第1437話 半身の消失
レイカとアカネの居合抜刀。
そして光剣型のレッドラムの回転斬りが、交差した。
先ほどまで繰り広げられていた攻防では、コーネリアスの義手が機能停止にされて、マードックの義体も大きなダメージを受けた。
皆に蓄積した疲労とダメージも深刻なものになりつつあった。
これ以上戦闘を長引かせたら、いずれ体力切れになり、光剣型のレッドラムに押し切られて敗北していただろう。
だからレイカとアカネは、あの場面で勝負に出るしかなかった。
光剣型に仕掛けるにはやや強引なタイミングだとは思ったが、幸いにもコーネリアスが彼女らの意図を察知し、閃光手榴弾を投げて援護してくれたので、勇気を出して斬りかかった。
レイカは、鞘に内蔵されたレールガン機構を利用して斬撃を放つ”超電磁居合抜刀”を放った。
アカネは、レイカと同じ仕組みの居合抜刀でありながら、自分も一緒に回転することで斬撃の威力と勢いを高める”サーキュラースピン”を放った。
二人の接近に気づいた光剣型のレッドラムは、テュベウソスの一刀両断、そしてアルセスフラウの瞬間連続斬撃を合体させた、爆風のような回転斬りで迎え撃ってきた。
三人の斬撃の激突は凄まじい突風を巻き起こし、離れたところにいるジャックたちも風が吹き抜けたのを感じたほどであった。
そして、攻撃の結果。
そこには、ガクリと膝をついてうなだれている光剣型の姿が。
光剣型は胴体から夥しい量の血を流し、自身の周囲を鮮血で染め上げている。その全身からは力が完全に抜けてしまっているようで、最後まで握っていた二振りの光剣もついに取り落とした。
「……コレガ、オ前達ノ『誓イ』ノ固サカ。全ク、腹立タシイホドニ強固ダナ。鎧デ武装シタカノヨウナ……」
そうつぶやいた後、光剣型が膝をついた体勢のまま倒れる。
地面に転がると身体が崩れて血だまりになり、もう言葉は発さなくなった。
最強のレッドラムと謳われた光剣型。
当個体の撃破に、ついにARMOUREDは成功したのである。
ジャック、コーネリアス、マードックの三人は少し離れた位置で、光剣型が撃破されたのを確認した。
「ッしゃあ! 大勝利だぜ!」
「まだグラウンド・ゼロは残っテいるガ、一つノ山場は突破したナ」
「奴に斬られた隊員たちも、これで少しは浮かばれるといいが」
一方、光剣型にトドメの一撃を仕掛けたレイカもまた、手痛い反撃を受けていた。光剣型が放った最後の一撃に巻き込まれ、身体のあちこちに傷を負ってしまっていた。特に左の上腕からの出血が酷い。
「痛たたたた……。死にはしないとは思うけど、もう今すぐ倒れちゃいそう……。でも今は、喜びの方が大きいから耐えられるかな! アカネもお疲れ様! 私たち、ついに光剣型のレッドラムを倒したのよ!」
そう言ってレイカは、自分と一緒に光剣型へのトドメを刺したアカネに声をかける。
だが、アカネの様子がおかしい。
先ほどの光剣型と同じように膝をついて、ぐったりとしている。
「アカネ……?」
アカネの様子がおかしいと思ったレイカが、彼女のもとへ歩み寄る。
彼女らの様子に気づいたジャックたち三人も、アカネに近づいていく。
レイカは近くでアカネの姿を見て、思わず声を上げた。
「アカネ……!? なんか、身体が消えかかってるわ!?」
「レイカ……。ゴメン、斬られた……」
どうやらアカネは、先ほどの光剣型との激突の際、レイカよりもずっと大きなダメージを受けてしまっていたようだ。今の彼女の核であり心臓ともいえる魂を、深く切り裂かれたのだろう。斬られた彼女の身体から、”怨気”と思われる赤黒い煙が噴き出ている。
アカネの身体に走るノイズが激増し、その姿も半透明になってきている。このままではアカネの魂は崩壊し、ここで消滅してしまう。
「この戦いが終わったら、アタシら五人そろって色々遊べたりするのかな、なんて思ってたけど、ざまぁないねまったく……」
