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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第23章 合衆国本土奪還作戦
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第1424話 強化人間の本気

 スピカ型のレッドラムの螺旋念力を胸に受けて、ニコが吹っ飛ばされてしまった。


 空間ごと敵対者を()じってしまう、スピカ型の螺旋念力。その威力は、たとえ太く頑丈な鉄筋であっても、まるで渦を巻いたように(ひね)られて破壊されてしまうほど。


 これを生身の胸部に受けようものなら、胸骨が破壊され、その()じれは心臓にまで達し、即死する。


 しかし、ニコは即死せず、四肢で身を起こして立ち上がろうとしていた。身体全体が震え、ひどい吐血であるが、どうにか一命を取り留めたようである。


「グッ……げホっ……!」


()じれが心臓まで届かなかったかー。急いで発射したからパワーが足りなかったかな。あの子自身の肉体の頑丈さもあるだろうね。けど、それでも大きなダメージになったのは間違いない。今、戦況はワタシに有利な方に傾いている」


 動きが鈍っているうちに、トドメを刺してしまおう。

 そう考えたスピカ型は、苦しんでいるニコに右の手のひらを向けた。


 その時だった。

 スピカ型の左側から、ブレードが高速回転しながら飛んできた。

 ブレードの狙いは、スピカ型の首。


「あれは確か、カインくんとかいう兵士が持っていた剣……」


 ブレードが飛んできたことに気づいたスピカ型は、左手でバリアーを張ってブレードを防御。バリアーに(はじ)き返されたブレードが、金属音を立てて宙を舞う。


 ブレードを防いだ直後のスピカ型。

 その背後に、すでにカインの姿があった。


「え、(はや)……」


「はっ!!」


 右手に持っていたブレードで、カインがスピカ型を斬りつける。

 スピカ型は回避行動をとったが、カインの斬撃の方が早かった。


 スピカ型の右肩から出血。

 カインの攻撃でダメージを与えることに成功。


 しかしスピカ型はすぐさま反撃に転ずる。

 たったいま自分を攻撃したカインが立っていると思われる場所に、標的を目視確認するよりも先に螺旋念力を発射した。


 ……が、すでにそこにカインはいなかった。

 スピカ型の斜め左後ろから、カインが音もなく飛び掛かり、ブレードを振り下ろす。


 スピカ型は、まだカインがいる方向を振り向いてもいない。

 この斬撃は直撃した……かと思われたが。


 スピカ型は球状のバリアーを自身の周囲に展開し、全方位からの攻撃をシャットアウトする体勢。これではカインの斬撃も通らず、刃は金属音と共にバリアーに阻まれてしまった。


「ホントずっるい能力……!」


「見ーつけた」


 今度こそカインを仕留めようと、スピカ型は念力でカインを捕まえようとする。


 しかしカインは、スピカ型のバリアーを蹴ってその反動を利用し、ものすごい勢いで後方へ飛び去った。さらに、その先にあった木の幹に着地し、そこから別の木の枝へ飛び上がり、あっという間に姿を消す。


 忍者もびっくりの機動力を発揮して、スピカ型の”念動力(サイコキネシス)”から逃れたカイン。これにはスピカ型も首を(かし)げた。


「彼は……さっきまであんなに動くことはできなかったはず。今までも普通の人間と比べたら間違いなく超人的な動きだったけど、さっきの彼は、あのマモノと化したニコちゃんにも引けを取らないレベルだった……。何かパワーアップしたね?」


 そのスピカ型の言葉は正解である。


 カインは、合衆国機密兵器開発所が開発していた身体強化薬を自身に投与したのだ。

 この薬の効果は極めて高く、グラウンド・ゼロの浮遊岩石地帯では、目付きのレッドラムと遭遇した兵士たちがこれを使用し、正面戦闘で難なく討伐せしめるほどの動きを見せた。


 しかし、効果が高いぶん、服用する量を間違えると逆に自身の身体を壊しかねない、危険な薬品でもある。もっと強い力が欲しいからと言って、薬の量を増やすわけにはいかないのだ。


