第1402話 システムエラー
後ろに回り込もうと、こちらの位置を正確に捕捉して迎撃してくるファフニール。
その視野の広さの理由に、ハイネが気づいたのだという。
北園のバリアーの中で、彼女は皆に一斉通信で呼び掛ける。
「ファフニールの視野の広さの正体は、きっとこの部屋に取り付けられた監視カメラだよ! 部屋中に取り付けられているあの監視カメラが、映像をファフニールに送っているんだ! この部屋の監視カメラ全てがファフニールの眼なんだよ!」
「あー! なるほどー! ハイネちゃん頭いい! ハイテクなメカをたくさん作るからもちろん頭いいのは知ってるんだけど!」
北園が感心した表情でハイネを褒め称える。
その一方で、日向は少し納得いっていないような表情。
通信機の向こうのハイネに返事をする。
「うーん……でも、この星に働いている電波妨害はどうなってる? 俺たちの通信機器は、ハイネさんが通信妨害を受けない周波数を開発してくれたから使えているわけで、ここの兵器たちにそういうのは搭載されていないんじゃないか? だったらファフニールとカメラの間でのデータのやり取りっていうのも不可能なんじゃ?」
『それは……確かにそうかも……。でも状況から見て、こればっかりは間違いないと思うんだよ! ここがずっと封鎖されてた地下空間だから電波妨害も届いてないとか、そんな感じで電波妨害が働いてない理由があるんじゃないかな!?』
「まぁ実際、可能性としてはそれが一番高そうだよな。この部屋に入った時から、やたらと監視カメラの数が多いなとは俺も思ってた。分かった、ハイネさんの分析を信じてみよう!」
そう答えて、日向は少し離れた位置にいるジャックに、それからついでに隣にいるマードックに呼び掛けた。
「ジャック、それからマードック大尉、この部屋の監視カメラ、全て撃ち壊してください!」
「アレ全部かよ! 細かい作業は嫌いなんだけどな!」
「嫌いではあっても、別に苦手ではないのだろう。私と一緒にキリキリ働いてもらうぞジャック」
ジャックとマードックもハイネの分析を信じ、この部屋に設置されている監視カメラを銃撃で破壊し始めた。ジャックは二丁のデザートイーグルで正確に監視カメラを撃ち抜いていき、マードックはガトリング砲で派手に監視カメラを薙ぎ払っていく。
その間、ジャックとマードックが監視カメラの撤去に集中できるよう、本堂とレイカがファフニールに接近戦を挑んで注意を引く。
「ハイネの分析が正しければ、この後で必ずファフニールに隙が生まれる。いま無理に攻撃を加える必要は無い。防戦に徹するぞ、レイカ」
「承知いたしました! 攻勢に転じる時、アカネに切り替わります! 派手に切り刻んでやりましょう!」
正面に陣取る本堂とレイカを始末しようと、ファフニールはプラズマ球を吐き出したり、前足を叩きつけたりして攻撃。大迫力で暴れ回る。
そして日向は何をしているかというと、彼はファフニールの尻尾に向かって接近しようとしていた。『太陽の牙』の火力で尻尾を切り落とすつもりなのだろう。
しかし、そこへジャックが声をかける。
「おいヒュウガ! まだ尻尾には近づくな! 監視カメラはまだあまり減ってねーぞ! いま近づいたらバレちまう!」
「いやジャック、今さっき気づいて思い出したんだけどさ、俺ってたぶん、こいつら機械連中には存在そのものが見えてないと思うんだよね」
「はぁ? そんなワケ……あ、そうか、オマエって確か今、鏡とかカメラとかに映らねーんだっけ?」
「そういうこと。最近カメラとかを向けられる機会が全然なかったから俺自身も忘れてたわ。どおりでここのマシンたちにめちゃくちゃ無視されると思ったんだよ!」
ファフニールは、やはり日向が背後から接近していることに気づいていない。
怒りと八つ当たりも少々込めて、日向は『太陽の牙』を振り下ろす。
「おりゃあああっ!!」
『尻尾、大破。被害増加、被害増加』
日向が振り下ろした渾身の一太刀は、見事にファフニールの鋼鉄の尻尾を切断した。ファフニールのシステムボイスも、深刻なダメージを受けたことを自ら教えてくれる。
それから日向はファフニールの懐に潜り込み、斬って斬って斬りまくる。ハイネから教えてもらった弱点部位を次々と破壊し、ファフニールの動きを鈍らせる。
見えない敵による猛烈な攻撃に晒されて、ファフニールも混乱しているようだ。存在をまったく認識できない敵を探し出して攻撃するというプログラムが組み込まれていないのかもしれない。
日向の活躍でファフニールの動きが鈍り、さらにはジャックとマードックも部屋内の監視カメラをほぼ全て破壊し終えた。流石の仕事の早さである。
「よし、畳みかける!」
日向が皆に声をかけ、自身はファフニールの右前脚を攻撃。
イグニッション状態の『太陽の牙』が装甲に食い込み、ファフニールの右前脚が完全に大破した。
ジャックとマードックが共に銃火器を連射し、ファフニールの両肩に取り付けられている機銃を破壊。苦し紛れで撃ち出してきたミサイルも射撃して誘爆させる。
機銃が破壊されたことで、ファフニールの正面への攻撃力が低下。そこへ本堂がファフニールの正面から飛び掛かり、ファフニールの右眼を殴りつけて破損させた。
ファフニールは日向たちを追い払おうと、翼のジェットの炎で薙ぎ払おうとする。
そこへ、レイカと交代したアカネが飛び掛かる。
大ジャンプしながら縦回転の居合抜刀を繰り出し、ファフニールの左翼を切り落とした。
片翼を失い、先ほど日向に右前脚を破壊されたこともあって、ファフニールは機体のバランスも満足に取れなくなり、その場で倒れ込む。
そこへ、ハイネがアカネに声をかけた。
「アカネー! ファフニールのメインCPUは首の付け根にあるんだ! そこを狙って、トドメ刺しちゃって!」
「あいよ! 任せな!」
ハイネの声を受けたアカネは、義足のパワーでさらなる大ジャンプを繰り出し、ファフニールの頭上を取る。
そして、落下の勢いも合わせて、アカネはファフニールの首の付け根に、自身の刀を突き刺した。
ガクン、とファフニールの巨体が揺れた。
次いで、ファフニールからシステムボイスが発せられる。
『システムエラー。システムエラー。システム復元……失敗。ファフニール、戦闘システム、を、終了、し、ます』