第1388話 あまりにも規模が大きすぎる
標高およそ一万二千メートルに達する、岩の大巨人。
それが、次に日向たちが戦う『星殺し』、グラウンド・ゼロ。
日向たちの現在位置からグラウンド・ゼロの位置まで、まだ数百キロほども離れている。それなのに、グラウンド・ゼロのあまりの大きさゆえに、ここからでも余裕で目視確認が可能だ。
「いや、なんならセントルイスを出発した時から、なんかやたらデカい変なのが地平線の向こうにそびえ立ってるなって思ってはいたけどさぁ……。普通に山だと思ったのよ。『星殺し』とは思わんのよ」
いまだグラウンド・ゼロの大きさに圧倒されている日向に続き、他の仲間たちも感想を述べ始める。
「本当に大きいね……大陸から大陸が生えてるみたい……。大西洋そのものだったジ・アビスと、どっちが大きいかな?」
「広大さで言えばジ・アビスの圧勝だろうが、高さならグラウンド・ゼロだろうな。大西洋の最深部は八千メートルほどだったが、グラウンド・ゼロの標高は一万二千メートル。いや全く、恐ろしい話だな」
「ただ高いだけじゃなくて、こう、ものすごく骨太っていうのかな。たとえ核兵器でも、百発撃ち込んだくらいじゃ倒せなさそう……」
「どうすりゃいいんだ、あんなん……。少なくとも、オレの火力と能力でどうにかできるスケールを完全に突破してるぞ」
「これほどの存在感の『星殺し』……。恐らくはドゥームズデイと並んで、狭山誠が特に力を入れて設計した一体に違いありません」
今までも、それぞれの『星殺し』の能力の威力とスケールには圧倒され続けてきたが、今回はまた格別だ。少なくとも現状、日向たちは、あの巨大すぎる『星殺し』を討伐せしめる映像がまったく思い浮かばない。
日向はモニターに映るグラウンド・ゼロをズームし、改めてグラウンド・ゼロをよく観察してみる。
よく見ると、グラウンド・ゼロの表面は、少しつなぎが甘いように見える。まるで小石を積み重ねて作った一つの小山のように、たくさんの地盤や瓦礫を合わせたつぎはぎのような造形なのだ。
日向がグラウンド・ゼロの表面を観察していることに気づき、マードックが声をかけてきた。
「グラウンド・ゼロは、発生させた地震で大地を砕き、それを”念動力”の超能力で回収し、自分の外殻としてくっつける習性がある。奴の表面をよく見れば、巻き込まれた都市部や森林地帯があるのが分かるだろう」
「あ、本当ですね。あの苔むしているように見えるのは森か」
「出現した時から、すでにエベレストにも並ぶかと思うほどの巨体だったがな。合衆国の大地を砕きに砕いて、さらに巨大になったようだ。このままでは、合衆国の全ての国土が、奴に奪われてしまうだろう」
それを聞いて、日向は気付いた。
このグラウンド・ゼロ討伐は、アメリカのカード大統領によって「合衆国本土奪還作戦」というコードネームが付けられていたが、この作戦名はアメリカの大地からレッドラムや『星殺し』を追い出すという意味合いではなく、文字通りグラウンド・ゼロが奪った国土を奪い返すという意味だったのだろう。
次に日向は、グラウンド・ゼロの討伐方法を軽く考えてみる。
あれだけの大きさの外殻となると、たとえ”星殺閃光”であっても、ただ正面から撃ち込むだけでは、一撃で焼き尽くすのはまず不可能。二発、三発でも話にならないだろう。
数時間かけて、何十発も撃ち込めば、あるいは倒せるかもしれない。
しかし、それだけの猶予を、グラウンド・ゼロは与えてくれるだろうか。
最も手っ取り早い討伐方法は、やはりグラウンド・ゼロの本体を倒すことだ。
『星殺し』は外殻と本体に分かれており、本体を倒せば外殻も機能を停止する。
