第1416話 二発目はない
エヴァが”星の咆哮”を発射。
巨大な蒼い光線が、グラウンド・ゼロの右拳に向かって放たれる。
その威力は間違いなく本物。
発射の衝撃だけで、エヴァが立っている大きな岩場が崩壊寸前になるほどだ。
エヴァの近くにいた日向たち五人は、この崩壊する岩場に巻き込まれないように別の岩場へ退避。岩から岩へ飛び移れるほどの身体能力を発揮できない日向は、本堂におぶってもらって移動した。
「すみません、助かります本堂さん」
「構わん。それにしても、やはり凄まじい威力だな、エヴァの”星の咆哮”は」
「ですね。これならいけるかも……!」
この星が持つエネルギー、すなわち血潮にして魂ともいえる『星の力』。これを凝縮して、一気に解き放つように標的へと射出する。その発射時の大轟音と、星が怒り叫ぶかのような迫力こそが、この技が”星の咆哮”と呼ばれる所以なのだろう。
エヴァの”星の咆哮”が、超震動エネルギーの表面に激突。その激突面は、まるで巨大な重機のドリルが岩盤を掘削しているかのような破壊空間。
だが、足りなかった。
超震動エネルギーが消し飛ばされるよりも早く、エヴァは溜め込んでいたエネルギーを放出し終えて、”星の咆哮”もかき消えてしまった。
とはいえ、超震動エネルギーを消滅させるには至らなかったエヴァだが、その表情は暗くはない。
なぜなら、今の”星の咆哮”によって、超震動エネルギー自体はかなり削ることができたからである。これならば大地に落ちたとしても、大陸の損害はかなり抑えることができるはずだ。
「ふぅ……ふぅ……ここまで削れば、あとは……」
エヴァの言う通り、ここまで右拳の超震動エネルギーを削れたら、あとは仕上げである。合衆国機密兵器開発所から二発目のグングニルを発射してもらい、左拳の方の超震動エネルギーも破壊。間髪入れず三発目のグングニルをグラウンド・ゼロに撃ち込み、本体を倒す。
機密兵器開発所にいる通信チームも、この前線の状況は把握できているはず。優秀な彼らならば、すでに二発目のグングニルを発射してくれていてもおかしくないのだが、そのような報告は無く、空の向こうから二発目が飛んでくるような様子もない。
その時だった。
この場にいる皆が持っている通信機から、音声が発せられた。
『こ、こちら通信チーム! 大変です! 我々は……合衆国機密兵器開発所は今、攻撃を受けています! それで、その……グングニルを一発、発射できなくされてしまいました……!』
◆ ◆ ◆
先ほどの報告から少し前。
前線には出ない通信チームや技術チーム、それから医療チームなどの面々は、昨日確保した合衆国機密兵器開発所を前線基地として、グングニルの発射や前線に出る兵士たちのオペレートなどの後方支援を担当することにしていた。
しかしそこへ、スピカ型のレッドラムが”瞬間移動”を使って、合衆国機密兵器開発所に乗り込んできたのである。同じく”瞬間移動”の超能力が使える部下のレッドラムを多数引き連れて。
スピカ型をはじめとしたレッドラムが、この前線基地に直接乗り込んでくるだろうというのは最初から想定されていたが、よりにもよって二発目のグングニルの発射を準備していた最中に、それをスピカ型に目撃されてしまった。そしてスピカ型は”念動力”の超能力を使って、二発目のグングニルの発射砲台を潰してしまったのだ。
「砲台ごと地面から引きはがしてー、発射口をおにぎり握るみたいに丸めて塞いでおけば、まぁこれでもう使えないでしょー」
森林地帯にて、すっかり丸められた二発目のグングニルの発射砲台を地面に投げ捨て、スピカ型は満足そうな微笑みを見せた。
「キミたちが最初に撃ってきた蒼いミサイル……あれって多分アレでしょ? ワタシたちの二つ目の前線基地を跡形もなく消し飛ばしちゃったヤツでしょー? そんなもの、もうこれ以上撃たせるワケにはいかないからさ、グラウンド・ゼロのところまできたキミたちのお仲間さんたちの心を読み取って、ここの存在と位置を把握してから直行したってワケ。やー、ちょうど二発目も潰せて、グッドタイミングだったねー」
この場にアメリカ兵たちの姿は見えないが、恐らくどこかで聞いているだろうと確信しているように、スピカ型は一人でつぶやいている。
それからスピカ型は、引き連れてきた三十体近くのレッドラムたちに目配せをして、声をかけた。
「それじゃ、敵基地への侵入よろしくー。ワタシはここで、次のミサイルが出てくるのを見張ってるからさ。あの蒼いミサイルは間違いなく連中の切り札。ここでワタシが睨みを利かせているだけでも、人間たちにとっては相当なプレッシャーのはずさー」
「GIGIGI!」
「SHAAAA!!」
スピカ型の指示に返事をしてから、レッドラムたちは合衆国機密兵器開発所へと侵入していく。ある個体は正面入り口から。またある個体は”瞬間移動”の超能力を使って。
そして、この場から通常個体のレッドラムが全員いなくなり、スピカ型のレッドラムだけが残った。
その時、近くの茂みからガサガサと音がした。
スピカ型はまったく慌てる様子もなく、尾とがした方向をゆっくりと振り返る。
「やっぱりねー。誰かの気配はすると思ってたんだ。人払いはしてあげたんだから、そっちも早く姿を見せたらどうだい?」
彼女の声に応えるかのように、三人のアメリカ兵が姿を現した。
一人はニコ・ブライアント少尉。
もう一人はロドリゴ・マルティン少尉。
最後の一人はカイン・アッシュフィールド曹長だ。
スピカ型と向かい合う三人の兵士。
真っ先に口を開いたのは、ニコであった。
「グラウンド・ゼロの方に行かず、こっちに残っていれば、アンタとまた会えるっていう予感があった。そして本当に、こうしてまた会えた。こうなると運命すら感じてくるね。アンタをぶちのめして仲間たちの仇を討てっていう感動的な運命をさ……!」