第1435話 無機質な決意、血の通った誓い
レイカとアカネがたどり着いた”二重人格”の境地。
名付けて”夢幻殺法・終の太刀”。
だが、光剣型のレッドラムもこの能力を解析し、自分の能力として習得してしまった。今の光剣型はテュベウソスとアルセスフラウに分かれ、二人でARMOUREDに攻撃を仕掛けている。
レイカがテュベウソスと、アカネがアルセスフラウと斬り結ぶ。
すると、アルセスフラウが一瞬の隙を突いてアカネの横を通り抜け、その先にいるジャックへ接近。
「しまった……! ジャック、そっち行った!」
「ああ、分かってる!」
「斬撃実行」
一刀一刀を狙いすました、アルセスフラウの大振りのラッシュ。
ジャックはそれをよく見て、身体を大きく逸らして次々と回避する。
特筆すべきは、ジャックはその場からほとんど動かずにアルセスフラウの斬撃を回避している点だ。左右や後ろへは移動せず、純粋に体軸だけを動かして、アルセスフラウの斬撃を避けている。常人よりも圧倒的に優れた体幹を誇るジャックだからこそできる芸当である。
そんなジャックに攻撃を当てようとアルセスフラウが躍起になれば、当然ながらアルセスフラウも足を止め、その場に留まることになる。
動きが速い相手が足を止めているなど、これほどのチャンスはない。すぐさまコーネリアスがアルセスフラウの横からショットガンを射撃。銃口から一斉に放たれた散弾の一粒一粒に冷気が込められている。
しかしこれは、アルセスフラウが身を屈めたことで回避されてしまう。
「だがそれハ想定内だ。……ジャック!」
「オーケー!」
間髪入れずジャックが右足を振り上げ、アルセスフラウを蹴り飛ばした。『星の力』によって生み出した雷電を右足に纏わせて。
ジャックの蹴りが命中すると、アルセスフラウは消え去った。強烈な物理的攻撃を受けて、姿を形作っていたエネルギーを崩されたか。恐らくは肉体であるテュベウソスの方に、アルセスフラウの魂も戻っていったはずだ。
アルセスフラウを追い払ったジャックは、先ほどの彼らの言葉に言い返すように叫ぶ。
「二人になって勝った気になってんじゃねーよ! 双子のレッドラムだか何だか知らねーけどよ、チームワークならこっちだって負けてねーんだよ! 元世界最強チームをナメんじゃねー!」
ジャックがアルセスフラウを撃退している間、レイカとアカネはテュベウソスに同時攻撃を仕掛けていた。
二人で並んで刀を振るうのは初めての二人だが、やはり今まで同じ肉体を共有していただけあってか、その息はピッタリだ。絶妙なコンビネーションを発揮し、テュベウソスの肉体を何度か斬りつけている。
しかし、やはりテュベウソスも強い。ほとんどのレイカとアカネの斬撃は防御されている。おまけに、二人を同時に相手しているために攻撃する暇がないかと思いきや、二人の攻撃の隙を狙ってしっかりと反撃を差し込んでくる。
さらに、ここでテュベウソスの身体から、アルセスフラウの精神エネルギーによる二本の腕と光剣が生成された。計四本になった光剣で、テュベウソスはレイカたちを薙ぎ払う。
「KAAAAA!!」
レイカとアカネは飛び退きながら刀を構えて防御。
防御は成功したが、テュベウソスの斬撃は極めて強烈だった。レイカは左へ、アカネは右へ大きく弾き飛ばされてしまう。
「くぅっ!?」
「ちッ……!」
孤立してしまった二人。
テュベウソスは二人のうち、アカネに追撃を仕掛ける。
一瞬でアカネとの間合いを詰め、その勢いのまま刺突を繰り出してきた。
「刺突」
アカネはまだ体勢を立て直せていなかったが、すぐに大きく身体を反らした。その甲斐あって、テュベウソスの刺突はアカネの左肩を浅くかすめただけで済んだ。
この時、左肩にダメージを受けたアカネは、ふと思った。
