第1411話 将軍を追い詰める
将軍型のレッドラムが次元の裂け目を使って、サミュエル中尉を岩場の外へ落としてしまった。
これを見ていたリカルド准尉が、驚きで目を丸くしながら声を上げた。
「ち、中尉!? 冷静にって言ったのに、言わんこっちゃない……!」
「サァ、次ハオ前ダ。ソノ次ハ、オ前ノ仲間達ダ。サッサト片付ケテ、コノ大陸ヲグラウンド・ゼロニ破壊サセル。ワザワザ相手ヲシテヤルノモ、コレデ終ワリダ」
言いながら、将軍型のレッドラムはゆっくりとリカルドに向かって歩き始め、その間合いを詰めていく。
……その時だった。
将軍型の背後で、何かが小さく爆発したような音がした。
「ン……何ノ音ダ?」
正面のリカルドに注意しつつ、背後を振り返る将軍型。
そこには、サミュエルがいた。
先ほど、将軍型が間違いなく落としたはずのサミュエル中尉が。
「何ッ……!?」
今度は将軍型が驚愕した。
慌ててサミュエルにアサルトライフルの銃口を向けようとする。
だが、サミュエルも素早く動く。
彼の足裏で小さな爆発が起こり、それと同時に将軍型に向かってまっすぐ跳躍。まるで撃ち出された大砲のように速く、まっすぐに。
「アノ爆発ハ……!」
今のを見て、将軍型は察した。
サミュエルは”溶岩”の権能により、炎の異能を司る能力を得ている。彼はこれを利用して、空中で小さな爆発を発生させつつ跳躍し、その爆発の勢いによって落下から復帰したのだ。
その爆発跳躍を、今度は将軍型との間合いを詰めるのに使用した。
先ほどの刺突以上の速度で、サミュエルは将軍型の懐に潜り込む。
「貴様、異能ヲ真価ヲ隠シテイタカ!」
「今度こそ、逃がさんぞ!」
サミュエルの高周波ブレードが振るわれる。
まばたき程度の一瞬のうちに、三回の斬撃を繰り出した。
将軍型は後ろに跳んで、サミュエルの刃から逃れようとする。
そのせいで真っ二つとはいかなかったが、しっかりと傷を付けることはできた。
「グゥゥゥッ!!」
受けたダメージに苦悶の声を漏らしつつ、将軍型はサミュエルに対物ライフルの銃口を向けて反撃を試みる。
だが、それよりも早く、リカルドが横からサブマシンガンを射撃。冷気を帯びた弾丸が将軍型の対物ライフルの銃身に命中し、対物ライフルが凍り付いた。
その状態で対物ライフルの引き金を引いたので、銃身内部から破裂するような形でライフルは暴発。将軍型は怯み、同時に対物ライフルを失った。
「オノレ……!」
将軍型は、残されたアサルトライフルでリカルドを射撃しようとする。
しかし、リカルドに目を向ければ、その隙にサミュエルが接近。
再び将軍型を斬りつけ、ダメージを与える。
将軍型がサミュエルを追い払おうとすれば、今度はリカルドが攻撃。冷気の弾丸や吹雪で、将軍型を氷漬けにしようとする。
炎の異能と氷の異能による、息もつかせぬ連続攻撃。
将軍型に逃げる暇を与えない。
「セントルイスでの戦闘データの通りですね! 将軍型は接近戦に弱い! このまま冷静に、しかし確実に攻撃を続ければ、押し切れそうです!」
「ああ。その戦闘データを手に入れるのに、オフィーリアにテリー、そして私の部下であるカークも犠牲になった。連中の戦いを無駄にはしない。仇を討たせてもらうぞ、将軍型!」
サミュエルが一気に踏み込み、ブレードを振るう。
炎の剣閃が、瞬く間に七つ奔った。
それと同時に将軍型のアサルトライフルがバラバラになり、将軍型自身も大きく出血。
「ヌァァァッ……!」
