第1423話 正面対決
こちらは、”瞬間移動”でいったんニコから距離を取ったスピカ型。
彼女は現在、樹海の木々の中に身を隠し、遠距離からニコの様子を窺っていた。それと同時に、先ほど彼女に蹴り飛ばされた時のダメージを回復させているようである。
「やぁ、すごい能力だ。よっぽど大量の『星の力』を吸収したんだろうね。とはいえ、その影響で彼女は完全に冷静さを失っている。これはワタシにとってチャンスでもある」
ここからどうするか、スピカ型は考える。
ニコのブレスで徹底的にここら一帯を破壊させて、地中に隠されているであろうミサイル砲台を掘り起こさせてから破壊するのもよし。槍のように尖らせた木の枝を”念動力”のパワーで射出し、ニコを狙撃するのもよし。
……などと考えていると、空中でブレスをまき散らしていたニコが、いきなりスピカ型がいる方向を向いた。
「あれ? 気づかれた? でも、これだけ葉っぱが生い茂っている森の中だし、あの子の視力が良いか悪いかは分からないけど、そもそも物理的に見えるような位置じゃ……」
そんなスピカ型の予想に反して、ニコはスピカ型がいる位置まで一直線。強烈なスパークを放ちながら、ミサイルのような速度で突っ込んできた。
ニコの激突で雷の大爆発が発生し、周囲の木々が吹き飛ばされた。
そのころには、スピカ型はすでに”瞬間移動”を使用し、再びニコから離れた位置へ。
「あー危なかったー! いやー良い勘してるよ、当てずっぽうとは思えないくらい……」
……とスピカ型がつぶやいている最中に、彼女の背後からニコが飛び掛かってきた。
「見つケたッ!!」
「うひゃあああ!? やっぱり位置バレしてるー!?」
スピカ型の背中を引き裂こうとしたニコだったが、ギリギリのところでスピカ型は上体を大きく傾け、ニコの爪を回避してしまった。
スピカ型はまたも”瞬間移動”を使用。
しかし今度は逃走せず、ニコの頭上を取った。
そして、真下のニコめがけてエネルギー球を連続発射。
「りゃりゃりゃー!」
ニコはすぐさま、その場から退避。
次々と地上に撃ち込まれたエネルギー球が大爆発を起こし、着弾地点を跡形もなく消し飛ばしてしまった。
今の攻防の間に、スピカ型はニコの心を読んでいた。
そして分かった。どうしてニコが、いきなりスピカ型の位置を正確に探し出せるようになったのか。
「どうやらあの子に、ワタシの位置を教えている協力者がいるみたいだ。あの子がまだ耳につけている通信機から、ワタシの位置を伝えている。あの子のお仲間の二人のうちのどっちかの能力かなー」
ニコにスピカ型の位置を教えているのは、ロドリゴ少尉だったようだ。ニコはいま正気を失っている状態だが、スピカ型を倒すための情報であれば、耳は傾けてくれるらしい。
であれば、スピカ型はまずロドリゴを始末しなければならないのだろうが、スピカ型はロドリゴたちがいた場所から大きく移動してしまい、彼を見失っている。恐らくはロドリゴもすでに身を隠しているだろう。そしてニコの心を読んでも、彼女もロドリゴの位置は知らない。
「あーあ失敗した。やっぱり彼はさっさと殺しておくんだった」
「喰ラえぇぇっ!!」
ニコが地上から、空中にいるスピカ型に向けて雷のビームを吐いた。空気を焼きながら、恐るべき速度で、一条の雷光がスピカ型へと迫る。
スピカ型はバリアーを展開し、このブレスを真正面から受け止め、バリアーと共にブレスを振り払ってかき消してしまった。飛び散ったブレスの残滓が周囲にまき散らされ、地面に当たると小さな爆発を起こす。
「じゃーもう仕方ないね。おいで、お嬢ちゃん。正面からやり合ってあげるよ」
「殺ス……!!」
ニコが翼を広げ、スピカ型めがけて突進。
スピカ型もバリアーを展開し、向かってきたニコと激突した。