 だが、強化人間であるカインは、元々の肉体が普通の人間より頑丈に育っている。そのため彼は、普通の兵士のおよそ二倍の量の身体強化薬を投与できた。


 その結果が、今のカインである。

 合衆国の生体化学の粋と粋が、人の限界を超越させた。


「副作用の反動が今から怖いすけどね……。けど、ブライアント少尉があんな覚悟を決めたんだから、俺だってやるっすよ。強化人間の本気、見せてやる時が来たっすね」


 木の枝の上、木の葉の中に隠れながら、カインは思った。


 一方、カインの下のスピカ型は、球状のバリアーを維持したまま周囲を警戒している。


「うん、いったん落ち着こうワタシ。とりあえずバリアーを維持していれば、あの子はワタシに手を出せない。ニコちゃんが思いっきり突っ込んで来たら流石に危ないから、あの子の位置はしっかり把握して……」


 しかし、ニコがいると思っていた場所にスピカ型が目を向けても、彼女の姿はなかった。


「あれ? いない? おかしいな、あのダメージじゃまだ動けないと思ったのに。よしんば動けたとしても、今の彼女に物音の一つも立てず姿を消して隠れるなんて機転が働くかな? カインくんの攻撃を受けていた時でも、ニコちゃんの位置は警戒していたはずなんだけど……」


 ……と、スピカ型が思考していた、その時だった。

 彼女の頭上の木の枝葉の中から、カインが姿を現して急降下。


「良い位置に来てくれたっすね! もらった!」


 今のカインのパワーと、落下の勢い。そしてブレードの切れ味。

 その全てを凝縮し、スピカ型のバリアーの頭頂部を突き砕きにかかった。


「はぁぁぁぁっ!!」


 ガッギィィィィン、と金属音が鳴り響いた。


 カインが突き立てたブレードは。

 残念ながら、スピカ型のバリアーを貫通してはいなかった。


「これでもダメっすか……!」


「今度こそ見つけた」


 スピカ型が”念動力(サイコキネシス)”を行使。

 カインが念力で捕まえられ、空中で身体を固定された。


「うっ……!」


「やっと捕まえたよー。さぁて、どうしてくれようか」


「あまり乱暴にいじめないでほしいっすね……」


「そう言われるといじめたくなっちゃうなー」


「いい性格してるっすね。ところで、俺なんかに構ってていいんすか? ほら、横から……」


「え?」


 スピカ型の横から、ニコがものすごい勢いで突っ込んできていた。

 金色の翼を展開し、ロケットのような勢いで。


「え、いつの間に……!?」


 これにはスピカ型も驚愕した。

 今のカインとのやり取りの間にも周囲には気を配っていたのに、ニコが姿を現したのにまったく気づかなかったからだ。


 慌ててスピカ型は、バリアーのパワーをニコの方向へ集中させる。

 これならば激突されても、ギリギリでニコを押し返せるはず。


 ……ところが。

 ニコがバリアーに激突すると、彼女の姿が霧散した。

 煙のように消えてしまったのだ。


「はい? ……しまった、霧の幻影! キミの能力か、カインくん! じゃあ本物のニコちゃんは……」


「あぁぁァァアああッ!!!」


 悲鳴のような咆哮が聞こえた。

 そして、スピカ型の背中に強烈に重い衝撃。

 彼女のバリアーを破壊して、本物のニコが激突してきたのだ。


「うぐっ……!? そ、その方向、さっきニコちゃんがいると思ったのにいなかった場所……。彼女が消えたんじゃなくて、カインくんが霧の幻影で彼女を隠してたんだね……! ニコちゃんはやっぱり一歩も動いていなかった……!」


 スピカ型が勢いよく吹っ飛ばされ、その衝撃でカインも彼女の”念動力(サイコキネシス)”から解放された。


 カインもまた空中で受け身を取りつつ、スピカ型の言葉にうなずく。


「百点満点の解答っす。ブライアント少尉が霧の幻影の中でジッとしてくれて助かったっすよ。じゃあ少尉、トドメよろしくっす!」


「消えロぉぉォォッ!!」


 ニコがビーム状のドラゴンブレスを吐き出した。

 金色の閃光に、スピカ型の肉体が飲み込まれる。


「く……あぁぁ……っ!?」


 ニコがブレスを吐き終えた。

 スピカ型の肉体は、跡形もなく消滅していた。

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