第1406話 超震動エネルギー
グラウンド・ゼロが両拳に生成した、二つの超震動エネルギー。
これが片方だけでも大地に叩きつけられたら、北アメリカ大陸は粉砕されてしまう。
「これから先、我々がアーリアの民との戦いに勝利し、復興を目指すにしても、国土という大前提の基盤を失えば、合衆国は二度と再起不能だ……。何が何でも、あの超震動エネルギーをこの大地に打ち込まれるのを阻止せねば……!」
緊迫した表情で、マードックがそう告げる。
そのマードックに、ジャックが声をかけた。
「もうさっさとグングニルを撃っちまえよ! グラウンド・ゼロもくたばれば、あの震動エネルギーも消えるんじゃねーか!?」
「いや、あれほど膨大なエネルギー、たとえ先にグラウンド・ゼロが打ち倒されても、すぐに消失はしない。グラウンド・ゼロが討伐されて大地に倒れたら、その拍子にあの震動エネルギーも一緒に大地へ叩きつけられることになる」
「そうなれば結局、俺たちの大地はぶっ壊されて道連れにされちまうワケか……。あのヤロウ、俺たちのことをずっと無視してたと思わせておいて、しっかり対策してやがった!」
「かくなル上ハ、この大陸とノ相打ち覚悟デ、グングニルを撃ち込んでグラウンド・ゼロを葬ル、という手段モ無くはないガ……」
コーネリアス少尉がそうつぶやくが、それにレイカが異を唱えた。
「だ、駄目です! 私たちは……ここにいる私たちも、犠牲になった皆さんも、そんな妥協にまみれた勝利を手に入れるために、ここまで来たわけじゃありません!」
「分かっていル。俺だってそんな勝利は御免ダ。だが実際どうすればいイ? グングニルを大前提にしたこの作戦ハ、そのグングニルを封じられテ、さっそく行き詰ってしまっタ」
「そ、それは……」
「大尉ハ、何か考えはあるカ? 計画を一つ潰されただけデ再起不能になるほド、お前は浅い指揮官ではないはずダ」
コーネリアスに尋ねられたマードックは、今まさに考えながらといった様子で、ゆっくりと答える。
「あの超震動エネルギーを先に除去できれば、気兼ねなくグングニルを撃ち込めるのだが……。日向、お前の”星殺閃光”で、あの超震動エネルギーを消し飛ばせないか?」
そう言って日向が日向の方を見るが、日向の表情は明るくない。
「あのエネルギーが『星の力』由来であれば『太陽の牙』の特効は働きますけれど、それでもあんなに巨大すぎるエネルギーに向けて撃ったことはないので……保証はできません。それに、仮にそれで一つ除去できたとして、”冷却時間”の関係もあるから、もう一つのエネルギーを除去するのが間に合うかどうか……」
「あと一つ、”星殺閃光”以外にも、あの震動エネルギーを消す方法をもう一つ考えなければならないか……」
するとマードックは、彼の近くにあったグングニルの発射砲台をチラリと見た。それからすぐに、再び日向に声をかける。
「知っての通り、グングニルは合計で三発ある。そのうちの一発で、あの超震動エネルギーを除去しよう。全てを対消滅させる反物質爆弾ならば、恐らくあの超震動エネルギーも打ち消せる」
「いくらグングニルの反物質爆弾でも、あの超巨大なエネルギーを一発で消滅させるなんて、できますかね……?」
「一発で消滅させられずとも、大部分を削ってやれば、あれだけ大量に集中させたエネルギーは型を保てず自然に瓦解するはずだ。あとはお前の”星殺閃光”で、もう一方の超震動エネルギーも焼き尽くしてもらう」
「あまり聞きたくないんですけど、焼き尽くせなかった場合は……?」
「その時に備えて、他にも人員を連れていく。こちらが用意できる最大火力で、お前の炎だけでは足りなかった時のダメ押しをしよう。我々ARMOUREDも出撃する。我々の攻撃をしっかりと警戒していると判明した以上、他にもグラウンド・ゼロが何か妨害を仕掛けてくる可能性があるからな」
「異能や銃火器で震動エネルギーを攻撃して、少しでも削るわけですね。消滅まで行かずとも、大陸が崩壊しない程度までエネルギーを分散できれば、グングニルでグラウンド・ゼロが倒れても道連れにはされなくなる……」
なんとか軌道修正の目途は立った。
さっそくマードックは一斉通信で、作戦の変更を連絡。
通信班はグングニルの目標を、グラウンド・ゼロ本体からグラウンド・ゼロ外殻の左拳に変更。
日向たちとARMOURED、それから異能の火力に自信があるアメリカ兵たちが飛空艇に乗り込み、さらには強力な銃火器もたっぷりと詰め込んだ。このすべての火力を動員して、グラウンド・ゼロの右拳の震動エネルギーを打ち消さなければならない。
『グングニル、発射五秒前! 五、四、三、二、一……発射!!』
通信班のカウントダウンの後、ついに一発目のグングニルが発射された。
これを見届けた日向たちも、飛空艇を離陸させる。
「それじゃあ行くよ、ヒュウガ兄ちゃん! しっかり掴まっててね!」
「頼んだアラムくん! それにしても、すっかり飛空艇の専属操縦士が板についちゃったな……」
一方こちらは、先ほど発射されたばかりのグングニル。
五百キロメートル先の標的、グラウンド・ゼロの左拳に向かってまっすぐ飛んでいくグングニル。風も、雲も、空気の壁をも貫いて、まっすぐ、ただひたすら真っ直ぐに。
グングニルの最高速度はマッハ2。
およそ十五分もあれば、目標地点に着弾する。
そして十数分後、グングニルはグラウンド・ゼロが浮遊させている岩石地帯に侵入する。
まるで山のように大きい岩石があちこちに浮いているが、グングニルはこれを回避し、時には貫き、グラウンド・ゼロの左拳との距離を徐々に縮めていく。
岩石の回避と突破を繰り返していたら、いつの間にかグングニルはグラウンド・ゼロの左拳の上方に。
グングニルは急降下しながら、グラウンド・ゼロの左拳へ突撃する。
「はいダメー」
気の抜けた、女性の声がした。
次いで、グングニルが突如として機能停止。
火を噴いていたエンジンも止まり、落下し始めてしまう。
今の女性の声は、スピカ型のレッドラムのもの。
”念動力”でグングニルの内部機構をいじり、機能停止させてしまったのだ。