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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第23章 合衆国本土奪還作戦
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第1404話 もどかしい

 日向たちが合衆国機密兵器開発所を制圧した、その日の夜。


 同施設内にて、日米合同チームは寝泊まりする。

 明日がグラウンド・ゼロとの決戦だ。


 明日に備えて英気を養うため、皆ゆっくりと休息を……というわけにはいかない。基地内は厳戒態勢が敷かれている。

 なにせこの場所は、敵将であるグラウンド・ゼロが目視で捕捉できる場所。いつどんな攻撃が来るか分からない。


 鮮血旅団という不確定要素もある。

 将軍型とスピカ型は健在で、光剣型は行方不明。

 グラウンド・ゼロより機敏に動ける彼らは、このタイミングで夜襲を仕掛けてきてもおかしくない。


 明日、グラウンド・ゼロにグングニルが通用すれば、ほとんどまともに戦闘することなく、あの岩の大巨人を打ち倒せるはず。そんな希望を胸に、アメリカ兵たちは徹夜も辞さない覚悟で夜警に(のぞ)んでいた。


 一方、日向たち日本陣営は、見張りをアメリカ兵たちに任せて、休ませてもらっている。


 今や日向たちは星を守るための重要戦力。なのでしっかりと休息を取ってもらう……というのもあるが、一番の理由は「若い連中が多いから」であった。無理はするなと(うなが)されたのである。


 就寝前、日向は本堂に呼び出され、人気(ひとけ)の少ないところで話し合っていた。


「珍しいですね、本堂さんが『二人きりで話したい』なんて言ってくるのは。何の用ですか?」


「いや何、今日は何事も無かったな、と言いたくてな」


「何事も……と言いますと?」


「北園の予知夢の件だ。忘れていたなどとは言わんだろう?」


「……ええ。それはもちろん」


 アメリカチームと合流した、その日の夜。

 日向は北園に伝えられた。

 日向が、北園を剣で刺し貫くという夢を。


 もちろん日向も北園も、こんな予知夢を実現させようなどとは思わなかった。そのため、少しでも北園の生存率を上げられるよう、もしもの際は皆に協力を仰ぐため、この予知夢のことは他の仲間たちにも伝えられていた。


「今日は室内戦だった。お前と北園の物理的な距離も近くなる。であれば、何かの拍子でお前の刃が北園に向けられる展開もあるのではないかと、密かに警戒していた」


「助かります本堂さん。もしもの時は、殺してでも俺を止めてください」


「嫌な注文だな。だが、承った」


「ありがとうございます。こういう時、本堂さんの冷静さと反射神経は本当に頼りになる」


 いま一度、この『北園を死なせる予知夢』を乗り越えることを互いに決意して、日向と本堂は話を終えた。


 それにしても、と日向は思う。


 ただ単に予知夢を実現させないためなら、昨日のセントルイスのように日向と北園が常に別行動を取り続ければいい。極端な話、日向が北園の近くにいなければ、日向が北園を刺し貫くなどという予知夢は決して成立しない。


 しかし、日向が北園に近寄らないということは、この件において、日向は北園に対して何の力にもなってやれないということ。それが日向にとってはもどかしかった。


「もどかしいけど、何が原因で北園さんの予知夢が実現するか分からない以上、やっぱり今は用心して、できるだけ北園さんから離れておく方が北園さんのためにもなるかな……」



◆     ◆     ◆



 同時刻。

 技術開発室の一室に、アメリカチーム技術班の手によって調整を終えた対グラウンド・ゼロ用ミサイル、グングニルが安置されている。数は三発。


 レッドラムに狙われないよう、大勢のアメリカ兵たちがひと固まりになって、このグングニルを警護していた。


 その中には、ラップ好きなロドリゴ少尉の姿もある。


 ”千里眼(ミラクルアイ)”の超能力の使い手である彼は、一キロ圏内であれば、探し物がどこに存在するか見抜くことができる。それは失くし物はもちろん、敵兵、敵の弱点などでも能力は働く。


