第1440話 オリハルコンの硬さ
一方その頃、こちらは合衆国機密兵器開発所。
ここにいる通信チーム、技術チームの面々もまたマードックの戦死を聞いて、衝撃を受けていた。
しかしその後のジャックの通信を聞いて、彼らもまたすぐに立ち直った。大尉が自分たちを信じて後を託してくれたのに、ここで戦うための手を止めるわけにはいかないと。
「たしか今、グラウンド・ゼロの超震動エネルギーは、左拳が消滅してて、右の方も大きく弱体化してるんだっけな」
「ああ。いつグングニルの発射要請が来てもおかしくない。こちらの地上の様子も安定して、念のためにミス・ミオンも地上の警戒に回ってくれている。今からでも三発目のグングニルの発射砲台を地上に出して、いつでも撃てるようにしておこう」
すると間もなく、現場にいる日向から、この機密兵器開発所へ通信が入った。
『こちら日下部です! グラウンド・ゼロの超震動エネルギー、両拳ともにどうにかできました! 三発目のグングニルの発射をお願いします!』
「こちら通信チーム、了解した! 爆発に巻き込まれないように気をつけろよ! 範囲もメチャクチャ広いから、しっかり離れてるんだぞ!」
日向の通信を受けて、通信チームが施設内のコンピューターを操作する。
すると地上にて、地面の一部が大きく開き、その下からグングニルが搭載されたミサイル砲台が姿を現した。
砲台が姿を現してから、およそ五秒後。
射出による膨大な灰煙をまき散らして、グングニルは発射された。
その一方で。
こちらは合衆国機密兵器開発所付近のアメリカ空軍基地。
本来は開発所のカモフラージュとして建設された、おまけのような小規模な基地である。
そこに現在、一機のラプター戦闘機が駐機していた。
パイロットはノイマン・ロビンソン准尉。
そして戦闘機の周りには、ハイネをはじめとした技術チームの面々の姿があった。技術チームを護衛するために、ロドリゴとカインの姿もある。
コックピットの中のノイマンが、ハイネに声をかけた。
「タイガー。助かったぞハイネ。特にお前の腕が無ければ、これほどの急ピッチで『この作業』を達成してもらうことは難しかっただろう」
「もうほんとクタクタぁ……。近頃の技術班、超絶激務だと思うんだよねぇ……」
「タイガー、悪いな。だがおかげで、俺もグラウンド・ゼロに一矢報いてやることができそうだ。それにしても、マードック大尉……もう少し待ってくれれば、あなたが犠牲になる必要も無くて済んだかもしれなかったのにな……。自爆する前に、こちらにも相談してほしかったものだ」
「まぁでも、超震動エネルギーが大地に叩きつけられる時間もわずかだったしね……あたしたちの作戦や、三発目のグングニルの着弾が間に合ってたかは、ちょっと分からなかったかも」
「そうだな……。ともあれ、俺もそろそろ出発しよう。できれば俺の作戦がお披露目されずに終わるのが理想だが、もしも三発目のグングニルにも何かあった場合、その時は俺が『正真正銘の三発目』をお見舞いしてやるぞ、タイガー」
意気揚々と語るノイマンだが、ハイネは心配そうな表情で、コックピットに座る彼を見ている。
「ねぇノイマン……本当にやる気なの? だってこの作戦は……」
「タイガー。まぁ……危険なのは分かっている。先ほどのグングニルでグラウンド・ゼロが倒せればそれでいいが、万が一ということもある。この行動は無駄にはならないはずだ」
「む、無駄とかって話じゃなくてさ……!」
「タイガー。そろそろ行かなければ。ハイネ、離れていてくれ、危ないぞ」
ハイネにそう告げて、ノイマンは戦闘機の離陸準備。
エンジンのバーナーをフルスロットルで噴かして、地上から飛び去った。
◆ ◆ ◆
日向が機密兵器開発所に通信を入れて数分後。
現在、日向たち六人、そして戦場に出ていたアメリカチームの全員は、グラウンド・ゼロの能力による浮遊岩石地帯から撤退し、日向たちの飛空艇に乗り込んでいた。
もしも、この三発目のグングニルで問題なくグラウンド・ゼロを倒せたなら、グラウンド・ゼロの能力で作られている浮遊岩石地帯も維持されなくなり、全ての岩石は地上へ落下する。その可能性を考慮すると、日向たちはもうあの岩場に留まっているわけにはいかないのだ。
そして日向たちは、先に飛空艇に乗り込んでいたARMOUREDの三人から、マードックだけでなくアカネも仮死状態になってしまっていることを伝えられた。
「そうか、アカネさんも……」
「マードックと違って完全に死んだわけじゃなさそうだけどな、しばらく会えないと思った方がいい……」
ジャックの説明を聞いて、日向たちは無念の表情。
その側でレイカもまた、ずっと沈んだ顔をしていた。
そんな時だった。
アメリカ兵の一人が、急に叫んだ。
「来た! グングニルだ!」
日向たちはすぐに気持ちを切り替え、コックピットの内壁に映し出されている外の景色を見る。すると、たしかにその兵士の言う通り、空の向こうから蒼く輝くミサイルが飛んできていた。
日向がジャックに声をかけた。
「ついに来たな……!」
「ああ。三発目の正直だぜ。あのクソッたれのデカブツとも、これでようやくオサラバだ」
「……その発言、フラグになったりしないよな?」
「やめろマジで悪いジョークだぜソイツぁ」
やがてグングニルは日向たちの飛空艇の真下を通過し、その先にいるグラウンド・ゼロへ。グラウンド・ゼロ本体から一番近いところから外殻内部へ侵入しようとした結果、どうやら日向たちから見て左わき腹あたりへ向かっているようだ。
ついにグングニルの弾頭部分がグラウンド・ゼロに突き刺さり、まるで豆腐に串を刺すかのように軽々と、そのまま機体ごとグラウンド・ゼロの外殻へと潜っていった。
「やった! グングニルはしっかり機能してる!」
「ああ! このままグラウンド・ゼロの内部を掘り進めていって、ヤツの本体に接近した瞬間、ドカンだ!」
……が、しかし。
少し経つと、日向たちの通信機から、通信チームからの緊迫した声が。
『こ、こちら通信チーム! 問題発生です! 異常に硬い何かに阻まれて、グングニルが進めません! グラウンド・ゼロの内部で止められています!』
「え、えぇ!? ジャックやっぱりフラグじゃん!?」
「ブルシット! オマエがそんな余計なこと言ったからじゃねーのか!?」
『と、とにかく! グングニルはミサイルの推進力でグラウンド・ゼロの外殻を掘り進める関係上、一度ヤツの内部で止まってしまったら、そこからUターンなどはできません! まだ本体の反応には遠いですが、ここでグングニルを起爆するしかありません!』
その報告の直後に、グラウンド・ゼロの左わき腹あたりから強烈な光が発せられた。グングニルが起爆されたのだ。
対消滅の光に巻き込まれて、何キロメートルにもわたって大きく抉られたグラウンド・ゼロの左わき腹。
その内部。
グラウンド・ゼロの中心あたりが、蒼い水晶のように煌めいていた。
「お……オリハルコンだ……」
日向がつぶやいた。
グラウンド・ゼロの内部が、オリハルコン化していた。
どうやら先ほどのグングニルは、自身と同じ材質であるオリハルコンによって、食い止められてしまっていたようだ。