第1429話 急に性質が切り替わる斬撃
光剣型のレッドラムの大振りに合わせて居合抜刀を決めようとしていたレイカ。
しかし、光剣型が放ったのは、一瞬かつ圧倒的な連続斬撃。
直前まで、光剣型は間違いなく、大振りを放つための予備動作に入っていた。だが技を放つ直前で、いきなり連続斬撃の動作に切り替わったのである。
この攻撃は、あの時と同じだ。
初めてレイカが光剣型と対峙した時に、彼に斬られた時と。
あの時もレイカは光剣型の大振りに合わせようとして、まったく異なる性質の攻撃を繰り出され、それに対処できなかった。
大振りを回避するのと、連続した斬撃を回避するのでは、勝手がまったく違う。大振りを避けるための動作で連続斬撃を回避することはできない。一太刀目を回避した瞬間に、続く連撃を全て浴びせられるだろうから。
ところが。
レイカは事前に刀を構え、光剣型の斬撃をガード。
その衝撃でレイカは吹っ飛ばされたものの、ダメージは無い。
両足で着地してブレーキをかけ、息を一つ吐いた。
「ふぅ……。今まで自分がさんざんやってきたことですけど、こうして誰かにやられてみると、意外と分からないものなんですね……」
レイカは……いや、ARMOUREDはすでに、今の光剣型の「急に性質が切り替わる斬撃」について、その正体を掴んでいた。
正確には、いち早くその正体に感づいたのはミオンだ。
彼女もまたセントルイスで光剣型と戦った時、この「急に性質が切り替わる斬撃」に引っ掛かり、深手を負わされてしまった。
その後、彼女はその時の戦闘を振り返り、光剣型の「急に性質が切り替わる斬撃」の正体を分析。その分析結果をARMOUREDにも伝えたのである。
光剣型のレッドラムの正体は、アーリアの民の一人であるテュベウソス。
彼は弟のアルセスフラウと共に、剣を使わせればアーリアの民でも一、二を争うとして有名だった。
テュベウソスは、敵を連続攻撃で攻め立て、ここぞという場面で大振りの一撃を放ち、敵を仕留めるというスタイルを得意としていた。
しかし一方で、いま光剣型のレッドラムがやってみせたように、一瞬で何発もの斬撃を繰り出してみせるという芸当はあまり得意ではなかった。
その連続斬撃は、弟のアルセスフラウの得意技なのである。
それが分かれば、この光剣型のレッドラムの本当の正体についても見えてくる。
つまり光剣型のレッドラムとは、兄のテュベウソスだけでなく、弟のアルセスフラウの魂まで取り入れられている、一つの肉体に二人の剣士が宿った個体なのだ。
レイカやミオンを切り裂いた「急に性質が切り替わる斬撃」。
その正体は、「極めてスムーズな人格の切り替え」を用いた錯覚トリック。
これと同様の戦法を、レイカとアカネも”夢幻殺法”の名前で使用していた。
手品の種が分かれば、レイカだって対処できる。
あらかじめ防御の型を取っていたことで、見事にレイカは光剣型の斬撃を凌ぐことができた。
「あの日のトラウマ、克服です!」
「人格ノ切リ替エヲ対処サレタ。対象ノ脅威度数ヲ引キ上ゲル」
言葉を発した後、光剣型は再びレイカへ攻撃を仕掛ける。
今度は光剣型もレイカの”夢幻殺法”のように、攻撃中に頻繁に人格を切り替えながら攻撃してきた。手品の種は分かっていても、光剣型のパワーとスピードで怒涛の攻撃を繰り出されれば、それだけでも十分に脅威だ。
これに対して、レイカも”二重人格”の超能力を行使。レイカでありながら、アカネの斬撃も精神エネルギーで具現化され、二人同時に繰り出される。次々と繰り出される二人の斬撃が、光剣型の斬撃を弾いていく。
(何とか凌いでるけど、まるで斬撃の嵐だね……! 防ぐのがやっとだよ!)
