第1400話 電磁攻撃
ファフニールが日向たちから距離を取り、プラズマ収束ブレスの用意。
このままでは、防御不可能なレベルの火力に狙い撃ちされる。
すると、日向がジャックに声をかけた。
「ジャック! 俺の脚を撃て!」
「は? ……オーケー、頼むぜ!」
一瞬、日向の言うことが理解できないという表情を見せたジャックだったが、すぐに何か気づいたらしく、躊躇いなく日向の右脚をデザートイーグルで撃ち抜いた。
「痛った……!? さ、再生の炎、”復讐火”っ!!」
ジャックに撃たれた右脚を、日向は高速回復。
同時にパワーアップした脚力で、ファフニールめがけて一気にダッシュ。
ジャックに脚を撃ってもらって、”復讐火”で底上げした身体能力でファフニールに接近し、ブレスを直接阻止する。それが、日向が考えた作戦だった。
だが、日向の”復讐火”によるパワーアップは、ほんの一瞬。
ファフニールはまだ先だ。これでは日向は届かない。
それを見越していたように、ジャックは日向の左脚を狙い撃った。
「おかわりだぜヒュウガ!」
「痛ったぁぁ!? よくもやったなありがとう! ”復讐火”っ!!」
左脚も撃たれた日向は、その左脚で大きく踏み込み、大ジャンプ。
ファフニールですら見上げなければならないほど高く跳んだ。
とはいえ、ファフニールは実際に日向を見上げることはなく、お構いなしにブレスの用意をしている。もう今にも、その口からプラズマブレスが発射されそうだ。
頭が向いている方向からして、狙いは恐らく北園とハイネ。
『プラズマ収束ブレス、発――』
「その口を閉じろぉぉ!!」
叫びながら、日向はファフニールの上顎を思いっきり踏みつけた。
”復讐火”のパワーアップは、まだギリギリ生きている。
日向の強烈な踏みつけを喰らったファフニールは、強制的に口を閉じられただけでなく、その頭部ごと床にめり込ませられた。
ここで日向のパワーアップが終わる。
ファフニールは、プラズマブレスを吐き出しながら、日向を振り払うために頭部を振り上げた。
その結果、プラズマブレスは日向たちを一直線に狙うのではなく、ファフニールの足元から前方に向かって振り上げられる形となった。これなら皆がブレスを回避する猶予もできる。
前もってブレスの軌道上から退避した仲間たち。
そこでちょうどファフニールもブレスを吐き終わり、見事に危機を乗り越えた。
だが、日向としては、一難去ってまた一難。
ファフニールの頭から振り払われて、高所落下によるダメージを受けた。
そして、そのファフニールは日向のすぐ近くに。
「やばいやばい、急いで離れないと……」
……しかしファフニールは、足元の日向を無視し、両翼のジェットを吹かして前方へ移動。ジャックたちに接近してから、ジェット移動の勢いも合わせた飛び掛かり攻撃を仕掛けていた。
「あ、また無視された!? なんか今日の俺、敵からめちゃくちゃ無視されてない!?」
狙われないのは痛い思いをする機会が減るので良いが、ここまで無視されるのもいかがなものか。そんな複雑な思いをいったん胸の内にしまって、日向はファフニールを追いかけた。
一方こちらは、接近してきたファフニールと交戦しているジャックたち。
ファフニールの攻撃が、さらに激しさを増してきた。
竜の死角の一つ、斜め後方に陣取ろうとする敵には、翼のジェットで火炎放射を浴びせてくるように。
ただでさえ危険度が高かった鋼鉄の尻尾は、強力な電磁気を帯びて強化された。少し触れるだけでも感電させられてしまうだろう。
口からは青いプラズマ球を吐き出して攻撃するパターンが追加。先ほどのプラズマ収束ブレスほどの弾速ではないため、見てから避けるのは簡単だ。
しかし、見るからに超高圧電流が圧縮されたような見た目であり、直撃の危険度はブレスとさほど変わらないだろう。ブレスより技の出が早く、連射が利き、着弾地点で電磁の大爆発を起こすのも厄介な点だ。
おまけに、戦闘ドローンのホーネットが懲りずに追加投入される。
あちこちを飛び回りながら機銃で攻撃してくるホーネットは、放ってはおけない厄介な取り巻きだ。
「ったく、マジで機械のドラゴンと戦ってるって感じだな! 正直、ちょっと楽しくなってきたぜ! コイツ作ったヤツはセンスあるな!」
デザートイーグルでホーネットを撃ち落としつつ、ジャックはファフニールの左後方へ回り込む。
そこに移動したらジェットの火炎放射を浴びせられるが、それならば、そのジェットに弾丸を撃ちこんで破壊してやろうという算段だ。
だが、ファフニールはその場で勢いよく180度の方向転換。
その際にぶん回された尻尾が、ジャックの移動ルートの向こうから襲い掛かる。
『方向を転換します』
「うおおっと!?」
持ち前の身体能力で大ジャンプを繰り出し、棒高跳びの要領で、ジャックはファフニールの尻尾を飛び越えて回避した。床には背面から着地。
しかし、ジャックの危機はまだ去っていない。
ジャックから見て後ろを向いていたファフニールが180度の方向転換を行なったということは、いまファフニールの頭部が向いている方向は必然、ジャックがいる方向なのだから。
ファフニールが、バチバチとスパークを放つ牙で、ジャックに噛みつきにかかった。
『ターゲット捕捉、粉砕します』
「あ、ヤベーなこれ」
諦めが入ったような声で、ジャックはつぶやいた。
その時、そこへギリギリで本堂が駆けつけた。ジャックの目の前まで迫ったファフニールの上顎を両腕で、下顎を右足で踏みつけるようにして、ファフニールの噛みつきを食い止めている。牙が放つスパークも、超帯電体質の彼には効いていない。
「お、おお! ホンドウ! マジで助かったぜ! さすがオキナワでヒカゲの前に俺とやり合ったライバル!」
「なに、気にするな……と言いたいところだが、これは拙い状況だ。此奴の咬合力が想定以上に強い。少しでも力を抜いたら俺が噛み潰されそうだ。動けん」
「マジかよ!? ヤベーじゃねぇか! ちょっと待ってろ、どうにかするから!」
助けてくれた本堂に恩を返すため、ジャックは本堂を救出する方法を全力で考える。
その一方で、ファフニールの背後から攻撃を仕掛けようとしている人物が二人。レイカとマードックである。
「ジャックくんたちを援護しないと!」
「ハイネの通信によれば、ファフニールの背中には、奴の動きをコントロールするための重要な配線が多く詰まっているらしい! 奴がジャックたちに気を取られている間に、そこを狙うぞ!」
二人はファフニール右後ろ脚から、背中へ駆け上がるつもりのようだ。
右後ろ脚は先ほど、ジャックとマードックが破損させた。動きが鈍くなっているので、急には動かないはずだ。
だがその時、ファフニールの尻尾が動いた。
強烈な電磁気を帯びた鋼鉄の尻尾が、二人めがけてまっすぐ降り降ろされた。
『ターゲット二体接近確認。尻尾攻撃、並列実行します』
「馬鹿な!? このタイミングで我々に反応しただと!?」
「さ、避けきれない……きゃああ!?」