第1393話 弐の太刀
引き続き、機密兵器開発所のセキュリティーマシンと戦闘を繰り広げる日向たちとジャックたち。
ジャックとレイカのもとに、二機の人型戦闘マシン、ガーディアンが襲い掛かってきた。
「ウィーン」
「二機同時に来やがった! レイカ、一機ずつ相手しようぜ」
ジャックがそう提案したが、レイカは首を横に振った。
「いいえ、せっかくですので、彼らは私が一人で相手をします。ジャックくんは、もしも私が危なくなったら、その時は援護をお願いします!」
「ホワッツ!? 待てレイカ! さすがのお前も、ウチのブレード部隊と互角にやり合えるっていうソイツらを二機まとめて相手ってのは無茶……」
そう言ってレイカを制止したジャックだったが、レイカは聞く耳持たず、すでに二機のガーディアンと刃を交え始めていた。
ハイネが評していた通り、ガーディアンの動きは驚異的だった。常人を凌駕する機動力で、力強く斬りかかってくる。その戦闘力は、最初に出現したスパイダーやホーネットと比べても三回りほど手強い。
ジャックの予想通り、さっそくレイカが押され始めてきた。
ガーディアンの一機がレイカを激しく斬りつけ、レイカがそれを防御している間に、もう一機が彼女の背後に回り込む。
「言わんこっちゃねぇ!」
たまらず、ジャックはレイカを援護しに行こうとした。
ところが。
レイカの背後から斬りかかったガーディアンの刃は、先ほど彼女の背後から放った弾丸を叩き落とされたホーネットのように、何かによって弾き返された。
「ウィーン……?」
「今、レイカの背中の後ろで、赤いエネルギーの刃みてぇなのが……」
ジャックがつぶやく。
思えば、先ほどのホーネットの時もそうだ。
レイカに迫った弾丸を叩き落としたのは、赤いエネルギーの刃のようなものだった。
また赤いエネルギーの刃が発生する。
今度の刃は袈裟斬りに振るわれ、ガーディアンの鎖骨を捉える。
そして金属音と共に、ガーディアンを吹っ飛ばした。
同時に、レイカも正面のガーディアンの刃を弾き、ガラ空きになった腹部を義足のパワーで蹴り飛ばす。
「ウィーン……!?」
「ガガガ……!」
二機のガーディアンを、義足と謎の能力で同時に吹っ飛ばしたレイカ。
得意げな微笑みを浮かべ、ジャックの方を見る。
「どうですかジャックくん。私たちの新能力は!」
「なんだそりゃ、何がどうなって……」
「あの赤い斬撃は、アカネの斬撃なんです。アカネの魂のエネルギーを一瞬だけ具現化して、斬撃として繰り出しているんです。これは私の意志と完全に独立していて、私の中のアカネが自分で繰り出している攻撃なんですよ」
「つまりオマエらは、一つの身体で、二人一緒に戦ってるってことなのかよ!」
「はい! ”夢幻殺法”のような疑似的なものではなく、私たちは今、一つの身体で、二人一緒に戦場に立っています! 今の私たちは、前を見ながら後ろを見れるし、全くの同時に二つの斬撃を繰り出すこともできる!」
ここで二機のガーディアンが復帰し、レイカに向かって左右から同時に迫り、斬りかかる。
対するレイカは、超電磁居合抜刀の構え。
鞘の電磁機構から青い稲妻が迸る。
次の瞬間、左から迫ってきたガーディアンめがけて、白刃一閃。
そして同時に、レイカが背を向けていた右のガーディアンに赤刃一閃。
二機のガーディアンは、まったくの同時に首を斬り飛ばされ、機能停止した。
「名付けて、”夢幻殺法・弐の太刀”。
一つの肉体に魂を弐つ所有する私たちだからこそできる技です!」
終わってみれば、圧倒的だった。
レイカは何の危なげもなく、強力な戦闘マシンであるガーディアン二機を、まとめて斬り伏せてみせた。
◆ ◆ ◆
一方、こちらは日向たち、日本陣営の様子。
三機のガーディアンが出現する少し前。
北園がスパイダーとホーネットの群れに、猛烈な冷気をお見舞いする。
「”凍結能力”!」
冷気に包まれたマシンたちは、武装が氷に包まれて攻撃不可能な状態に。さらにスパイダーは足を凍結させられて動けなくなり、ホーネットは自慢のプロペラを凍らされて床に落ちる。
さらにそこへ、本堂がマシンの群れの中心にダイブ。
北園の冷気によって湿度が高くなったこの空間に、強烈な電撃を流し込む。
「一掃する……!」
本堂の電撃を受けたマシンたちは、カメラなどを通して各種配線がショート。一瞬のうちにポンコツに成り果てた。天井に張り付いていたスパイダーも床に落ちてくる。
北園と本堂の二人の連携攻撃によって、一瞬のうちに合計ニ十機ほどのスパイダーとホーネットをまとめて始末できた。
その間に日向は、北園を狙おうとしたスパイダー二機を仕留めていた。
スパイダーの頑強な装甲も、日向の『太陽の牙』の火力の前にはバターも同然。
「なんかこいつら、俺が目の前にいるのに、それでも頑なに北園さんを狙おうとしてたな。まぁ確かに北園さんの大火力はこいつらにとっても脅威だから、対応としては正しいのかな。なんか俺は無視されたみたいで複雑な気分だけど」
誰に言い聞かせるでもなく、独りでそうつぶやく日向。
しかし、そこへ新手の敵。
ジャックたちの前に姿を現した人型戦闘マシン、ガーディアンだ。
三機のガーディアンのうちの二機は、ジャックとレイカのもとへ。
そして残りの一機が、日向の側を通過して、背後にいる北園の方へ向かおうとする。
「ウィーン」
「お前まであからさまに無視するなー!」
すれ違おうとしたガーディアンを、日向は”点火”で一閃。
ガーディアン自身の走力と、”点火”の尋常ならざる火力が合わさり、ガーディアンは一瞬で下半身を焼き斬られて床に倒れた。
それでもガーディアンは上半身だけで動き、這うようにして北園の方へ向かおうとしている。プログラムとして刻まれた無機質な執念が感じられる、なんとも恐ろしさを感じさせる光景である。
とはいえ、その這う速度は、赤ん坊より少し速い程度のもの。
日向はすぐさまガーディアンの背中に『太陽の牙』を突き刺し、機能を停止させた。
「お前なんぞに北園さんはあげません!」
心の底から抗議するように、日向はガーディアンに言葉を吐き捨てた。