第1365話 零距離射撃
シャオランが後方にて、毒を受けてしまった兵士たちを守る。
そして北園、本堂、オフィーリア、テリー、毒に苦しみながらも戦線復帰したカークの五人が、将軍型のレッドラムを仕留めるべく前進する。
カークの異能は”雷”。
ブレードから稲妻を発し、十メートル近い電気の刃を作り上げ、それを振るって攻撃する。
「おりゃああッ!! まとめて消し飛べぇぇッ!!」
長い雷の刀身が左から右へ、ビルの外壁を削りながら振り抜かれる。カークの宣言通り、四体のレッドラムが雷の刀身に巻き込まれ、まとめて消し飛ばされた。
さらに北園が”発火能力”と”電撃能力”でレッドラムたちを蹴散らし、それでも生き残った個体を本堂が狩る。
一瞬のうちにレッドラムの数が減少し、将軍型のレッドラムへの道が拓けた。まだ周囲のレッドラムの数は多いが、今なら一気に将軍型へ接近できる。
そこへ、オフィーリアとテリーが駆け出して、将軍型への接近を試みた。オフィーリアはダッシュしながら、北園たちへ声をかける。
「私とテリーが将軍型を攻撃するわ! 援護お願い!」
「りょーかいです! 囲まれないように、周りのレッドラムを追い払っておきますね!」
オフィーリアとテリーは、それぞれ一対一に向いた戦闘能力の持ち主であり、北園たちより殲滅力は劣る。この二人で将軍型を集中攻撃させ、殲滅力に長けた北園たち三人で周囲のレッドラムを抑え込む。
適材適所の役割分担。
できれば本堂も将軍型への攻撃に加わらせたいところだが、やはり周囲のレッドラムの数は多く、将軍型の影響により連携力が高まっている。北園とカークだけでは押し込まれるかもしれない。
一方で、オフィーリアとテリーが接近してくるのを見た将軍型は、自身の両側に、合わせて二つの次元の裂け目を開く。そして、その次元の裂け目にそれぞれ左右の腕を突っ込み、裂け目の中から武装を取り出した。
右手に握るのは、長大なライフル銃。
対物ライフルかと思うほどに銃身は大きく、バレルは長い。
バレル下部には銃剣も取り付けられている。
左手に握るのは、アサルトライフル。
これもまた巨大で、一抱えくらいもある大きさだ。
そんな大きな銃を、将軍型は左腕一本で携帯している。
「あれが、将軍型の武装……!」
オフィーリアがつぶやく。
将軍型が武装するのを見るのは、アメリカチーム全体で見ても、これが初めてのことだった。
これまで将軍型は、後方でレッドラムの指示を出すばかりで、自分で戦おうとはしてこなかった。だが、今は武装し、オフィーリアたちを迎え撃とうとしている。つまり、自ら武器を取らねばならない状況にまで追い込まれたということだろう。
「テリー! 絶対に逃がさないよ、奴をここで仕留める!」
「了解……!」
オフィーリアは銃剣付きの二丁拳銃を、テリーはショットガンを構えながら、駆ける速度をさらに高める。
将軍型は、左手に構えるアサルトライフルの銃口をオフィーリアたちに向けて、引き金を引いた。
その銃口から放たれたのは、実弾ではなくビームの粒のような光弾だった。しかしこの光弾、色が赤黒く禍々しい。恐らくは”怨気”を凝縮した弾丸だ。
ばら撒くように射出された”怨気”の光弾を、オフィーリアはスライディングでくぐり抜け、テリーは光弾と光弾のわずかな隙間へ飛び込みローリング。
二人が光弾を突破してきた隙を狙って、将軍型が右のライフルで射撃。このライフルから放たれたのも”怨気”の光弾だったが、まるで大砲の砲弾だ。アサルトライフルのそれより弾が大きく、速く、もちろん威力も高そうだ。
「テリー、気を付けてよ! あの”怨気”で受けた傷は、あなたの異能でも回復できないらしいわ!」
「分かってる」
二人はそれぞれ左右に分かれ、ライフルの弾丸を回避。
彼女らの間をくぐるように、光弾は通過していった。
ここでテリーが踏み込み、将軍型に肉薄する。
将軍型の銃器は、どちらも大きくて長物だ。つまり、懐に潜り込まれたら威力を発揮できず、取り回しも悪いであろうから、接近できれば一方的に攻撃できる。加えて、テリーの武器は近接射撃で威力を発揮するショットガン。
将軍型は、テリーを近づけさせないために、右のライフル銃を突き出した。そのバレルの下部に取り付けられた銃剣で、テリーを串刺しにするつもりだ。
この銃剣にも”怨気”が付与されている。
超再生能力を持つテリーでも、受けるわけにはいかない。
ギリギリまで引き付けてから、右にずれて回避した。
……しかし。
「馬鹿メ」
将軍型がつぶやいた。
同時に、銃剣が突き出されたその先に、小さな次元の裂け目が開く。
その小さな次元の裂け目に、銃剣の先端が突っ込まれる。
いつの間にかテリーの胸のあたりに、同様の次元の裂け目が開いている。
テリーの胸の近くの次元の裂け目から、銃剣の先端が飛び出てきた。
グサリ、という生々しい音が響く。
次いで、テリーが大量の吐血。
「が……ふっ……!?」
「テリー!?」
「次元の裂け目で……刺突の軌道を修正……したのか……」
将軍型が、テリーの身体から銃剣を引き抜く。
それに引っ張られるように、テリーの身体も前のめりに。
その流れで、テリーは将軍型の目の前へ。
そして、胸を貫く激痛に歯を食いしばって耐えながら、ショットガンを射撃した。
「喰らえ……!」
「グゥッ!?」
テリーの零距離射撃は見事に命中。将軍型のみぞおちのあたりに弾丸を食い込ませた。
将軍型は、もうテリーは倒れて息絶える、と油断していたのだろう。確かに彼の超再生能力は機能していないが、それでも彼は意地を見せた。
だが、それもここまで。
一発撃ち込むのが限界だった。
そして、胴体に弾丸を受けておきながらも、将軍型は健在。
「大した活躍は、できなかったか……。せめて、少しでも、勝利の布石になれたら良いが……」
「死ニゾコナイメ、サッサト黙レ!」
将軍型は、倒れたテリーの身体にアサルトライフルの銃口を押し付け、引き金を引く。
強烈な威力の光弾が次々と撃ちこまれ、テリーは血まみれになって絶命してしまった。