「しっかりしてアカネ! とにかく、早く私の中に戻ってきて!」
「ん……そうする……。悪いけど、少し休ませてもらうよ……」
そう言ってアカネはレイカの肉体に戻る。
その直後、今度はレイカが苦しそうな表情で膝をついてしまった。
「う……!?」
「おいレイカ、大丈夫かよ!?」
「だ、大丈夫ですジャックくん……。これはアカネが受けた”怨気”の影響。時間をかけてゆっくり耐えれば、大丈夫ですから……」
「ふー……そうかい。ビックリさせやがって……」
ひとまず、レイカまでアカネと一緒に倒れるという事態はなさそうだ。ジャックは安堵し、息を一つ吐く。
状況が落ち着いたのを確認したマードックは、合衆国機密兵器開発所にいるスピカと通信する。
『はいはーい、こちらスピカさんだよー』
「こちらARMOURED。グラウンド・ゼロの左腕にて、光剣型のレッドラムを討伐した」
『光剣型を!? ホントにアレに勝ったんだ!? やっぱりキミたちもすごいんだねー!』
「ただ……一つ聞きたいことがある。戦闘の際、アカネが負傷してしまった。正確には、彼女の魂そのものが。これについて、貴女の見解を聞きたい」
そう言って、マードックはスピカに説明する。レイカとアカネが光剣型との戦闘中に”夢幻殺法・終の太刀”を覚醒させたこと。その戦闘中に、剥き出しになっていたアカネの魂が、光剣型の斬撃によって酷く損傷させられたことを。そして最後に、彼女の回復にどれだけ時間がかかるのかを尋ねた。
『なるほどね……。話を聞くに、今のアカネちゃんは、このワタシと同じ状態だ』
「では、アカネもいずれ貴女のように、デフォルメされた幽霊のような状態で活動を?」
『それなんだけど……それはワタシの魂の構造とか頑丈さが特殊だから幽霊として活動できるのであって、幽霊で活動できる魂っていうのにも適性があるんだよね……』
「それでは、つまり……」
『言いにくいんだけど……アカネちゃんは魂が修復されるまで、レイカちゃんの中で仮死状態になってると思う。その修復にかかる時間も、はたして二十年後か、三十年後か……』
その言葉に、ARMOUREDの四人はショックを受けた。
特にショックが大きかったのはレイカで、涙目になってしまっていた。
「そんな……。アカネ、起きてよ……。やっと二人で一つずつの身体を持てて、これから楽しくなるって思ってたのに……」
レイカがどんなに自分の中のアカネに呼び掛けても、彼女は返事をしない。それが先ほどのスピカの言葉を裏付けているようで、レイカは余計に悲しくなった。まるで自分の身体が半分消えてしまったかのような虚しさを感じた。
そんな彼女に、ジャックが声をかける。
「あー……。アカネのことはもちろん残念だけどよ、まだこの戦いは終わってねぇ。寂しがるのは後にして、今はとりあえず立とうぜ、レイカ」
「ジャックくん……」
「それに、アレだぜ。アカネも完全には死んでねーんだろ? 二十年後か三十年後にまた起きてくるってんなら、さっさとこの”最後の災害”を終わらせて、この星を元通りにしてからアイツを待っといてやろうぜ! な?」
「そう……ですね。ここでメソメソしていたら、それこそアカネに何を言われるか分かったものじゃありません」
どうにか落ち着いたレイカだが、完全には立ち直れていないように見える。まだどこか悲しそうだ。
「まぁ、この戦いが終わったらゆっくり休みな。……んで、こっからどうするんだ?」
ジャックがマードックに声をかける。
まともに使える反物質ミサイル、グングニルは残り一発のみ。
これで外殻内のグラウンド・ゼロ本体を消滅させることはできるが、そうなるとグラウンド・ゼロの左拳の超震動エネルギーが大地に落ちて、北アメリカ大陸は崩壊する。
「ふむ……そうだな……」
どのタイミングで、どうやって使うか、慎重に決めなければならない。
ジャックの言葉を受けて、マードックは少しの間、考え込む様子を見せた。