第1410話 岩場の上の激戦
グラウンド・ゼロの周囲、高度七千メートルもの上空の浮遊岩石地帯で、日米合同チームとレッドラムの軍勢が対峙している。
本堂の爆発するかのような電撃がレッドラムたちを吹き飛ばし、それでも生き残った個体を右腕の刃で斬り飛ばす。
シャオランが”天界”を使い、”空の気質”の領域を広げる。その中に侵入したレッドラムたちを、拳撃と蹴りのコンビネーションで粉々にしていく。
ノイマン准尉が操縦するラプター戦闘機がミサイルを発射し、浮遊する岩場に乗っていたレッドラム八体を、岩場ごと爆砕した。
四人のアメリカ兵たちがアサルトライフルを一斉射撃。彼らが乗っている岩場ごと破壊する勢いで暴れていた筋肉型のレッドラムを蜂の巣にする。
「なかなか手強い個体が揃ってるみたいだが、数はセントルイスの時よりずっと少ないぞ!」
「押せ押せ! 押しまくれ! こいつらがいたら、グラウンド・ゼロの超震動エネルギーへの攻撃に集中できねぇ!」
「将軍型のレッドラムは、サミュエル中尉とリカルドが抑えてくれているみたいだ! スピカ型は……今のところ姿が見えないな! ともあれ、チャンスだ! 一気にレッドラムを減らしていくぞ!」
アメリカ兵たちが声をかけ合いつつ、レッドラムの軍勢を殲滅しつつ前進していく。彼らの攻撃目標であるグラウンド・ゼロの右拳まで、かなり近づいてきた。
しかし、そんな彼らの目の前に、大きな障害が立ちはだかる。
進路上の地面の下から、八つの頭を持つ大蛇のレッドラムが現れたのだ。
「SHLLLLLLL……!」
「SHAAAAAAA!!!」
「どわぁぁ!? ジャイアントスネークだ!」
「俺、知ってるぞ! 頭が八つある蛇! ニホンのヤマタノオロチってモンスターだ!」
「八つの頭、額にそれぞれ金の瞳があるな。こいつも目付きかよ……!」
ヤマタノオロチ型のレッドラムは、八つの頭からそれぞれ炎や冷気、電撃や竜巻、さらには石化ブレス、毒霧、大砲のような血の塊、超能力由来と思われる純粋なエネルギー弾を、あちらこちらへと吐き散らかす。
その射程はかなり長く、そして広い。
他の岩場にいる仲間たちにも届きそうである。
ここでこのヤマタノオロチ型のレッドラムを放置していては、日米合同チームはさらなる被害を受けることになるだろうが、見るからに強そうな個体だ。一兵卒四人程度では荷が重い相手かもしれない。
「だが……応援を待っている余裕はない! こうなったら『アレ』を使って強行突破するぞ!」
「仕方ねぇ! ドーピングって奴に手を染めちまうか!」
そう言って彼らは、バックパックから一本の注射器を取り出す。
これは、合衆国機密兵器開発所で開発された身体強化薬である。
あの施設が研究していたのは、科学兵器だけではない。
グングニルのついでに、一緒に回収されたのだ。
データによれば、この身体強化薬を投与された人間は、その身体能力が一時的に二倍から三倍まで引き上げられるという。しかし薬品の効果時間が終了した後、反動によってひどい倦怠感に襲われてしまうらしい。
「敵を仕留め切れないまま薬品の効果時間が終わったら、事実上のこちらの負けだ。短期決戦で行くぞ!」
「了解!」
薬品を投与した兵士たちは、ヤマタノオロチ型のレッドラムへの攻撃を開始。人間の限界を完全に超えた機動力でヤマタノオロチ型を翻弄し、ダメージを与えていく。
そんな兵士たちを、別の岩場の端から、将軍型のレッドラムが対物ライフルで狙っていた。
「ヤマタノオロチ型ハ、グラウンド・ゼロ防衛ノ要。コレ以上ハ、ヤラセンゾ……!」
……が、その将軍型の背後から、猛烈な吹雪が襲い掛かる。少し巻き込まれただけでも身体の芯から凍ってしまいそうな勢いの吹雪だ。
将軍型はやむを得ず狙撃を中断し、大きくジャンプ。吹雪を飛び越えて回避する。
「チィッ!」
「あなたの相手は僕たちだと言ったはずですよ!」
将軍型に向かって吹雪を撃ち出したのは、もちろんリカルド准尉。
彼は、跳躍した将軍型にサブマシンガンの銃口を向け、射撃。
”属性付与”の超能力によって冷気を帯びた銃弾が、将軍型に向かって飛んでいく。『星の力』によって強化されたリカルドの冷気は、一発の弾丸が命中するだけでも、標的の骨まで凍結させてしまうほどの威力がある。
これに対して将軍型は、左手に持つ大きなアサルトライフルを射撃。”怨気”の光弾が、リカルドのサブマシンガンの弾丸とぶつかり合う。
弾丸の威力は、将軍型のアサルトライフルの方が強い。
リカルドの冷気の弾丸は、氷の結晶のように砕かれながら撃ち落とされてしまう。
突破してきた”怨気”の光弾を、リカルドは右に跳んで回避。
将軍型はまだ跳躍から着地していないが、逃げるリカルドを追い打ちするべく右手の対物ライフルの銃口を向ける。
その将軍型の着地の隙を狙うべく、サミュエル中尉が接近。
将軍型の足が地に着くタイミングで、炎を纏う高周波ブレードを振り抜いた。
「はっ!!」
しかし、将軍型はサミュエルの接近を感知していた。サミュエルの目の前に着地する、それよりも前に次元の裂け目を開き、空中で姿を消してしまった。サミュエルの斬撃は空振りだ。
「おのれ、厄介な能力だ……! 奴はどこへ消えた!」
「僕たちを難敵と見なして、この場から離脱した可能性もありますね……」
「……いや、見つけたぞ。あそこだ」
サミュエルが高周波ブレードの切っ先を、三時の方向に向けた。
そこには、この岩場の端に次元の裂け目を開いて移動し終えたばかりの将軍型の姿が。
「自分から崖っぷちに追い詰められるとは、なんとも殊勝な心構えだ。准尉、援護しろ! 次は逃がさん!」
「分かりましたが、くれぐれも冷静に! 奴は策略計略を張り巡らせることに長けた個体だと聞いてますから!」
リカルドの言葉を受けながら、サミュエルはまっすぐ将軍型へ向かっていく。そのスピード、まさに弾丸のごとし。あっという間に将軍型に肉薄する。
将軍型をブレードの射程圏内に捉えた。
左手のひらで狙いを定めつつ、サミュエルは右手のブレードを突き出した。
「貫いてやる!」
……ところが。
その将軍型の目の前に、次元の裂け目が開く。
「何……!?」
サミュエルはブレーキをかけきれず、その次元の裂け目の中に飛び込んでしまう。
裂け目の出口は、将軍型の真後ろ。
つまり、この岩場の外。空中である。
「なっ――」
「馬鹿メ。馬鹿ハ馬鹿馬鹿シク死ネ」
驚愕の声を発して、サミュエルはそのまま落下してしまった。