第1398話 ファフニール
コンピューター群が床や天井に姿を隠し、部屋内の壁も広がり、大部屋になったメインコンピュータールーム。
中央の床が開き、姿を現したのは、ここのメインコンピューターを守る鋼鉄の機械竜、コードネーム・ファフニールだった。
「こいつがファフニール……!?」
日向がつぶやく。
ハイネがそれを聞き、返事をした。
「そうだよー! いやー、あの狭い部屋でどうやってこの子にメインコンピューターを守らせるのかと思ったら、非常時は部屋が丸ごと拡張されてバトルフィールドになるなんてねー! その発想は無かったなぁ! 良い刺激もらったかも!」
「感心してる場合か! ともかく、見るからに頑丈そうで強そうだ。あまり手間をかけたくないし、ここは開幕から”星殺閃光”で一気に焼却処分させてもらうぞ!」
そう言って日向は『太陽の牙』を構え、”星殺閃光”の発動準備。
それを見た北園やマードックは、日向が放つ熱気に巻き込まれないよう、他の仲間たちを下がらせつつバリアーやシールドの用意。
……が、その二人をかき分けて、ハイネがなぜか日向を止めにかかった。
「わー! クサカベ、ストップ! ストーップ!」
「え、な、なにハイネさん!? 下がってくれないと危ないんだけど!?」
「あのファフニールが、あたしの知っているスペック通りのファフニールならね、動力源に使われているのは最新技術がふんだんに盛り込まれた小型原子炉のはずなの!」
「小型原子炉……えーと、つまり……?」
「クサカベの”星殺閃光”みたいな超火力を撃ち込んだら、ファフニールの中の小型原子炉が熱暴走を起こしちゃうかも! この部屋なんか丸ごと消し飛ぶ大爆発が起こるよ!」
「それはやばいな……。でも、ワンチャン、北園さんのバリアーで爆風を防げたりは……」
「それだけじゃない! 小型原子炉ってことは、つまり核融合エネルギーを使ってるわけ! 爆風に巻き込まれたら、あたしら皆そろって被爆しちゃう! それに大なり小なりこの施設も放射能汚染されちゃうから、明日のグラウンド・ゼロ討伐のための兵器開発にも支障が出るかも……」
「ホント、過剰に火力が高すぎるのも考え物だな!」
やり取りを交わしているうちに、ファフニールも攻撃を仕掛けてきた。日向たちめがけて飛び掛かり、前脚で踏み潰す攻撃だ。
『飛び掛かり攻撃、実行』
「うわわわ、散開!」
日向の掛け声と共に、日本陣営とアメリカ陣営でそれぞれファフニールの左右に回り込み、同時に飛び掛かり攻撃も回避した。ちなみにハイネはとっさの行動だったためか、日向たち日本陣営について来たようだ。
「じゃあハイネさん! あのファフニールはどうやって倒せばいい!?」
引き続き日向がハイネに話しかける。
ハイネも日向の問いに答えた。
「動力になっている小型原子炉が暴走しないような方法で……たとえば純粋な物理攻撃とか、キタゾノの冷気とか、電気……はちょっと危ないかな。とにかく、物理攻撃主体でファフニールを破壊するしかないと思う!」
「あの見るからに堅そうなのを殴って壊せと!?」
「みんなならきっと大丈夫! それに、あたしがいくつかファフニールの弱点部位を知ってる! 装甲が薄くなってる関節部分とか、重要な配線が集中してる部分とかね! 力を合わせれば勝てるはずだよ!」
「ま、まぁ『星殺し』とかよりはマシと考えて、もう腹を括るしかないか……!」
こうして日向たちは、ファフニールと正面切って戦う覚悟を決めた。
ARMOUREDの面々も同じく、それぞれの武装を構えている。
飛び掛かり攻撃を回避されたファフニールは、ターゲットを日向たち日本陣営に定める。頭を彼らの方に向け、その大きな口を開く。
『プラズマ収束ブレス、発射』
ファフニールの口から、青い電撃の光線が放たれた。
平屋くらいなら丸々呑み込んでしまいそうなくらいの、太いビームだ。
すでに日向たちは、ビームの軌道上から逃れている。
ビームが直撃した壁がバチバチと音を立てて気化、深く抉られた。
「あんなの当たったら灰すら残らなそうだな……」
日向がつぶやく。
その一方で、北園と本堂が、それぞれファフニールに攻撃を仕掛けた。
まずは北園が、ファフニールの口に向かって冷気を発射。
口を凍結させてブレスを封じようという作戦だ。
「えーいっ!」
しかしファフニールは右前足を振るって、北園の冷気を払い飛ばした。代わりに右前足が少し凍結したが、ファフニールの機動力が落ちたようにはまったく見えない。
次に本堂が、ファフニールに近接攻撃。
ハイネから聞いたファフニールの弱点の一つ、左前脚の関節部分を狙う。
ファフニールは北園の冷気に気を取られており、本堂はうまくファフニールの弱点部位に接近することができた。そのまま装甲と装甲の間を狙って、右腕の刃を振り抜く。
「はっ……!」
命中。
刃は本堂が思った以上に食い込み、装甲と装甲の間から派手に火花が飛び散る。
「想像よりも効いたな。これはハイネの言う通り、いけるかもしれんぞ」
本堂は追撃を仕掛けることにした。
振り抜いた右腕の刃で肘打ちを繰り出すように、刃の切っ先で弱点部位を突き刺しにかかる。
しかし、これは避けられた。
ファフニールが左前足を上げて、本堂の攻撃から逃がしていた。
ファフニールは、上げた左前足を、真下にいる本堂めがけて降ろす。
本堂は攻撃を察知し、踏みつけられる前にその場から退避。
本堂を追い払いながら、ファフニールは正面にいる日向たち三人に、次なる攻撃を仕掛けていた。
『ショルダーチェーンガン射撃。背部ミサイルポッド発射』
ファフニールの両肩に取り付けられた機関銃二門が火を噴き、背中からはミサイルが飛んできた。日向、北園、ハイネの三人に弾丸とミサイルの弾幕が襲い掛かる。
「北園さん!」
「りょーかい! バリアー!」
日向の声を受けて、北園はバリアーを展開。
ファフニールが放った弾幕を防いでくれた。
「ひゃあ、けっこう強烈だったなぁ……! 今回はうまく防げたけど、場合によっては突破されちゃうかも……」
「ち、ちょっと皆、後ろー!」
日向たちに同行していたスピカが声を上げた。
何事かと思い、後ろを振り返る日向たち。
そこにいたのは、この施設を守る戦闘ドローン、ホーネットが二機。
音も無く回転するプロペラで、日向たちの背後を飛んでいた。
二機のホーネットの機銃は、ハイネに向けられている。
そして、ホーネットの銃口が火を噴いた。
「あ、やば……」