同様にオリハルコンで造られたグングニルは突破が叶わず、止められてしまった。ならば今回も結果は同じではないか? 本体に届く前に、またオリハルコンに阻まれるぞ」
「あっ」
短い声を発した日向。
他の皆も、歓喜に湧く直前のポーズで固まってしまっていた。
……が、それから少しグラウンド・ゼロの方を見ていた日向は、ふと何やら考え込む様子を見せて、それから改めて口を開いた。
「いや……全てが上手くいけばですけど、もしかしたらいけるかもしれません。ノイマン准尉が運んできてくれた最後のグングニルで、グラウンド・ゼロの外殻をぶっ壊す方法」