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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第23章 合衆国本土奪還作戦
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第1371話 しがみついてでも

 上階がずり落ちて、(くも)り空の下に(さら)されているビルの十階にて。

 ルカン少尉が、光剣型のレッドラムの二本の光剣に貫かれてしまった。


 右の光剣は、ルカンの左胸あたりを。

 左の光剣は、ルカンの腹部を。

 それぞれ貫いてしまっている。


 肺と(ちょう)をやられてしまった。

 赤黒い光の剣を突き刺されながら、ルカンは吐血した。


 ……が、その直後。

 ルカンは、死んでいた瞳に光を灯し、再び光剣型を両腕で捕まえた。

 光剣型の剣に貫かれながら、である。


「おりゃああああッ!!」


 こうなったら、とことんまで足止めしてやる。

 そんな意地が、ルカンを突き動かした。


「敵個体、生存確認」


 光剣型が短く言葉を発した。

 そして、ルカンに突き刺していた光剣を逆手に持ち換え、それぞれルカンの身体を外側へ引き裂いた。


「は……ぐぁ……!」


 胸部と腹部を横に切り開かれ、言葉にできないほどの激痛がルカンを襲う。やっぱり大人しく死んでおけばよかったという後悔が湧いてくる。


 しかし、それでもルカンは、光剣型を放さなかった。


 あと数秒で命が尽きるであろう肉体で、それでもなお、しがみつくように。ほんの数秒だけであろうと時間を稼ぎ、せっかく助けたミオンを確実に逃がすことができるように。 


 だが、稼げた時間は、わずか二秒程度。

 二秒でとうとう力尽き、ルカンは床の上に倒れてしまった。


 倒れたルカンのバックパックはジッパーが開いており、そこから何かがこぼれ落ちた。ティッシュ箱のような、四角い形状の何かが。


 それは、TNT爆弾だった。

 ビルの一つくらい容易(たやす)く崩してしまうほどの量の。


 それを見た光剣型はハッとして、急いでこの場から離れようとする。


 しかし、光剣型はその場から動けなかった。

 床に倒れたルカンが、光剣型の足を右手で掴んでいたからだ。

 そして、左手にはリモコン式の起爆装置が。


「よぉ……派手な葬式にしようぜ……!」


「対爆風用意ヲ……」


 そして、ルカンが起爆装置のスイッチを押した。


 TNT爆弾が起動し、剥き出しになったビルの十階で大爆発が起こる。

 非常に大きな爆発で、ビルの十階から八階が木っ端微塵に。

 そこから連鎖的に、下の階も崩落していった。


 ビルが崩壊していく様子を、サミュエルとリカルドは、助けたミオンに応急治療を(ほどこ)しながら、ビルから離れた場所で視認していた。


「そんな……ルカン少尉……!」


「あの馬鹿者め……。せっかく救われた命を、また(いしずえ)に……」


 あの時、サミュエルたち三人がビルの十階に駆けつけた時には、ミオンはすでに光剣型に追い込まれており、三人はとてもミオン救出のための綿密なプランを立てるような余裕はなかった。


『オレがアイツを抑えとく! 二人はその隙にあのミオンってレディを逃がせ!』


 まずルカンがそう告げて、先行した。

 サミュエルとリカルドも、生身であの光剣型を抑えるなど無茶だと思ったが、ルカンを引き留めるための時間もなかったので、仕方なくルカンに追従した。


 今にして思えば、ルカンは最初から自分を犠牲にして光剣型を止める、あるいは、可能ならば討伐しようとしたのかもしれない。


 もしもルカンがあそこまで光剣型を食い止めてくれていなかったら、いくらリカルドが作り出した氷の滑り台によって地上まで一瞬で離脱したとしても、光剣型の運動能力なら余裕で追いついてきただろう。


 追いつかれたら戦うしかないのだが、この三人だけでは光剣型にまったく太刀打ちできなかったのは、ミオンが駆けつけてくれる前に散々思い知らされた。


 そして今、そのミオンは重傷を負ってしまっている。

 光剣型もある程度はダメージを受けていたものの、ミオンを守りながらサミュエルたち自身で光剣型を倒すというのは、たとえ三人がかりでも、とても上手くいく自信はなかった。


 だからルカンは、(みずか)ら捨て石になって、自分より重要な戦力であるミオンを逃がす道を選んだのかもしれない。自分ごと光剣型を爆破して足止めし、あわよくば、あの爆破で光剣型にトドメを刺そうとして。


 ミオンは、サミュエルとリカルドに声をかけた。


「助けるはずの命に助けられて……。本当にごめんなさい。あれだけ格好つけて駆けつけたのに、自分が不甲斐ないったらないわ……」


「レディ・ミオン……。どうか、必要以上に気を落とさないでください。冷静に考えて、あれはもう、どうしようもなかった。それに少なくとも、貴女が駆けつけてくれたから、僕と中尉は生きています」


「あの怪物を相手に、あそこまで渡り合えた力量、凄まじいものだった。実力的にも、助けられたという意味でも、我ら二人にお前を非難する資格は無いし、元よりするつもりもない」


 二人の言葉にミオンは感謝し、同時に重く受け止めた。


 改めて三人は、崩壊したビルを見てみる。

 ビルの崩壊はほぼ終了しており、立ち昇った土煙が少しずつ薄れ始めている。


「光剣型は……どうなったのでしょうか」


「あの爆発を至近距離で受けて、おまけにあの崩落に巻き込まれた。普通、生きているとは思えんがな……」


「ここからでは、何の気配も感じられないわね……」


「けど……確かめに行く勇気と気力は、ちょっと無いですね……」


「同感だ。私もお前も最初の光剣型との戦闘で、それなりに負傷している。この女は見ての通りの重傷だ。確認に行って復活でもされたら、もはや勝つことも三人無事に逃げ切ることも叶わんだろう。このまま撤退するぞ」


「了解です。いったんここから離れて、然るべき場所で飛空艇を呼びましょう。レディ・ミオン、肩をお貸しします」


「ありがとう、貸してもらうわね……」


 こうして三人は戦闘域を離脱するため、この場を後にした。


 崩れたビルでは、一陣の風が吹き抜けるのみ。

 瓦礫の中から光剣型が姿を現すような様子は、なかった。

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