第1379話 深緑ローブとガトリング
日向とエヴァから逃げ出した機関銃型のレッドラム。
これを追撃するため、エヴァが落雷攻撃の準備をしていたが、日向がそれを制止した。エヴァは怪訝な表情を浮かべながらも、大人しく日向の言うことを聞いて落雷攻撃を中断。
「わかりましたが……どのみち、あれを放っておくわけにはいかないでしょう? ダメージを回復した後、巨竜型と戦っている最中の私たちを横から撃ってくる可能性しかないですよ。あんなので撃たれたら私だってひとたまりもありません」
「うん、もちろん分かってる。このままエヴァにはあの機関銃型をきっちり仕留めてもらう予定だよ。けれどまぁ、なんというか、悪いこと思いついたというか」
「悪いことですか?」
「ああ。エヴァには今から、あの機関銃型を直接追いかけて攻撃してほしいんだ」
「あれを直接追いかけるのですか? ここから雷を落とした方がはるかに楽なのですが」
「負担をかけてしまうのは承知で言ってる。それで、無事に機関銃型に追いついたら、ちょっと『ある細工』をしてほしいんだ」
その『細工』の内容を日向から聞かされるエヴァ。
それを聞いて、エヴァも納得がいったようにうなずいた。
「たしかに、これが全て上手くいけば、私たちが得られる見返りは大きいですね。賭けてみる価値はありそうです。しかし、本当に悪いことを考えましたね」
「これが、この星を救わんとするヒーローの発想だって言うんだからお笑いだよな」
「では、私はあの機関銃型を追撃しに行きます。あなたは日影と一緒に巨竜型のレッドラムをお願いしますね」
「分かった。無理を言っておいてなんだけど、そっちも気を付けてな」
「お任せください」
やり取りを終えて、二人は別れる。
エヴァは機関銃型を追いかけ、日向は日影に加勢しに。
日向と別れたエヴァは、空もロクに見えない狭くて薄暗い路地裏へと侵入。ここに逃げ込んだ機関銃型を追撃して、ついでに日向に頼まれた『ある細工』を仕込まなければならない。
エヴァには”気配感知”の能力がある。
入り組んだ路地裏の中に逃げ込もうと、彼女なら機関銃型を見失うことはない。
「なかなか遠くに逃げていますね。あの図体でこの狭い路地裏を、なんとすばしっこい」
ぼやきながら走るエヴァ。
杖を持った深緑ローブ姿の少女が路地裏をぱたぱたと疾走する光景は、なかなかにシュールである。
機関銃型は、その先の右の曲がり角の先にいる。
エヴァはためらいなく右へ曲がる。
機関銃型は、エヴァを出待ちしていた。
すでにガトリング砲を右腰だめに構えており、すぐに引き金を引いた。
「GYAHAHAHAHAHAHA!!」
狭い路地裏。
右にも左にも回避できるようなスペースはない。
しかし、エヴァはいたって冷静。
「そんな気はしていました。ここで何かを企んでいるように気配がピタリと止まっていましたから」
するとエヴァは、大きく跳躍。
今のエヴァの『星の力』で身体能力を強化すれば、常人の数十倍の性能まで引き上げることも不可能ではない。
機関銃型は、自身の射撃が上に避けられることを想定していなかった。慌ててエヴァに照準を合わせ直そうと銃口を動かすが、狙いが定まらない。
そうしているうちに、エヴァは機関銃型の背後に着地。
持っていた杖の石突で、機関銃型の背中を突き刺した。
「やっ!」
「GYA……!?」
エヴァの杖が、機関銃型の背中に深々と突き刺さっている。
先述の通り、今の彼女の身体能力は常人の数十倍。
頑強な機関銃型の肉体などものともせず、杖の一本くらいは刺せる。
しかし、この程度では機関銃型も致命傷にはならない。
持っているガトリング砲を振り回し、エヴァを追い払う。
「GYAHAHA!!」
「おっと。さすがに見た目どおりの耐久力ですね。ですが、この距離ならば私の有利です」
エヴァは機関銃型のガトリング砲振り回しを回避すると、すぐにまた距離を詰めて機関銃型を杖で殴る。その杖の先端には雷電エネルギーと震動エネルギーが同時に込められており、絶大な威力を有している。
「えいっ!」
「GYAAAAA!?」
一撃で機関銃型は吹っ飛ばされ、すぐ側のビルの壁に叩きつけられ、壁ごとビル内に叩き込まれた。
すぐに立ち上がる機関銃型。
エヴァもすでに再接近しており、再び機関銃型を杖で殴り飛ばす。
「はっ!」
「GUEEEE!?」
またもビルの壁に叩きつけられ、ビルの外へ吹っ飛ばされた。
負けじと立ち上がり、近づいてくるエヴァに向かってガトリング砲を構える。
そのガトリング砲の銃身の上に飛び乗ったエヴァ。
着地と同時に、機関銃型の脳天を杖で殴打。
「ていっ!」
「GEEEEEE!?」
もんどりうって倒れる機関銃型。
重く、取り回しが悪いガトリング砲では、距離を詰めてきたエヴァの素早い動きは捉えられないようだ。
すると機関銃型は仰向けに倒れたまま、ガトリング砲をめったやたらに乱射し始めた。最初からエヴァを狙っておらず、手当たり次第に周囲を破壊して、エヴァを振り払うのが目的の射撃だ。
「GYAHAHAHAHAHAHAAAAAAAA!!」
銃弾は主にビルの外壁に命中。高い位置の壁が爆発によって崩れ落ちて、それがエヴァにも当たりそうになる。エヴァはいったん、回避に専念するしかない。
「く……。馬鹿っぽい行動ですが、賢い選択と認めざるを得ませんね」
エヴァに隙ができると、機関銃型は再び逃走開始。
この近距離ではエヴァに勝てないと判断したか。
「逃がしません……!」
エヴァも機関銃型を追いかける。
一人と一体は路地裏を抜け、表通りに戻ってきた。
その時だった。
出てきた表通りの右方向、右に曲がる角の先から、巨竜型のレッドラムが勢いよく飛び出してきた。四つの脚でその巨体にブレーキをかけ、身体はすでにエヴァと機関銃型の方を向いている。
そして巨竜型は、エヴァではなく、機関銃型のレッドラムに飛び掛かった。
「馳走ノ時間ダ!!」
「GYA……!?」
巨竜型の大顎が、機関銃型のレッドラムを捉える。
ぐちゃりという音と共に、機関銃型は巨竜型に食われてしまった。