第1367話 遺志を継いで
アメリカチームのテリーに続いてオフィーリアも、将軍型のレッドラムによって命を奪われてしまった。
この光景を、北園と本堂と、彼女たちと共にレッドラムを攻撃していたアメリカチームのカークが目撃していた。ちょうど周囲のレッドラムをあらかた片付け、これからオフィーリアの加勢に行こうとしていた、まさにその時だった。
「ああ……オフィーリアさんが……!」
「しまった、遅かったか……!」
「他ノレッドラムハ全滅カ。コチラモ多少ノ痛手ヲ負ワサレタ。ココハ退却サセテモラオウ」
そう言って将軍型は、自身の背後に開いた次元の裂け目の中へと入り、姿を消してしまった。すぐに次元の裂け目も閉じ、もう追跡は叶わない。
一応、これでこの場の戦闘は終了。
北園はすぐさまオフィーリアのもとへ駆け寄り、なんとか彼女を助けようとする。
本堂も北園の後を追おうとしたが、足を止めた。
彼の隣にいるカークの様子が、何か変だと感じたからだ。
「カーク軍曹? どうしました? 先ほどから何か、心ここに在らずといった様子ですが……」
「……う、ぐふっ……」
突然、カークが血を吐いて倒れてしまった。
見れば、彼の口だけではなく鼻からも血が噴き出し、目からは血涙が流れ出ている。
「か、カーク軍曹!? これは一体……!?」
「あ、ああ……クソ、そういう、ことかよ……」
「どうしたのですか……!? いったい何が……!」
「奴らの、毒……。激しく動いたら、一気に、悪化する……、……」
「カーク軍曹! しっかり……! ……く、駄目か……」
本堂に身体を支えられながら、カークも息を引き取ってしまった。
殺さず、生かさず。それがレッドラムの毒の性質だった。
つまり、これを無視して、必要以上に活きようとした者は、毒によって処分されるのだろう。
まるで、上げて落とすかのようだ。毒を受けても案外動けると思ったら、その認識の甘さの代償として命を要求してくる。
「レッドラムの毒が、マモノの毒より、最初だけ殺傷力が低い理由が把握できた気がするな。心底、質の悪い連中だ……」
表情はあまり崩さないながらも、嫌悪感を抑えきれないような様子で、本堂はつぶやいた。
その後、オフィーリアの治療に向かった北園が戻ってきた。
オフィーリアは、やはり助からなかったようだ。
そして北園が戻ってきた時、先ほどまで共に元気に戦闘を繰り広げていたはずのカークが死亡していることを知り、またショックを受けた。
この場における戦闘は終了したが、まだセントルイス攻略戦は続いている。ここでずっと悲しんでいるわけにはいかず、北園たちはすぐにでも行動を再開しなければならない。
カークの犠牲のおかげで、レッドラムの毒がどういう性質を持っているのかを知ることができた。北園たちはまず、毒を受けながらも生き残っている三人のアメリカ兵たちを、これからどうするか考えることに。
すると、一人のブレード兵が手を挙げて提案。
「君たちは先に進んで、すぐにでも戦闘を再開してほしい。こちらはこちらで、君たちの飛空艇に拾ってもらうことにしよう」
「で、でも、飛空艇を待っている間にレッドラムが襲ってきたら、危なくないですか? 皆さんが受けている毒は、皆さんが激しい運動をしたら一気に身体を蝕みます。レッドラムが皆さんを見つけて襲い掛かってきたら、これを撃退する行為そのものが命にかかわるんですよ? 飛空艇が来るまで、私たちが守ってあげた方が良いんじゃ……」
北園はブレード兵にそう意見するが、兵士は首を横に振った。
「その時はその時だ。なんとかする。我々を守るために君たちの手を割くなど、そっちの方が損失だ。そして、このレッドラムの毒とやらは、そういった損失をこちらに押し付けるための毒だ。ここで我々を守るために君たちの手を煩わせたら、それこそ連中の思うツボというのもの」
「それはたしかに、そうかもですけど……」
「心配しないでくれ。敵に見つからないよう身は隠すつもりだし、見つかったら見つかったで、射撃をメインにして戦うさ。その場で銃を撃つだけなら、激しい運動をせずとも指を動かすだけで実行できる」
兵士たちの意志は固い。
ならば、これ以上の問答は、それこそ時間の無駄だろう。
北園たちは、自分たちを少し無理やり納得させて、三人の兵士たちをこの場に置いていくことにした。
「お願いですから、どうか無事でいてくださいね……!」
「承諾した。お互い無事に生きて帰って、今夜にでもまた会おう」
兵士たちと別れた北園、本堂、シャオランの三人は再び、中央エリアを目指すレッドラムを遊撃するために動き出す。
すると、通りのど真ん中に、大きく真っ赤で宙に浮くキューブを発見。
この真っ赤なキューブ、六面のうちの一面に、大きな金色の瞳が付いていた。
これは目付きのレッドラムだ。
「KYLLLLLLL……」
キューブ型のレッドラムは、北園たちを発見すると、目が付いていない残りの五面からガトリング砲、ミサイルポッド、レーザー砲台などの様々な武装を展開。
一息のうちに武装満載な姿となったキューブ型のレッドラムは、見ているだけで圧倒されそうな、恐るべき威容だ。
しかし、北園たちは怯まない。
果敢にキューブ型に挑みかかり、攻撃を仕掛ける。
キューブ型と戦闘を行ないながら、北園と本堂そしてシャオランは、先ほどのアメリカチームの兵士たちについて考えていた。キューブ型への集中力が散ってしまわない程度に。
「テリーさんも、オフィーリアさんも、カークさんも、私たちを送り出してくれた三人の兵士さんたちも、みんな自分の死を恐れていないような感じだった。……ううん、恐れていないというよりは、自分の命よりも、もっと大事なものを守るために、そのために自分たちなりに戦おうとしていたような」
「自分の未来だけじゃなくて、家族や隣人、自分とは何の関係もない人、この星そのものの未来のために、自分の命をかけて戦ってくれる。今までもそんな感じで覚悟を決めた人たちはいたけどさ、ここまでたくさんの人たちが一丸になって覚悟を決めてるのはすごいよね……」
「あんな勇敢な姿を見せられては、こちらも否が応でも熱が上がる。彼らの遺志は俺達が引き継ぐ。このセントルイス攻略戦も、そして”最後の災害”も、必ず終わらせてみせよう」
決意を新たに、勇猛果敢にキューブ型に挑みかかる三人。
最後はシャオランが、キューブ型の金色の瞳に掌底を打ち込み、崩壊させた。
北エリアのレッドラムはだいぶ減少した。
現在ラプター戦闘機部隊を攻撃しているという北エリアの透明ミサイル砲台も、別の地上部隊が始末してくれたようだ。
もう間もなく、この北エリアは制圧が完了しそうである。




