第1432話 終の太刀
レイカが瞑想を始めた一方で、光剣型のレッドラムが左手の光剣を勢いよく振るい、ジャックを攻撃。
ジャックは義体の左腕で、光剣型の斬撃をガード。
その衝撃で大きく吹き飛ばされたが、どうにかダメージを受けずに済んだ。
左腕の表面に大きな傷を入れられたが、稼働に問題はない。
ジャックが吹っ飛ばされた先には、瞑想中のレイカをかばうように立っているコーネリアス少尉がいた。
「おいコーディ! レイカのやつ、なんか目を開けてねーけど大丈夫なのか!?」
ジャックがコーネリアスに呼び掛けると、彼は小さくうなずく。
「大丈夫そうダ。何やらアカネと会話しテ、受けた”怨気”を抑え込むためニ瞑想を始めタようダ」
「おいおい、ここでかよ! そりゃ”怨気”も放っておくワケにゃいかねーだろうがよー!」
「致し方あるまイ。彼女もゆっくりしていル場合ではないのハ承知しているはズ。レイカが復帰するまデ、もう少し俺たちデ時間を稼ぐゾ」
「しゃーねーなぁ!」
瞑想中のレイカを護衛することを決めたジャックたち。
光剣型のレッドラムは現在、マードックが一人で食い止めてくれている。
超能力で作り出した二つの光剣も合わせ、四本の光剣でマードックに激しく斬りかかっている光剣型。 その攻撃の激しさたるや、さすがのマードックも、この義体の心臓ともいえる頭脳を守るので精いっぱいのようだ。なかなかガードを解けずにいる。
マードックは現在、セントルイスでスピカ型と戦った時にも使っていた、自身の拳の威力を大きく引き上げるガントレットを右腕に装備しているが、この状況では右腕も振るえたものではない。
「く……。いつまでも、お前の手番と思うな……!」
マードックが仕掛けた。
光剣型の攻撃に合わせて、左の鋼腕を振るって光剣を弾く。
一瞬だけ光剣型の動きが硬直する。
その一瞬を見逃さず、マードックが右ローキック。
命中。
しなやかに振るわれた黒鋼の強脚が、光剣型の左足を打ち据えた。
マードックの義体の性能から繰り出されるローキック。
その威力は、岩くらいなら容易く砕く。
「被弾。損傷軽微。戦闘続行」
身体ごと浮かび上がってもおかしくない一撃だったが、光剣型は踏ん張って、マードックの右ローに耐えた。そしてすかさず精神エネルギーで作り出した光剣で、マードックの頭部めがけて刺突を繰り出す。
マードックも、この程度で光剣型を倒せるとは思っていなかったが、まったく怯むことなく反撃してくるのは予想外だったので、反応はギリギリになってしまった。とっさに上体を逸らしたことで脳を貫かれることは回避できたが、左の目を光剣の切っ先で浅く抉られ、破壊されてしまった。
「む……!」
マードックの眼球もまた、機械で造られた義眼である。
そのため、これもマードックにとっては致命傷にはならない。
だが、壊されれば視界が制限されてしまう。
急に視界が狭くなり動揺してしまったマードック。
その隙を逃さず、光剣型が追撃しようとする。
そこへジャックが駆けつけて、低空飛行するように低く跳躍。そのまま右足を突き出して、光剣型の足を狙う、飛び込むようなスライディングキックを繰り出した。
「やらせねーぜ!」
……が、しかし。
ジャックのスライディングは、光剣型に命中する前に、何やら硬い物に当たって止まる。
スライディングを止めたのは、グラウンド・ゼロが隆起させた岩盤だった。小さく隆起させられた分厚い板のような岩が、ジャックの足裏に当たっていた。
「あー、やべ……」
結果としてジャックは、光剣型のすぐ側で、仰向けに倒れて隙を晒すという最悪の事態に陥ってしまう。
そして、グラウンド・ゼロがジャックを止めると分かっていたように、光剣型は瞬時に動いた。まずはマードックの顎下にサマーソルトキックを喰らわせ、そのままジャックを止めた小さい岩盤を飛び越え、着地と同時にジャックの腹部を思い切り踏みつける。
「ぬぐっ……!」
「げほッ……!?」
腹筋を踏みつけられ、脊髄まで響くほどの衝撃が奔る。
ジャックの背中の下の地面がひび割れ、ジャック自身も多量の吐血。
「ジャック!」
コーネリアスが右腕の義手のトラクタービームを起動し、ジャックの義手部分を引きずって光剣型から引き離そうとする。
しかし光剣型は、コーネリアスが発したトラクタービームを光剣で切り裂き、打ち消してしまった。
ならばとコーネリアスは左手のショットガンで光剣型を射撃するが、これは自慢の光剣で弾かれる。
さらに、コーネリアスの目の前の地面が隆起し、彼の射線を遮ってしまう。またしてもグラウンド・ゼロの妨害だ。
「おのレ……!」
コーネリアスは攻撃を止められ、マードックも体勢を崩されている。
光剣型を止められる者が、誰もいない。
このままではジャックが危ない。
「標的、排除」
「あ、終わったわこりゃ」
光剣型が剣を逆手に握り、足元のジャックに切っ先を振り下ろした。
しかし、その時だった。
ここでレイカが瞑想を終え、ものすごいスピードで光剣型に肉薄。
彼女の義足の性能があってこその速度だ。
光剣型に接近したレイカは、すでに居合の構えを取っている。
そして、ジャックに振り下ろされようとしていた光剣を狙って、刀を抜き放った。
「超電磁居合抜刀!!」
強烈な一撃で光剣を弾かれ、光剣型自身の体勢も崩れる。
だが光剣型もすぐに体勢を整え、レイカの反撃に備えて構える。
その光剣型の背後に、アカネが回り込んできた。
レイカは光剣型の目の前にいるのに、アカネの姿が光剣型の背後に。
光剣型も驚愕したのか、とっさにアカネの方を振り向いた。
「しゃあああッ!!」
素早く三連斬りを繰り出すアカネ。
光剣型は二本の光剣を構え、彼女の斬撃を防御。
その隙にレイカが光剣型との間合いを詰め、彼の脇をすれ違うように斬りつける。
「やぁっ!!」
光剣型もすぐさまレイカの方を振り向きつつ、光剣も振るって回転斬りを繰り出したが、レイカはうまく光剣の下をくぐり抜けて、光剣型のわき腹を深く斬りつけることに成功した。
「被弾……」
これまで無機質だった光剣型の声に、若干の焦りが含まれているように聞こえた。
光剣型は大きく飛び退き、レイカたちから距離を取る。
彼の足元にいたジャックも解放され、腹部を押さえながら身を起こす。
「助かったぜレイカ……と、アカネ……なんだよな? オマエら、なんで二人同時に出てきて……」
ジャックからそう尋ねられたレイカとアカネは、ジャックの方を見ながら同時に微笑んだ。レイカはニコリとお淑やかに。アカネはニヤリと野性的に。
「驚いたでしょ、ジャックくん。これが――」
「アタシらの”二重人格”、その真髄ってヤツさ!」
「「名付けて、”夢幻殺法・終の太刀”!!」」