「これは……やりましたか!?」
「まだだ! アサルトライフルを盾にして斬撃を耐えられた! だが、あと一息だ! 畳みかけるぞ准尉!」
「了解しました!」
サミュエルの指示を受けて、リカルドはサブマシンガンを射撃。
冷気を帯びた弾丸が、将軍型の頭部を狙う。
今の将軍型は武器を失い、丸腰だ。
先ほどのように、アサルトライフルでリカルドの弾丸を撃ち落とすことはできない。
「ナラバ……!」
将軍型は次元の裂け目を開き、リカルドの弾丸はその裂け目の中に吸い込まれてしまう。
そして、裂け目の出口からリカルドの弾丸が吐き出され、その先にはサミュエル中尉が。
「仲間ノ弾丸デ死ヌガイイ!」
「同じ手を二度も食うか!」
サミュエルはブレードに炎を宿し、その刀身でリカルドの弾丸をガード。
すると、熱気と冷気がぶつかり合ったことによって水蒸気が発生。
サミュエルの姿が、真っ白な煙の中に隠れる。
「ヌ、煙幕ヲ……!」
水蒸気の向こうからサミュエルが飛び出てくると予想し、将軍型は身構える。
将軍型の予想通り、サミュエルは水蒸気の向こうから飛び出てきた。
ただし、予想していても目で追えないくらいの速度で。
爆発跳躍を使用し、スピードを引き上げたのだ。
「クッ……!」
将軍型は完全な反射任せで、飛び掛かってきたサミュエルめがけて右腕を振るう。サミュエルは必ず正面から突っ込んでくるから、そこにタイミングを合わせようとした。
しかし、サミュエルは将軍型の脇を通過し、将軍型の右腕をくぐり抜けて、彼の背後へと回り込んだ。
将軍型と背中合わせの形で背後を取ったサミュエルは、振り向かず、ブレードを逆手に持って、将軍型の腰あたりを狙って剣を突き出した。
「取った! これで終わりだっ!!」
……サミュエルも、リカルドも、そう確信していたのだが。
ガッ、とサミュエルのブレードが止められた。
ブレードの切っ先は、まだ将軍型の背中に突き刺さっていない。
「む!? なんだ、受け止められた……!?」
まだ将軍型と背中合わせの体勢のため、サミュエルは何が起こったのか、なぜ自分のブレードが止められているのか確認できていない。
自身の右わきから覗き込むような形で、サミュエルはなぜブレードが止められたか確認する。
確認したサミュエルは、本日で一番、驚愕した。
将軍型が、サミュエルの方を振り向かず、後ろに回した左手の人差し指と中指で白刃取りするように、サミュエルのブレードを受け止めていたのだ。
「何……だと……!?」
「異能ヲ隠シテイタノハ、オ互イ様トイウコトダ」
将軍型がつぶやいた。
そしてサミュエルの方へ振り向き、右の拳を振るう。
将軍型の右拳が、サミュエルの頬に直撃。
サミュエルは車にはねられたかのように吹っ飛ばされた。
「ぐぁぁっ!?」
「中尉っ!?」
リカルドはサミュエルに呼び掛けるが、いま将軍型から気を逸らすのは拙いと瞬時に判断し、再びサブマシンガンの銃口を将軍型に向ける。
だが、それと同時にリカルドの目の前に、小さな次元の裂け目が開く。
そして、その裂け目の向こうから、将軍型の赤い拳が突き出てきた。
リカルドは回避が間に合わず、殴り飛ばされてしまう。
「うぶっ!?」
大きく仰け反りながら吹っ飛ばされ、その勢いでリカルドは宙返り。うつ伏せに地面に叩きつけられてしまう。
二人を殴り飛ばした将軍型は、静かに告げた。
「思惑通リニ引ッカカッテクレテ嬉シイゾ。私ハナ、銃撃ヨリ肉弾戦ノ方ガ得意ナノダ」