第1390話 突入チームメンバー選出
合衆国機密兵器開発所のセキュリティーシステムを停止するために、無人の殺人要塞となった同施設を攻略することになった日米合同チーム。
全員で突入したいところだが、施設内は外よりずっと狭いのはもちろんのこと、セキュリティーによるトラップも張り巡らされていると予想される。つまり、あまり大人数で突入すると、かえって身動きが取れなくなって危険だ。
また、先ほど日向たちが目視でグラウンド・ゼロを確認したように、グラウンド・ゼロの方もすでに日向たちの接近に気づいていると思われる。そのため、グラウンド・ゼロがレッドラムを送り込んできたり、何らかの方法で直接攻撃を仕掛けてくる可能性も高い。
よって、施設内に突入する人間は最低限に留め、多くの人員は、突入チームが戻ってくるまでグラウンド・ゼロからの攻撃の警戒、それから万が一、突入チームに何かあった場合の後詰、兼、救援チームとして、地上に残ってもらった方が良さそうだ。
そうと決まれば、さっそく突入チームのメンバーを決定しなければならない。
まずはマードックが口を開く。
「とりあえず私は確定だな。それからジャック、お前もついて来い」
「ラジャーだぜ。たまにゃレッドラム以外の相手も悪くねぇ」
「レイカとアカネは、もう戦線復帰できるな? 同行を頼めるか?」
「はい、ご迷惑をお掛けしました。レイカ・サラシナ、本日より作戦行動に復帰します」
「よし、頼むぞ。それから少尉は、地上に残ってもらった方がいいな。お前の武器は室内戦には不向きだ」
「そうだナ。他の連中ヲ連れていくトいい」
「あと三人か四人は連れていけるな。日本チームからは、誰が行く?」
マードックが日向に尋ねた。
日向たちも話し合いを終え、突入する人間を選出完了。
日向たち六人から突入チームに加わるのは、日向、北園、本堂の三人である。
まず日向は、ご存じの通り死んでも復活できる”再生の炎”がある。施設内がデストラップだらけだというのなら、死んでも復活できる彼は生贄役には最適だ。本人は非常に嫌そうにしていたが。
次に北園。一人で炎と氷と電気の異能が使えるので、様々な状況に対応できる。誰かが怪我をしても”治癒能力”で即座に回復可能だ。
本堂は、マモノ化による強靭な身体能力、それに加えて、並ぶ者がいないほどの驚異的な反応速度を誇る。さらに彼自身の冷静沈着な性格。危険な罠が多数待ち受けていると思われる施設内では、この三つの能力は魅力的だ。生存力が大きく高まる。
ちなみに、残り三人の落選理由だが、シャオランは怖がりであるため、ドッキリ要素が強いデストラップダンジョンにおいて、たとえ”空の練気法”があるとしても力を発揮できない可能性があると考慮されたから。
『太陽の牙』の使い手である日向と日影は、戦力が偏らないようにするため、どちらかを地上に残すべきだと、話し合いの早い段階で決定した。
当初は日影が突入チームに適していると思われたが、もしも施設内で防護シャッターなどの障壁が存在する場合、それを突破するには日影では火力が足りないのではと判断され、日向が突入チームに加えられることに。
そしてエヴァは、「北園以上に大火力を得意とするので、室内戦は味方を巻き込む恐れがある」、「気配感知は機械には効かない」、「人工の施設内より自然の中を好む」、「デストラップダンジョンという概念に疎く、少し目を離した隙に大変な目に遭ってそう」などの理由により、地上チームに組み分けされた。
さらにここに、スピカも加えることにした。
今の彼女は幽霊なので、物理的殺傷力によるトラップは効かない。
ただしトラップ自体も作動しないだろうから、トラップを誘発させて消費させる囮には使えない。
とはいえ、ある程度の偵察はこなせるし、透過するので居ても邪魔にならない。連れて行ってどれほど役に立つかはともかく、損をすることはまず無い。
これで、突入チームの人数は八人。
実際には、レイカとアカネは合わせて一人としてカウントできるし、スピカは先述の通り幽霊なので、生身の人間たちの動きを阻害することはない。そのため実質的にはチームの現在人数は六人であり、あと一人くらいは編成できる余裕がある。
するとここで、アメリカチームから手を挙げた人間が一人。
技術班のハイネ・パーカーである。
「大将ー! 良かったら、あたしがついて行こっか? あたしは以前、兵器開発関係でここに出入りしていたことがあるし、たぶん皆よりは内部の構造に詳しいよ? コンピューターの操作も任せてよ!」
「ハイネ……。気持ちは嬉しいが、お前は我が隊の技術班の要だ。お前に万が一のことがあったら、今後の作戦行動に支障が出る恐れさえある。確かにお前を連れていくメリットはあるが、それでも得策ではない」
「えー!? お願いだよー! 連れてってよー! 皆の役に立ちたいんだよー! 後生だからー!」
「駄目だ駄目だ。それに……」
「それに?」
「お前のことだ。皆の役に立ちたいというのも本当だろうが、実際のところ、この世界で最高峰の技術力で設計されたセキュリティーシステムが稼働しているのを生で見たいというのが大きいのではないか?」
「ぎくぅ……」
「やれやれ……。我々は科学博物館の見学に行くのではないのだぞ」
「で、でもさぁ、ここで得たインスピレーションが、後々に何かの役に立つって可能性もあるんじゃないかなーって。ほら、この災害が終わった後の復興とかさ……」
ハイネの話を聞いて、マードックは呆れて頭を抱える。
しかし、そこへジャックがマードックに声をかけた。
「もういいんじゃねぇか、マードック? ハイネも連れて行ってやればさ」
「お前、本気で言ってるのか」
「実際問題、コイツのエンジニアとしての能力は、俺たち突入チームの誰も持っていない能力だろ。こんな施設にお邪魔するんだ、どこかで必要になる可能性だって無きにしも非ずだぜ?」
「そのあたりは私やレイカあたりが多少の知識を持ってはいるが……。それに何より、タクティカルアーマーに搭乗しているならともかく、生身の彼女は完全な非戦闘員だ」
「危なくなったら俺たちが守ってやりゃいい。非戦闘員一人守れねぇで、なにが元世界最強のマモノ討伐チームだって話だよ」
たしかに、ジャックの話も一理ある。
そして何より、ハイネはこのまま引き下がる気は無いようだ。
マードックも遂に折れて、ハイネの同行を許可することにした。
「致し方ない。ただし、どう足掻いても足手まといになると判断したら、即刻地上に強制送還するからな」
「りょうかーい! 任せてよ、絶対に役に立つからさ!」
「日本チーム、こちらの都合で誠に申し訳ないが、荷物を一つ増やすことになってしまった」
そのマードックの言葉に、日向が代表して返事をする。
「こっちは全然大丈夫ですよ。それに……」
そう言って日向は、同じく突入チームに選ばれた北園と本堂、それからスピカに目を向けた。
「ハイネちゃんも一緒に行くんだね。なんだかにぎやかになりそうで楽しみ!」
「彼女は小柄な割に、中々どうして立派な胸を有している。おかげさまで探索中、退屈する事はなさそうだ」
「にぎやかなことは良いことだよねー。ま、気楽に行こうよー」
「……とまぁ、こんな感じで、ピクニック気分なのはこちらも負けていませんので」
日向がマードックにそう告げると、マードックは呆れ果て、いっそ笑えてきた。
「なるほど、頼もしいことだな……」
ともあれ、これでようやく突入チームのメンバーが決定。
死なない日向と頑丈なマードックを先頭に、チームは施設の入口である洞窟内に足を踏み入れた。