第1399話 機械仕掛けの竜
ハイネが戦闘ドローン、ホーネットに狙われている。
気づいた時には、もう銃口が火を噴いていた。
『射殺セヨ。射殺セヨ』
……が、ハイネに銃弾は当たらなかった。
北園の呼びかけにいち早く反応した日向が、反射的にハイネを庇い、代わりにその身で銃弾を受けていたからだ。
「ぐっううう……!?」
「わ、クサカベ!?」
何発もの銃弾を受けて、倒れそうになる日向。
その倒れそうになる身体をグッとこらえて、”復讐火”を発動。
撃たれた傷口から噴き上がった炎が、一瞬にして日向の傷を塞ぎ、身体の中に埋まった銃弾も灰にする。同時に、”復讐火”の効果により、日向は瞬間的なパワーアップ。
自分を撃ったホーネット二機に、日向は『太陽の牙』を投げつけた。
高速回転しながら投げ放たれた剣は、二機のホーネットを軽々と粉砕し、そのまま硬質な壁に突き刺さった。
「あああ痛かった! ハイネさん、大丈夫だったか!?」
「う、うん。クサカベは?」
「大丈夫じゃなかった! けど、今は大丈夫! 冷静に考えると割と変なこと言ってるかもしれないけどニュアンスだけでも感じ取ってほしい!」
それはそれとして、先ほどのホーネットはいったいどこから湧いて出たのか。
日向が周囲を見回すと、天井の一部がいつの間にか小さく開いていて、そこからホーネットがこの部屋に侵入してきていた。
『目標発見』
『射殺。射殺』
「くそ、また来てるな。あいつらに飛び回られたらハイネさんが危ない。北園さんは球状のバリアーでハイネさんを守っておいて! 連中の機銃だけじゃ、北園さんのバリアーは突破できない! ファフニールは俺と本堂さんとARMOUREDの皆さんで引き付けておくから!」
「りょーかいだよ! さ、ハイネちゃんこっち!」
「あ、ありがと!」
日向の指示を受けて、北園がハイネをバリアーの中に匿う。
その女子二人に、ホーネットの群れが四方八方から射撃してくるが、北園のバリアーがそれを防ぐ。日向の見立て通りだ。
そして日向はファフニールに接近。
ファフニールは両肩の機銃で日向と、彼の後ろにいる北園たちを攻撃してきた。
北園たちは、ファフニールの銃撃もバリアーで防御。
日向も、撃たれるより早くファフニールの顎下あたりに潜り込んだ。
「原子炉を熱暴走させたら駄目だから、”紅炎奔流”や”星殺閃光”みたいな派手な技は使えない。けど、原子炉に関係ない部分を焼き斬るくらいなら大丈夫だってハイネさんが言ってた!」
そう言って日向が、ファフニールの首の下を斬りつける。
超熱に包まれた剣刃は、鋼鉄の龍の装甲を、ギャガガガガと耳障りな音を立てながら焼き切り裂いた。
『損傷軽微。戦闘行動に支障無し』
ファフニールがシステムボイスを発する。
それと同時に両前足を動かし、日向と同じく接近戦を挑んでいる本堂を追い払おうとしているようだ。
床を踏みつけたり、薙ぎ払ったり、激しく動かされるファフニールの両前足。狙っているのは本堂だが、日向も巻き込まれないように気を付けなければならない。
日本陣営がファフニールと戦っている一方で、もちろんアメリカ陣営もファフニールに攻撃を仕掛けている。
ファフニールは現在、日本陣営の方を向いている。
なのでアメリカ陣営は、ファフニールの背後から攻撃中だ。
ジャックがデザートイーグルを、マードックがガトリング砲をそれぞれ射撃し、ファフニールに弾丸の嵐を浴びせる。そしてレイカはファフニールを直接斬りつけるべく、背後からの接近を試みている。
マードックがガトリング砲を射撃しながら、ジャックに声をかける。
「ジャック! ハイネから、ファフニールの後ろ脚の付け根を狙えと指示が来た! あの鋼の巨体を支えるファフニールの脚は、かなりの負担がかかっている! 破損させてやれば機動力が大きく削がれる、とのことだ!」
「オーケー。狙い撃ちは任せとけよ」
ジャックはデザートイーグルを一丁だけ構えて、よく狙いを付けてから連射。彼が放った弾丸は見事、全てファフニールの右後ろ脚に命中した。