「今のアタシは、アタシ自身の精神エネルギーで具現化した、実体のない状態。だから物理攻撃は効かないと思ったけど、そういやアイツの光剣もエネルギーで造られた刀身か。刀身になっている”怨気”が、アタシの魂を蝕みやがる……!」
アカネは現在、核となっている魂を精神エネルギーで包み、そのエネルギーを身体の形にして活動強いる状態だ。この魂をテュベウソスの光剣で斬られたら、生身の人間が心臓を破壊されるように、彼女も無事では済まないだろう。
先ほどアカネがテュベウソスの刺突を避けたことで、テュベウソスはアカネの脇を通過し、現在は彼女に背を向けている状態だ。攻撃のチャンスである。
「悪いね、その背中もらうよッ!」
アカネがテュベウソスの背後から斬りかかる。
だがテュベウソスは、アカネに背を向けたまま、両手に持っている光剣をアカネめがけて突き出してきた。
「背面攻撃実行」
「しまった、誘い込まれたッ……!」
アカネの両脚を、テュベウソスの二本の光剣が抉った。
さらにテュベウソスはバク宙を繰り出し、アカネの背後へ飛ぶ。
そのまま空中で×字斬りを放ち、彼女のうなじを狙った。
するとアカネは、ここで能力を解除。
かりそめの肉体を消去し、テュベウソスの斬撃を回避。
魂だけの状態となって、駆けつけてきたレイカの肉体に合流した。
テュベウソスが着地すると、そこへマードックが突進。
着地時の硬直を狙って、テュベウソスに右肩をぶつけた。
「お前たちに、我らの大地は砕かせん! ぬぅん!」
「被弾……」
マードックのパワフルで頑丈な義体で激突されたら、それはもはや大型トラックの正面衝突に等しい。これにはテュベウソスもたまらず吹っ飛ばされた。
テュベウソスが吹っ飛ばされた先で、足場が壁のように隆起した。この戦場そのものであるグラウンド・ゼロの仕業である。
空中で受け身を取り、その隆起した岩盤に足から着地し、まっすぐ跳躍。テュベウソスは再びマードックに向かっていき、斬りかかる。
「総テ壊レロ。総テ崩レロ。我ラノ怨嗟、ソノ身ニ刻メ!」
テュベウソスの接近に備え、ガードの構えを取るマードック。
その時、彼の背後にアルセスフラウが現れた。
マードックもすぐに気づいたが、このままでは挟み撃ちだ。分かっていても対応できない。
だがそこへジャックが駆け寄ってきて、飛び蹴りでアルセスフラウをかき消した。
「だと思ったぜこのヤロー!」
「ナイスカバーだジャック!」
正面に専念できるようになったマードックは、飛び掛かってきたテュベウソスの斬撃を左腕で受け止め、右のガントレットで反撃。光剣型を思いっきり殴り飛ばした。
「ぬぅんっ!!」
クリティカルヒット。
ものすごい勢いで、テュベウソスは地面に叩きつけられた。
叩きつけられた際にバウンドするほどに。
「損傷、拡大……」
ゆっくりと立ち上がるテュベウソス、もとい光剣型のレッドラム。
さすがにダメージが蓄積してきたか、その立ち上がる姿には疲労の色が濃く見える。
今までの彼なら、ここまで消耗したら一時撤退していただろうが、今回はその気配はない。最後までグラウンド・ゼロを守るつもりなのだろう。
とはいえ、ARMOUREDの五人も、致命傷こそ受けていないがボロボロだ。彼らもまた疲労、ダメージ共に蓄積しており、いつ決定打を喰らってしまってもおかしくない。
「……勝負所だな」
マードックがつぶやいた。
次の攻防で、光剣型との決着をつけるつもりだ。
「皆、力を振り絞れ。次で決めるぞ」
「了解しタ」
「あいよ、任せな!」
「分かりました!」
「行くぜ光剣型。とことん血も涙もない、殺戮の機械みてーなオマエの決意より、俺たちの『国を守る誓い』の方がずっと固いし血も通ってるってところを見せてやるぜ」
それぞれ構えるARMOUREDの五人。
光剣型のレッドラムも光剣を構え、五人に向かって飛び掛かった。
「対象ノ脅威度数ヲ最大ニ引キ上ゲル。標的ハ全テ抹殺スル……!」