第1385話 反省会
サミュエルとリカルドが会話をしていた、その一方で。
こちらはアメリカチームの資材置場テントの近く。
そこにはニコ少尉、ロドリゴ少尉、カイン曹長の姿が。
「はい。というわけで反省会始めるよ」
ニコが二人に声をかける。
彼女は敗北を経験すると、即座に反省会を開く妙な癖がある。
声をかけられたロドリゴとカインはげんなりした表情。
「まぁーた始まっちゃったよ、ニコちんの反省会」
「え、これ俺も巻き込まれるんすか? マルティン少尉だけで良くなくないすか?」
「カインー、一緒に死のうぜぃ?」
「嫌っすよ、少尉同士で仲良くやればいいじゃないっすか」
へらへら笑うロドリゴと、のらりくらりとしているカイン。
真剣さが足りない様子の二人に、ニコはイラっとした表情。
「はいそこ! 真面目にやる!」
「真面目にやるって言ってもっすねぇ……。この反省会のお題目って、つまりあのスピカ型のレッドラムについてっすよね? アレについての反省をして、どうするつもりっすか? また挑むつもりなんすか? ARMOUREDでも勝てなかったのに?」
カインの言う通り、アメリカチームにおいて最強と評されるARMOUREDでも、スピカ型のレッドラムには勝てなかった。であれば、多少は実力があるとはいえ、一介の兵士に過ぎないニコが勝てる道理はない。
そもそもニコは、そのスピカ型と直接戦い、そして敗北したから、この反省会を開いている。そしてニコとスピカ型の戦力差は悲しいほどに圧倒的だった。たとえ一度の敗北を経験し、みっちり反省会をしたとしても、その戦力差をひっくり返すのはまず不可能。
「ARMOUREDの皆なら、今回の敗北を糧に次回はリベンジ果たせる可能性も無きにしも非ずっすけど、ブライアント少尉じゃ厳しいっすよ」
「うっさい! アタシだってそれくらい分かってるよ! あいつとアタシの実力差は圧倒的だった! けど、あれだけいいようにやられたら、何が何でも仕返ししてやらなきゃ収まらない!」
「うわぁ、清々しいまでの私怨っす……」
「落ち着けってニコちん。そりゃ気持ちは分かる。ローガンの爺さん、リリアンちゃん、テイラーチームの連中、大勢があの女に殺されちまった。オレっちだってはらわた煮えくり返る思いさ。けど、玉砕前提のリベンジなんて、マードックの大将が絶対に許可しないし、爺さんたちだって浮かばれないぜ」
「分かってる! 分かってるっての……」
まさに頭に熱が昇っている様子で返事をしたニコだったが、急に冷静になったのか、大きなため息を一つ吐いて、いつものクールな口調で言葉を発した。
「ごめん、カインの挑発で熱くなった。話を戻す」
「いや挑発と言うか、当然の疑問をぶつけただけなんすけど」
「アタシだって、何も考え無しにリベンジを挑もうなんて思ってないよ。少し考えがある」
「マジっすか? その考えっていうのは?」
「ごめん、それは今はまだ話せない。コーネリアスみたいに、仲間にも秘密にしておくことで成立する作戦だから」
「本当っすかー?」
「本当だって。だからさ、今回の戦闘で、あのスピカ型について気づいたこと、弱点になりそうなこと、何でもいいから話してみてほしい。少しでもヒントが欲しいから」
嘘偽りのない真剣さが感じられるニコの言葉。
これを聞かされたら、ロドリゴとカインも、真面目に彼女の反省会に付き合わざるを得なくなった。
「弱点つってもなぁ……。基本的にあのスピカ型については、ニホンチームにいる本物のミス・スピカから、能力の詳細とか戦闘スタイルとかけっこう聞いてるからなぁ」
「その上で負けてるんすもんね。ホント、リベンジは絶望的っすよ」
「いいから。ほら、リカルドは何かないの? あっちの本物スピカも意識してない弱点とか、意外と見つかるかもしれないじゃない」
「んー、まぁ、ARMOUREDが序盤で攻めまくっていた時は、スピカ型もけっこう押されてたっすよね。心を読むのが間に合ってなかったようだったっす」
「うん、それは確かに思った。心を読むのが追い付かないくらい攻めて攻めて攻めまくるっていうのは使えそうよね」
「あと、俺が霧の異能でジャックの幻影を作った時は、スピカ型も一瞬だけ騙されてたっぽいっすね。最初はジャック本人と思って、よく見たら心が読めないから霧の偽物ってことに気づいたって感じだったっす。”読心能力”のせいで最後まで騙し切ることはできないっすけど、一瞬だけ隙を作るくらいならいけそう?」
「アンタ、意外と色々出てくるじゃん、アイディア」
その後も、三人はスピカ型の弱点になりそうなことについて、色々と話し合う。決定的な弱点は見つけられないので、本当に些細なことばかりだったが。
それなりに三人の考えが出尽くしたところで、ニコがこの反省会を切り上げた。
「こんなところかな。色々と参考になったわ。ありがと二人とも。それじゃあアタシ、ちょっと他に用があるから」
そう言って、ニコはこの場から立ち去った。
その背中を見送るロドリゴは満足げな表情だが、カインは少し気疲れした表情。
「ニコちん、すっかり立ち直り。オレたち二人、置いてけぼり! 気丈なお嬢、ここにあり! イェア!」
「イェアは良いんすけどね、あんな細々した情報で、どうにかなるもんなんすかねぇ?」
「いや、どうにもならないっしょ。何か決定的な弱点を見つけたわけでもなし。よっぽどニコちんの『考え』とやらが上手くいかない限り、今日の悲劇が繰り返されるだけっしょ」
「え、ダメじゃないっすか」
「だから、マジでニコちんがスピカ型にリベンジを挑もうとした時は、オレっちたち二人も付き合ってやらなきゃな?」
「え、俺も付き合うんすか?」
「そりゃそうだろー。霧の幻影とか、お前じゃなきゃ使えない情報も出てきたわけだし。どのみちニコちんを一人で挑ませるわけにはいかないし、お前だって、できればあの女にリベンジしたいだろ?」
「それはまぁ、否定はしないっすけど。こりゃいよいよ、強化人間の本気の見せ所かもしれないっすねぇ……」
肩をすくめて、カインはそうつぶやいた。
男二人が会話を続けている間、彼らと別れたニコは、日向たちの仲間であるエヴァに会いに行っていた。
エヴァは付近にレッドラムが潜んでいないか探りつつ、異能とプランターで野菜を栽培し、補給チームの兵士たちと収穫を行なっている最中だった。
そのエヴァに、ニコは声をかけた。
「アンタ、星の巫女……いや、今はエヴァ・アンダーソンって呼んだ方が良いのかな」
「あなたは、アメリカチームの兵士さんですね。私のことは好きな方で呼んでください。星の巫女の名前も、私がこれから背負っていくべき過去ですから」
「そう。まぁ私はエヴァって呼ばせてもらうよ。それで、エヴァ、ちょっとお願いがあるんだけど」
「なんでしょうか」
「ここじゃ何だから、ちょっと一緒に来てもらえる? スピカ型のレッドラムを倒すため、アンタの力を借りたいんだ」