第1430話 四本の光剣
光剣型のレッドラムが、レイカとアカネの”二重人格”の超能力のように、肉体の内側に控えるもう一人の魂のエネルギーを利用した念刃を発生させた。
二振りの光剣を持ってたたずむ光剣型のレッドラム。
その彼の両肩から、幻影のようなもう二振りの光剣が現れている。
彼の肉体に宿るもう一つの魂、彼の弟によって作られたエネルギー体の光剣だ。
そんな光剣型の正面で、刀を構えなおすアカネ。
彼女の中のレイカが声をかけてきた。
(気を付けて、アカネ! これで光剣型の手数は今までの倍になった。ただでさえ凶悪な剣術だったのに、今の光剣型は、もうまともに近づくだけでも極めて危険だわ!)
「分かってるよ。でも引き下がるわけにはいかないじゃん? いざという時は防御を任せるよ、レイカ!」
レイカに返事をすると、アカネは光剣型に向かってダッシュし、斬りかかった。
真正面から、大きく振りかぶって攻撃を仕掛けるアカネ。
一見すると直線的で単調で、簡単に光剣型に返り討ちにされてしまいそうな動きにも見えるが、斬りかかっている最中にもアカネは自身の野生的勘を極限まで研ぎ澄ませ、光剣型に刃を食い込ませるその瞬間まで、相手のどんな動きにもとっさに対応できるよう意識している。
すると、光剣型も構えた。
光剣型本体の二本の光剣。
そして、精神エネルギーによって作り出した念力の光剣。
合わせて四本の光剣を、それぞれ両腕を交差させて構える。
「……こりゃヤバいかもしれないね!」
瞬時に判断し、アカネは光剣型の前から飛び退いた。
その直後、光剣型は、交差させた腕を戻すように四本の光剣を振り抜く。
光剣型が放った斬撃は、まるで爆風だった。
足場は大きく切り裂かれ、抉られ、浮かび上がった瓦礫が、嵐のように巻き起こった斬撃によって粉々になってしまった。
あんな攻撃、たった一本の刀で防げるようなものではない。
光剣型から距離を取ったアカネの判断は大正解だった。
だが、その飛び退いたアカネの背中に何か壁のようなものがぶつかり、アカネの動きが止まってしまう。
「ちッ! これは、グラウンド・ゼロが隆起させた岩盤! アタシの退路を塞ぎやがった!」
「追撃スル」
アカネの動きが止まったのを、光剣型は見逃さない。
静止状態から、いきなりレーシングカーのような速度でアカネに迫る。
他のARMOUREDの仲間たちも、このアカネの危機を見逃すわけがない。いち早くジャックが光剣型の横からデザートイーグルを射撃し、コーネリアスも対物ライフルの銃口を光剣型に向けようとする。
「行かせるかよ!」
しかし、光剣型の念刃がジャックの弾丸を防いでしまう。
コーネリアスは、急に目の前の地面が隆起して、射線と視界を遮られてしまった。
「グラウンド・ゼロめ、姑息な妨害ヲ……!」
そうしているうちに、光剣型がもうアカネの目の前まで来ている。
先ほどのように両腕を交差させ、二本の光剣で斬りつける用意。
アカネはレイカに人格を切り替え、光剣型を迎え撃つ体勢に入っている。敵を引き付けて反撃するなら、アカネよりレイカの方が適している。
(悪い、頼んだよレイカ!)
「任せて!」
レイカは刀を鞘に戻し、居合の構え。
光剣型が、交差させた両腕を戻して斬りつけてくる時、その両腕の交差点を断ち切って、両腕ごと光剣を斬り飛ばすつもりだ。
至難の業だが、決まれば一気に決着がつく。
己の技、ここまで積み上げてきたものを信じ、レイカは勝負に出る。
だが、光剣型は光剣を振るわず、構えたままレイカめがけてまっすぐ突進してきた。
「なっ!? しまっ……うぐっ!?」
光剣型の手元を注視していたレイカは、光剣型がそのまま突っ込んでくるのに反応が遅れてしまった。その結果、光剣型に激突され、背後の岩盤ごと吹っ飛ばされてしまった。
衝撃で粉々になった岩盤と、その岩盤と一緒に地面に転がされるレイカ。相当なダメージを受けたはずだが、どうにか背中から着地して後転、受け身を取って膝をつき、居合の構え。光剣型の追撃を牽制する。
「はぁっ、はぁっ……!」
すぐに刀を構え直したレイカを見て、光剣型は一瞬だけ動きを止めた。彼女に追撃を仕掛けようとして、とっさに中断したのだろう。
その一瞬を、コーネリアスが見逃さなかった。
グラウンド・ゼロが隆起させた岩盤を、逆に足場として利用しジャンプ。光剣型の背後から対物ライフルを発射。
「喰らエ……!」
……しかし、防がれた。
光剣型はコーネリアスの方を振り向かず、念刃を発生させて、背後から飛んできた対物ライフル弾を×の字に切り裂いてしまったのだ。
弾丸を切り裂いた後で、光剣型がコーネリアスの方をゆっくりと振り向いた。
そしてそのまま、光剣型がコーネリアスめがけて猛ダッシュ。
ターゲットをレイカからコーネリアスに変更した。
「来るカ……!」
「コーディ、援護するぜ!」
「私も加わる! 真っ向から迎え撃つぞ!」
ジャック、コーネリアス、マードックの三人が、正面から駆け寄ってくる光剣型めがけて集中射撃。
鉄板に穴を開けるマグナム弾と、戦車の装甲をも貫く対物ライフル弾、そしてマードックのガトリング砲とスモールミサイル。これらが織りなす弾幕は、まさに砲火の雨。巻き込まれたら、普通はミンチ確定だ。
ところが光剣型は、自身の二本の光剣と、精神エネルギーで生成した二本の光剣で、この弾幕をなんと真正面からかき分けて突撃してくる。
彼の光剣が二本のままであれば押し切れただろうが、手数が倍になったことで三人の弾幕にも対抗できるようになってしまった。
「バケモンが! いちいちアッと驚くビックリムーブかまさねーと気が済まねぇのか!」
「冷気を込めた弾丸ハ、切り裂かず正確に回避されるナ……。下手に触れてくれれバ氷漬けニできるものヲ……!」
「まだだ! これでどうだ!」
マードックが火炎放射器から炎を発射。
弾丸を叩き落しながら向かってきていた光剣型を、猛烈な火炎が包み込む。
しかし光剣型は、その炎が自分を包み込んで姿を隠してくれたのを利用。三人が光剣型の姿を見失った一瞬のうちに、弾幕の下をくぐり抜けるようにして接近した。
「やべっ……!」
「くッ……」
「いかん……!」
「殲滅スル」
光剣型が、自分ごと回転するように四本の光剣を振るった。
竜巻のように巻き起こった強烈な斬撃が、ジャックたち三人を斬り飛ばしてしまった。