二人が激突すると、大爆発が巻き起こった。
爆風の中から、バリアーを破壊されたスピカ型が吹っ飛ばされる。
「すっごい衝撃だね……一撃でバリアーが叩き割られちゃった」
「あアぁぁァッ!!」
吹き飛んだスピカ型を追いかけて、ニコが右の爪を振るう。
しかし、スピカ型は”瞬間移動”。
ニコの目の前から姿を消し、彼女の背後、至近距離からエネルギー球を発射。
「それっ」
「グぅッ!?」
爆風と共にひるんでしまうニコ。
しかしすぐに体勢を立て直し、再びスピカ型を引き裂きにかかる。
だが、またしてもスピカ型は”瞬間移動”で回避。
ニコの横から、連続でエネルギー球を浴びせてきた。
「それそれそれっ!」
「くゥゥゥ……!!」
ニコはガードの姿勢を取り、スピカ型の攻撃に耐える。
それと同時に全身から放電を開始し、強烈な電流を周囲にまき散らした。
「あァァあああッ!!」
広範囲を巻き込む電撃だったが、スピカ型はバリアーを再生成し、これを防いでしまう。
「おっと危ない……」
だが、これでスピカ型の攻撃と動きが止まった。
ニコはさらに飛び上がり、スピカ型のバリアーに蹴りかかる。
「らぁァァぁッ!!」
「遅いねー!」
しかし、スピカ型はすぐさま回避行動に移り、ニコのキックを回避してしまった。ニコの背後を取り、バリアーを応用した念力斬撃でニコの背中を切り裂こうとする。
その時、”読心能力”を使用していたスピカ型の眼に、ニコの思考が映った。「閃光」という二文字が。
(閃光? 光で目つぶしする気?)
光で眼をやられたら、スピカ型の”読心能力”は封じられる。それ以前に視界が利かなくなるので、今のニコを前にして眼が見えなくなるのは単純に危険である。
念のために念力斬撃を中断し、両腕で眼を覆うスピカ型。
その瞬間、ニコが翼を開き、その翼膜から強烈な光を発した。
「ハァぁあアッ!!」
「翼から光を……! 心を読んでなかったら危なかったなー……!」
閃光を両腕でガードしたスピカは、その腕を下ろす。
しかし、その彼女の目の前にニコはいなかった。
「しまった、閃光を防いだ隙に逃げられた。どこに……」
「こコだぁぁぁッ!!」
ニコがスピカ型の背後から急降下ライダーキック。先ほど閃光を発した位置からバク宙するように飛んで、今度は彼女がスピカ型の背後を取っていたようだ。
スピカ型はニコを見失った時点で球状のバリアーを展開し、全方位からの攻撃に備えていたが、ニコのキックはあまりにも強烈だった。
「くっ……!」
「やぁァあアアッ!!」
ニコはそのままバリアーごとスピカ型を押し込み、地上へ激突。
激突の衝撃で、周囲の木よりも高く土煙が上がった。
スピカ型のバリアーは再び破壊され、ニコはスピカ型の上を取って馬乗りになっていた。そのまま、スピカ型の喉に爪を突き立てるべく、右手を突き出す。
「コろすッ!!」
「”瞬間移動”は使用するのに、少しだけど集中がいる。今から使うのは間に合わない……!」
ニコが突き出した竜爪が、スピカ型の喉を刺し貫いた。
……かと思われたが、ニコの爪はスピカ型から逸れて、スピカ型のすぐ側の地面にめり込んでいた。
こんな超至近距離で、ニコが攻撃を外すはずがない。
爪を突き出された瞬間、スピカ型がニコの手の横から右手を当て、手のひらから発した”念動力”で力を加え、軌道をずらしたのだ。
ニコは最大の攻撃のチャンスを手にしたと思われたが、今は右手が地面に突き刺さり、スピカ型は目と鼻の先。一転して大ピンチ。
その隙を見逃すスピカ型ではない。
空いていた左手をニコの胸に向け……。
「螺旋念力っ!!」
空間ごと捻じる念波を発射。
ニコの胸がギュルリと捻じられ、胸骨が砕ける音がした。
彼女自身も、扇風機のファンのように回転しながら吹っ飛ばされてしまった。
「ガっ……は……」