レイカの中で、アカネがきつそうにつぶやく。
その一方で光剣型も、斬撃を繰り出しながら何やら言葉を発した。
「解析。同一肉体内ノ複数ノ魂、コレヲ精神エネルギーデ実体化シタ念刃。コレニヨリ、対象ハ自身ノ手数ノ倍加ヲ実現シテイル」
光剣型の攻撃がさらに激しさを増してきた。
それは間違いなく危険なことだが、つまり光剣型の意識が攻撃に寄ってきたということでもある。不意を突いて仕掛けるなら、今がチャンスだ。
「三人とも、援護お願いします!」
「オーケー! 任せな!」
レイカの呼びかけにジャックが返事し、彼女の背後から二丁のデザートイーグルを射撃。ジャックが放った銃弾は、レイカの両脇を通り抜け、光剣型が握っている光剣の柄に命中する。
柄に銃弾を叩き込まれ、振るおうとしていた光剣の動きが止まる。
その隙にレイカとアカネが全くの同時に四連の斬撃、計八発の斬撃を繰り出した。
「やぁぁぁっ!!」
(はぁぁぁッ!!)
これに対して光剣型は、素早く後退。
それでもわずかに、レイカたちの斬撃の方が速かった。
致命傷とまではいかないが、光剣型を数回斬りつけることに成功する。
後退した光剣型に、コーネリアスが飛び上がりながら対物ライフルを発射。狙いは光剣型の頭部……と見せかけて、光剣型の目の前の足元。
対物ライフルの銃弾が足場を派手に破壊し、土煙が舞い上がる。
コーネリアスが自分を直接狙ってくると勘違いした光剣型は、この土煙に巻き込まれて目の前が見えなくなる。
土煙に包まれた光剣型めがけて、ジャックとマードックがそれぞれデザートイーグルとガトリング砲で集中砲火。煙幕越しの射撃であれば、さすがの光剣型も銃弾を叩き落すことはできないはずだ。
しかし光剣型は、身を極端に低くした姿勢で、飛んできた銃弾の下を潜りながら突撃してきた。肩や頭部の表面に何度か銃弾が当たったらしく出血しているが、致命傷には程遠い。
光剣型の狙いはマードックだ。
あっという間に彼の眼前まで距離を詰め、二刀の光剣を大きく振るう。
しかしマードックは、背中のスラスターで瞬時にその場から移動し、光剣型の斬撃を回避する。加速は瞬間的とはいえ、あの重武装からは想像もつかないほどのスピードだった。
ここでジャック、コーネリアス、マードックの三人が光剣型を包囲し、三人同時にそれぞれの銃を射撃。ジャックは二丁のデザートイーグルで。コーネリアスは対物ライフルで。マードックは両肩のスモールミサイルで。
三方向からの同時射撃。
いくら光剣型でも、その全てを迎撃することはまず不可能。
彼に残された手は、上に跳んで回避するくらいのもの。
その光剣型の頭上からは、アカネが刀を大きく振りかぶりながら落下してきていた。
「そろそろ致命傷の一つでも負いな、バケモンが!」
光剣型の全ての逃げ道を潰した、ARMOUREDの最高の連携。
これはもう、決まらないワケがない。
それほどまでに完璧だった。
その時。
光剣型が、なにやらポツリとつぶやいた。
「……解析完了」
そうつぶやくと、光剣型は両手に持っている光剣を素早く振るう。
そして、信じられないことが起こる。
光剣型がいきなり、今までの倍以上の斬撃を一瞬のうちに放った。
その結果、ジャックの銃弾は叩き落され、コーネリアスのライフル弾は真っ二つに切り裂かれ、マードックのミサイルは斬撃の余波を飛ばしてぶつけることで誘爆させられ、アカネはとっさに防御したものの強烈に弾き飛ばされてしまった。
「くぅっ!?」
声を上げるアカネ。
空中でうまく体勢を整え、両足で着地する。
光剣型の攻撃を完全には防ぎきれなかったらしく、腕から少し出血している。
アカネの中のレイカが声をかけてきた。
(アカネ! 大丈夫!?)
「平気だよ、これくらい。そんなことより、いま何が起こった? 光剣型が斬りつけてきたってのは分かるんだけど、まるで何かが爆発したみたいに、一瞬で何発も……」
(私は、アカネの中で落ち着いて見てたからかな。彼が何をしたのか、分かったと思う)
そう言ってレイカは、恐る恐るといった様子で、光剣型がどうやって急激に攻撃の手数を増やしたかについて、アカネに教えた。
(一瞬だけ、彼が持っている光剣が二本から四本に増えたのが見えたの。エネルギーで生成された、幻覚みたいな光剣が。彼は私たちの”二重人格”と同じように、二つの魂で同時攻撃を行なったんだと思う……!)