第1434話 解析完了
「解析、完了」
ARMOUREDの面々に四方から攻撃されそうになった瞬間、光剣型のレッドラムがそうつぶやいた。
次の瞬間、彼の真っ赤な肉体から、もう一つの人影が出てきた。
肉体そのものが分裂するのではなく、背後霊が出てきたように、音もなく、静かに。
光剣型のレッドラムから現れたのは、光剣型とまったく同じ容姿をした、もう一体の光剣型のレッドラムだった。両手に持つ二本の光剣まで同じである。
一体目の光剣型が、正面から斬りかかってきたレイカの刀を右の光剣で受け止め、ジャックが撃ってきた弾丸を左の光剣で防御した。
二体目の光剣型が、ものすごい速度で両手の光剣を振るい、斬りかかってきたアカネも、コーネリアスの散弾も、まとめてはじき返してしまった。
いったん光剣型から距離を取るARMOUREDの五人。
二体に増えた光剣型は背中合わせに、自分たちを包囲するARMOUREDに目を向けている。
光剣型を警戒しながら、ジャックが口を開いた。
「コイツら、二体に増えやがった! というかよ、さっきから『人格の切り替えを利用した攻撃』とか、『精神エネルギーでもう一つの人格の斬撃を具現化する』とか、そしてこの分裂とか、レイカたちの技とまったく一緒だよな?」
「それは私も思いました。もしかしたら……」
「何か心当たりがあんのか?」
「ジャックくんたちは射撃担当だから遠くにいて聞こえなかったかもしれないですけど、さっき光剣型が二体に増える前に『解析完了』ってつぶやいたんです。あと、いま思い出したんですけど、私たちの”弐の太刀”のように斬撃を増やす直前にも、同じことをつぶやいていたような。そして、最初にコロンバスで私たちを斬った”夢幻殺法”の時も……」
「もしかして、あの光剣型、オマエの技をパクッてんのか……」
「おそらく……。同じ『一つの肉体に二つの魂』を持つ者として、参考にされた可能性が高いですね……」
考えてみれば、スピカの話では、レイカたちの”二重人格”の超能力は、アーリアの民は持っていない超能力だと説明していた。それが事実であれば、光剣型のレッドラムであるテュベウソスとアルセスフラウが最初からその能力を持っているはずがないのだ。
であれば、やはりこの光剣型の”二重人格”に酷似した能力は、狭山に製造された時に付与されたものではなく、レイカとアカネの超能力を模倣して後天的に手に入れたものなのだろう。
よく見れば、二体の光剣型のうち、本体である肉体の方は赤い眼光を放っており、エネルギー体の方は青い眼光である。
二体の光剣型が動く。
赤い眼光の方が、レイカに向かって斬りかかった。
そして青い眼光の方はアカネに仕掛ける。
「来ますか……!」
「上等ッ!」
赤い眼光の光剣型は、両手の光剣で縦斬り、横斬り、刺突、袈裟斬り、回転斬り、両方の光剣振り下ろしなど、激しい連続攻撃で攻め立ててくる。
光剣型の斬撃は、人間の腕力では耐え切れないくらい強い。レイカもまともに受け止めれば、構えた刀を弾き飛ばされ、そのまま身体を真っ二つに切り裂かれてしまうだろう。
しかしレイカは構えた刀で、光剣型の斬撃をうまく逸らす。光剣型の斬撃の力を別の方向へ流すようにして、振るわれる光剣を次々と捌いていく。
「どうにか捌けますけど、とてもこちらからは反撃を差し込む余裕が……む、来る!」
「KAAAAAAA……!!」
光剣型が身体全体を捻り、その捻りを一気に戻すようにして回転斬りを放った。
空気がブレるほどの剣速。
全てを力ずくでぶった斬ってしまいそうなほどの勢い。
これはレイカであっても、逸らすことなど不可能だ。
レイカは思いっきりバク宙を繰り出し、後ろへ下がる。
ちょうどジャックがデザートイーグルで、マードックが岩を投げて光剣型へ攻撃を仕掛けていたが、銃弾も岩もまとめて吹き飛ばされてしまった。
「この息をつかせない連続攻撃と、トドメの大振り……こっちの赤い眼光の方はテュベウソスですか!」
一方で青い眼光の光剣型は、一発一発の斬撃が大振りだ。
だが、その斬撃は決して力任せなだけでなく、アカネが繰り出す斬撃に合わせて、それに対応した一撃を繰り出しているようである。
アカネの斬撃が激しさを増しそうになると、彼女の攻撃の隙を的確に突いて反撃を放ち、その攻勢を止めてしまう。
また、アカネの斬撃に合わせて光剣型も斬撃を放ってぶつけ、強引にアカネの体勢を崩した後、そこから連撃につなげてくる。
「こっちの勢いが乗り切る前に潰される……! ったく、やりにくいったらないね!」
「アカネ、援護しよウ」
コーネリアスが義手の右手で地面に手をつき、トラクタービームを作動。波打つように地面が動き出し、その波が光剣型に襲い掛かる。
皆が立っているこの場所はグラウンド・ゼロの左腕の上、つまり大小さまざまな岩盤や瓦礫が寄せ集められて外殻を成している。超巨大な岩の表面を波立たせているのではなく、実際はこの瓦礫と岩盤の寄せ集めを連続的に動かして、波が起きているように見せているのである。
コーネリアスが起こした足場の波に、光剣型が巻き込まれた。ダメージは無いが瓦礫と共に高く打ち上げられ、宙を舞う。
「もらったッ!」
宙に打ち上げられた光剣型を追って、アカネも飛び上がる。
ロケットのような勢いで、一直線に。
だがその瞬間、飛び掛かってきたアカネを迎え撃つように、光剣型も斬撃を放った。一回だけ剣を振るったようにしか見えなかったのに、何十もの剣閃が走る極速の斬撃を。
「KUAAAAA!!」
「くッ!?」
アカネはとっさに刀で防御。どうにかノーダメージで凌いだが、グラウンド・ゼロの左腕表面へ叩き返されてしまった。
光剣型と一緒に宙へ打ち上げられていた瓦礫も、今の光剣型の斬撃に巻き込まれて、細切れになってしまっていた。
「あの一瞬で、あの異常な数の斬撃を……! じゃあ、あの青い眼光の方がアルセスフラウってワケかい!」
ARMOUREDの五人を押し返した二体の光剣型……テュベウソスとアルセスフラウは二人で並び立ち、敵対している五人へ改めて視線を向ける。
そして、なにやら言葉を発し始めた。
「コノ星ノ総テヲ斬ル。コノ星ノ総テヲ殺ス」
「我等ハ、オ前達ガタダ存在シテイル事サエ我慢ナラナイ」
「ARMOURED。貴様ラノ任務ハココデ終ワル。貴様ラハ我々ニ敗レ、守ルベキモノハ何一ツトシテ守レナイ」
「オ前達ガ愛スル大地ト共ニ、砕ケ散レ」
話を終えると、テュベウソスとアルセスフラウは、再びARMOUREDの五人に斬りかかってきた。