 ゆえに彼は、このグングニル警護任務において重宝されていた。

 近づこうとするレッドラムは、一体たりとて見逃さない。


 しかし、そんな彼も、見張りを続けていれば疲弊もする。

 一人の兵士がロドリゴに声をかけてきた。


「ロドリゴ、少し休憩したらどうだ。超能力を維持し続けるのも疲れるだろ」


「あー、大丈夫か? オレっちの能力なくて困らない? 見張り当番、回らない?」


「大丈夫だよ、エヴァの嬢ちゃんのおかげで、敵の気配を感知できる能力者は増えてる。お前の精度には及ばないだろうけど、お前にばかり負担かけるわけにもいかないしな」


「了解だぜ。そんじゃ、お言葉に甘えてオレっちは休憩(レスト)休憩(レスト)中にミサイル紛失(ロスト)はゴメンだぜ」


「分かってる。死んでも守り抜くさ」


 不意に転がってきたように手に入った自由時間。

 ロドリゴはグングニルのもとを離れて、施設内の廊下へ出る。


「あー、自由時間は嬉しいけど、何するか全く決めてねーや。またニコちんに絡みに行くかなー」


 そうつぶやいて、ロドリゴはニコを探し始める。


 彼女とはよく絡むが、彼女に対して恋愛感情があるのかと聞かれると、そうでもないとロドリゴは思っている。


 なんとなく、彼女とは波長が合うのだ。

 漫才のボケとツッコミ、野球のピッチャーとキャッチャー。

 寿司とわさび。カレーと福神漬け。


 相棒と呼ぶべき関係なのかもしれない。

 ただ、向こうはロドリゴのことについて、別に相棒とも思っていない可能性が高い。


 こちらは相棒のような存在と思っていて、向こうは別にただの同僚だと思っている。こういう間柄を何と呼べばいいか、ロドリゴは分からない。


「片想い? ……いや、それじゃやっぱり好いてるってことだよなー。ちょっと違うんだよなー」


 何と言い表せばいいか分からないままだが、この言葉が出てこないもどかしさは、ロドリゴは嫌いではなかった。


 施設内は広いが、”千里眼(ミラクルアイ)”の超能力のおかげで、ロドリゴはニコの居場所がすぐに分かる。彼女はこの施設の最下層、兵器格納庫にいるようだ。


「なんでそんなところにいるんだろ。何かの秘密工作とか……。ま、ニコちんに限って滅多なことはないか」


 そんなふうに軽く考えながら、ロドリゴはニコがいる兵器格納庫へ。


 兵器格納庫の扉を開けると、そこは大きな倉庫のような一室になっていた。


 そして、ニコの姿もそこにあった。

 ロドリゴが入ってくると、ニコは少し驚いたような表情を向けていた。


「……ここには誰も来ないと思ってたから、敵かと思ったじゃないの。ビックリさせないでよバカラッパー」


「おおう、さっそくの強烈な言葉の数々! でも嫌いじゃない! むしろ良いじゃない! あ、もしかしてこれ、女王様と下僕の関係じゃない?」


「アンタ、なんかちょっと性格気持ち悪くなった?」


 やや引き気味でそう尋ねるニコ。

 そんな彼女がここで何をしていたのかというと、どうやらここに片付けられていたファフニールを見ていたようだ。


「世にも珍しい機械のドラゴンだって言うから、ちょっと見学にね。この上がちょうどメインコンピュータールームで、ここからリフトアップして大尉たちの前に立ちはだかったみたい」


「なるほどねぇ。それにしても、わざわざ見に来るってことは、ニコちんってけっこうドラゴンが好き?」


「好きだよ。格好良いからね。ところで、そういうアンタは何しにここに来たの?」


「休憩時間もらったから、ニコちんに絡みに来たんだぜ!」


「貴重な休憩時間を使ってやることがそれ? もっと有効活用したらどう?」


「めっちゃ活用してるぜー!」


「はいはい、そりゃどうも。じゃ、アタシもそろそろ持ち場に戻らないといけないから」


「じゃあオレっちも戻ろうかな。どうせここに一人でいても、やることねーしなー」


「結局ホントに休憩時間使ってアタシを探しに来ただけじゃないアンタ。馬鹿なやつ」


 (あき)れながらも、どこか柔らかく、ニコはロドリゴに告げた。



 兵器格納庫から出ていく前に、ニコはもう一度振り返って、ファフニールを見る。


(もどかしいことだけど、世の中にはどうしても『埋めきれない差』ってのが存在する。人間とドラゴンの力の差みたいに、強い奴、弱い奴っていうのは、どうしても生まれた時点である程度は決まってしまうもの)


 ニコは今、スピカ型のレッドラムを倒すことに執着している。


 しかし現状、どれだけスピカ型への対策を考えたところで、自分では彼女に勝つことは難しいというのは、ニコも理解していた。


(この方法なら、その差もいくらかは埋められるかもしれない。目指す形は、それこそドラゴンのように強く、超越的なイメージで……)


「ニコちん? なんかボーっとしてない? アーユーオーケー?」


「ん? ああ、大丈夫よ。元気元気」


 声をかけてきたロドリゴに返事をして、ニコは改めて兵器格納庫を後にした。

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