ジャックが使用している銃は、巨大なマモノにも通用するよう威力を強化された特別仕様。さらに今回は対マシン戦闘が予想されていたので、ハイネに作ってもらった特製の徹甲弾を使用している。ファフニールの分厚い装甲でも、これなら貫くことができる。
ジャックが傷を付けたら、次はマードックの出番。
ガトリング砲を派手にぶっぱなし、ジャックが開けた装甲の穴に大量の弾丸をねじ込んでいく。
すると、ファフニールの右後ろ脚が小規模な爆発。
その鋼の巨体も、ガクリとバランスが崩れた。
『右後方脚部、破損』
「よし、ここです!」
ファフニールの動きが止まったのを見て、レイカが一気にファフニールへ接近しようとする。
しかし、ファフニールはバランスを崩した体勢のまま、その太くて長い鋼の尻尾を動かし、レイカの接近ルートを阻むように叩きつけた、
「うひゃ!?」
間一髪で足を止め、尻尾に叩き潰される事態は回避したレイカ。
呼吸を乱されたので、ここは大人しく一時後退。
「もう! 全然近づけません! あの尻尾がいつも私の接近を邪魔します!」
「大変だな近接担当。そのぶん銃は近づかなくていいから楽だぜ」
「ちぇっ、羨ましいです。私もアカネも、銃は笑えるくらい下手くそですからね……」
「とはいえ、同情はするぜ。野郎の尻尾、マジで的確にオマエの接近を阻止してるよな。後ろに目でも付いてんのか? 機械だから、こっそり背部カメラとかあっても不思議じゃないか……?」
銃を撃ちながら、ファフニールの背中を観察してみるジャック。
背後を見張るカメラなどの存在は、特に確認できなかった。
するとここで、ファフニールが新たな動きを見せる。
背中の大きな翼を、これまた大きく広げてみせたのだ。
「なんだ、飛ぶ気か? あの翼で飛べんのか? あのデカいボディで?」
広げられたファフニールの翼、その翼膜を張る四本の指の部分は、よく見るとジェット噴出機構になっている。
そのジェット機構から炎が噴き出し、ファフニールは地上を滑るように高速移動した。
ARMOUREDの三人に背を向けてジェットを吹かしたので、余波の炎が三人に襲い掛かる。
「大尉! 炎が来てます!」
「二人とも、私の後ろに隠れろ! シールドで防ぐ!」
「頼むぜ大将!」
マードックは、装備していた分厚いシールドで、迫ってきた炎を防御した。彼の後ろに隠れたジャックとレイカも、もちろん無事だ。
「あの野郎、そうやって移動するのかよ。……ん、あれは?」
ファフニールが移動した跡に、何かが残されている。
見てみれば、日向が倒れていた。
ジャックが日向に近寄り、助け起こす。
「ようヒュウガ、大丈夫か? なんでこんなところで寝てるんだ?」
「ファフニールがいきなり動くもんだから、足をぶつけられて蹴飛ばされたんだよ……」
「ああ、デカいヤツとの戦闘あるあるだな」
そのファフニールはというと、どうやらこの部屋の奥に移動したようだ。壁を背にして、日向たちの方に顔を向けている。
ファフニールが口を大きく開き、その口の中で青色のエネルギーが充填される。どうやら戦闘開始時にも見せたプラズマブレスを吐き出すつもりらしい。
それを見た日向はハッとした表情を見せ、同時に青ざめた。
「これやばいぞ……。この位置だと、俺たちはファフニールにとって良い的だ。あの馬鹿みたいな火力のブレスで狙い撃ちにされる!」
「確かに、こりゃちょっとヤバい位置だな! 上に逃げても下に逃げても、左右に逃げても同じか! ファフニールの懐に潜り込むのが一番確実に回避できるんだが、距離が開き過ぎてやがる……!」
「部屋の奥に移動したのは、俺たちを近づけさせないためか……!」
ファフニールのプラズマブレスは、文字通り光の速度で飛んでくる。あらかじめブレスの軌道上から逃れていれば回避はできるのだが、正確に狙い撃ちされたら、回避はほぼ不可能。
加えて、頑丈に造られているであろう床材を瞬時に蒸発させてしまうほどの火力。はたして北園のバリアーや本堂の超帯電体質でも、無事に受け止めきれる保証は無い。
まさか、機械に策で出し抜かれるとは思わなかった日向たち。
一気にピンチな状況となってしまった。