第1374話 ピエロ型のレッドラム
前線基地を襲撃してきたピエロ型のレッドラムと、アメリカチームの通信兵パウンド・マイケル曹長が対峙する。
マイケルは格闘技の一種、ジークンドーの使い手であり、その大柄な体型に見合わぬ圧倒的なスピードと手数を持ち味としている。さらに今は”地震”の異能の使い手であり、殴った敵の肉体に震動エネルギーを送り込んで崩壊させるため、攻撃力も極めて高い。
さっそくマイケルが、得意のラッシュを繰り出した。
右縦拳二発、右ローキック、右肘振り上げ、左サイドキック二発、左縦拳三発、右フック、左アッパー。以上を一呼吸の間に放つのだから凄まじい。
ところが。
ピエロ型のレッドラムは、このマイケルのラッシュを全て回避してしまった。
身体をくねくねとさせて、頭部や肩などをマイケルの拳から逃がす。
飛んだり跳ねたりバク宙したりして、マイケルのキックを避ける。
一見、ともすれば馬鹿馬鹿しく見える動きで、マイケルの攻撃は完璧に躱されてしまった。
「ぶふぅ……!? 僕ちゃんの攻撃が当たらない……!?」
「オ前ミタイナ豚足ノロマ野郎ノ攻撃ナンカ、当タラナイヨーダ!」
そう言ってピエロ型は、マイケルの攻撃の隙を突いてサマーソルトキックを放った。そのでっぷりとした体形からは想像できないほどに身軽だ。
ピエロ型のサマーソルトキックを、マイケルはどうにかガード。
だが、ピエロ型の身体能力はマイケルを凌駕しているらしく、防御に使った右腕に鈍い痛みが走る。
「ぶふ……。流石はレッドラムの身体スペック。まともに殴り合いをするのは無茶かなぁ……!」
マイケルは、搦め手を使うことにした。
前に出している右足を、浮かせずに強く地面を踏んだ。
すると、マイケルの”地震”の異能によって震動が発生。震動の範囲は狭いが、威力はかなりのもの。これでピエロ型の足元を揺らして転倒させ、隙を作るつもりだ。
だが、ピエロ型はマイケルの行動を予想していたようだ。
マイケルが震動を起こすと同時にジャンプして、マイケルめがけてドロップキック。
「ビョーン!」
「ぶぐふぅ!?」
マイケルは吹っ飛ばされ、その先にあるテントの側面にぶつけられる。そしてテントを薙ぎ倒しながら自身も倒れ込んでしまった。
「ぶふ……、こいつ、思ったより強い……!」
口から滴り落ちる血を袖で拭いながら、マイケルは苦い表情を浮かべた。
そのマイケルにトドメを刺そうと、ピエロ型が飛び掛かる。
マイケルの頭部めがけて、シンバルを叩きつけるつもりだ。
マイケルは右へローリングして、ピエロ型のシンバルを回避。
ピエロ型のシンバルが、マイケルがいなくなった道路の上に叩きつけられる。
その際、道路がシンバルの面を打ち鳴らし、耳障りな音が鳴った。
マイケルはこの音を聞いてしまい、一瞬立ち眩みがした。
「うぶ……!?」
「隙アリィィ!!」
それを見たピエロ型は、さらに速い動きでマイケルとの距離を詰め、彼の頭部を左右のシンバルで潰そうとする。
マイケルは上体を反らし、このシンバルの挟み撃ちをギリギリ回避。それと同時に手拍子を一回。
マイケルの頭部を挟み損ねたシンバルは、マイケルの頭部があった地点で面と面がぶつかり合い、また耳障りな音を鳴らした。
これによって”念音波”が発生するが、これはマイケルがあらかじめ打っておいた手拍子により、空間の振動をぶつけ返して相殺した。
反撃のチャンス。
マイケルはすかさず右足の蹴り上げを繰り出し、ピエロ型の顎を狙う。
「ぶふっ!」
これに対して、ピエロ型は左のシンバルを自身の顎下に持ってきて、シンバルの面を下に向ける。
すると、マイケルが繰り出した蹴り上げが、シンバルの面に命中。
これにより、シンバルがまたしても耳障りな音を立てた。
「ぶふっ!? しまった、僕ちゃんの攻撃を利用して……!」
「鳴ラシテクレテ、アリガトウ! オ馬鹿サン!」
そう言ってピエロ型は右のシンバルを振りかぶり、マイケルの顔面に叩きつけた。
「良イ音ォォ!!」
「ぶぐぅぅ!?」
強烈な一撃を顔面に喰らい、おまけに今の一撃によって”念音波”を超至近距離で聞かされた。マイケルは背中から道路に叩きつけられ、そのままダウン。立ち上がれずに身悶えしてしまっている。
「ぶ……ぐぅ……!」
「ヒヒヒヒヒ! カッコ悪ゥゥゥ! サァテ、ソレジャアソロソロ、グランドフィナーレ、行ッチャイマスカ!」
そう宣告して、ピエロ型はマイケルにトドメを刺す用意。
……と、その時だった。
空から大きな何かが、ピエロ型に向かって飛来してくる。
それは、アメリカチームの無人爆撃機だった。装備していた焼夷弾を投下し尽くし、あらかじめ打ち込まれていたプログラムに従って、この前線基地に補給しにやって来たのだ。
ピエロ型は現在、アメリカチームの技術班が道路を整備して作った、即席の滑走路の上にいる。その滑走路に、爆撃機がピエロ型めがけて突っ込んでくるように着陸してきた。
「ワァァァ!?」
慌ててその場から飛び退くピエロ型。
もう少しで爆撃機に撥ね飛ばしてもらえそうだったが、ギリギリ回避された。
爆撃機は補給をしに戻って来ただけであり、結果としてピエロ型からマイケルを救うことになったのはまったくの偶然。
それでも周囲の兵士たちは、この幸運劇と、ピエロ型の慌てようを見て、笑わずにはいられなかった。
「へ、へへっ、コントみたいだったな今の」
「今のはなかなか笑えたぜ、おもしろピエロ!」
「おひねり代わりに鉛玉くれてやるよ!」
まだ体勢を立て直せていないピエロ型に、アメリカ兵たちが一斉射撃。ハンドガンやアサルトライフルの弾丸が、ピエロ型の身体に次々と撃ち込まれる。
身体に何発もの銃弾を浴びながらも、ピエロ型は悲鳴の一つも上げない。動作もゆっくりだ。どこか不気味さを感じさせるくらいにゆっくりと、立ち上がる。
立ち上がったピエロ型は、引き続き身体に銃弾を受けながら、発砲している兵士たちの方をゆっくりと振り返る。
「…………誰ダ? 今、人間ノ分際デ僕ヲ笑ッタ奴ラハ?」
その声色に、今までのような軽さは無く。
ただひたすら重く、煮えたぎるような怒りが込められていた。