あの超巨大な岩の巨人が、グラウンド・ゼロの外殻だろう。
ならばグラウンド・ゼロの本体は、あの巨人の内部に存在するはず。
なにも、あのグラウンド・ゼロの外殻を片っ端から砕いて本体を探す必要は無い。日向たちにはエヴァがいる。彼女にグラウンド・ゼロ本体の気配を探ってもらえばいい。
「というわけでエヴァ。あの巨人の中にグラウンド・ゼロ本体らしき気配はあるか?」
「ありますが……あの巨人の内部を高速で移動し続けています。気配を直接探れる私ならともかく、あなたでは本体の移動経路を先読みしつつ”星殺閃光”を当てるといった芸当は難しいかと」
「あ、そうなの……」
”星殺閃光”は、その放出されるあまりの熱気により、使用者である日向自身をも焼き尽くす。日向の再生能力があるからこそ発動できる技であり、誰かに代行してもらうことはできない。
こうなると、もはや日向では手に負えない。
反物質爆弾を切り札に使うというマードックの考えを聞くしかない。
「すみません生意気言いました。やっぱりアレを俺一人は無理です。無敵のアメリカ軍隊の力でなんとかしてください」
「ふっ、素直だな。良いだろう……と言いたいところだが、こちらの作戦もグラウンド・ゼロを百パーセント討伐できるという保証はできない。なにせ、あまりにも前代未聞な作戦だ。成功率など算出できるものではない」
「それでも、自信があるから提案してくれるんですよね? 聞かせてください」
「分かった」
返事をして、マードックは彼の作戦の説明を始めた。
先ほど日向が言っていた通り、あれだけ巨大なグラウンド・ゼロの外殻も、本体を倒せば機能停止し、共に倒すことができる。
だが、あれだけ巨大なグラウンド・ゼロの外殻の中から本体を見つけ出すのは、広大な砂漠のどこかに豆を埋めたから掘り当ててみろと言っているようなもの。つまり不可能。
しかも質が悪いことに、グラウンド・ゼロ本体は、あの外殻の中を移動できるのだという。これでは外から狙い撃ちするのも難しい。
だが、アメリカチームには、そのグラウンド・ゼロ本体を外から狙い撃ちにする方法があるのだという。
そのために使われるのが、反物質爆弾だ。
これをミサイルに搭載し、外殻内部のグラウンド・ゼロ本体をロックオンした後、発射する。
外殻に撃ち込まれたミサイルは、外殻内部を掘削しながら本体を追跡。いくらグラウンド・ゼロ本体が外殻内部を自由に動けると言っても、ミサイルから逃れる機動力は持ち合わせてはいないはず。
そして作動した反物質爆弾がグラウンド・ゼロ本体を上手く対消滅に巻き込んでくれれば、晴れてグラウンド・ゼロは討伐完了というわけだ。
一見すると完璧な作戦だが、日向は首をかしげていた。
「ミサイルが外殻を掘削って、ミサイルは普通、物体に当たったら爆発しますよね? グラウンド・ゼロの外殻の表面に命中したら、外殻を掘り進むことなく、その場で爆発するんじゃ?」
「当然の疑問だな」
その日向とマードックの言葉に「あ、そういえば」という風に反応したのが北園、シャオラン、日影、エヴァの四人。彼女らはその問題点に気づいていなかったようだ。
マードックは続けて解説する。
確かに日向の言う通り、その作戦は普通のミサイル弾頭では不可能だ。
いくら反物質爆弾の爆撃範囲が大きくても、グラウンド・ゼロの外殻はそれを上回る超巨体。外殻の表面に命中した程度では、たとえ三発全てを撃ち込んでも、本体には届かない。
だが、この作戦を可能にする特殊弾頭が存在するという。
「そして、その特殊弾頭を入手するために向かっているのが、今日の我々の目的地、合衆国の機密兵器開発所だ」